2024-12-31

統計

<その4>Cox比例ハザード解析やロジスティック解析における多変量解析: 多重共線性とはなんぞや

<その3>Cox比例ハザード解析やロジスティック解析における多変量解析では、組み入れることができる変数の数はどれくらい? の続きになります。見ていない方は、こちらへ。多重共線性の重要性多重共線性(Multicollinearity)とは、複数の独立変数が強い相関関係を持つ場合に発生する問題で、回帰分析のようなモデルにおいて以下の影響を及ぼします。独立変数の影響の正確な推定が難しくなる:回帰係数の分散が増加し、信頼区間が広くなる。解析結果の不安定性:サンプルや変数選択によって結果が大きく変わる。予測モデルの解釈性の低下:どの変数が実際にモデルに寄与しているかを判断しにくくなる。簡単にいうと、Coxやロジスティックモデルを用いた多変量解析で、複数の変数を組み入れるとき、相関係数が高い変数同士をモデルに入れると統計がおかしくなる可能性があるということです。多重共線性の確認方法と統計1.相関行列(Correlation Matrix):変数間の単純相関を確認する。相関係数(PearsonまたはSpearman)を計算し、高い値(一般的に0.7以上)が多重共線性の指標となる。2. VIF(Var...
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<その3>Cox比例ハザード解析やロジスティック解析における多変量解析では、組み入れることができる変数の数はどれくらい?

<その2>Cox比例ハザード解析やロジスティック解析における多変量解析の変数選択はどのように行うべきか? の続きになります。見ていない方は、こちらへ。多変量解析に組み入れることのできる変数の種類はいくつまで?多変量解析において、モデルが過剰適合(overfitting)するのを避けるためには、サンプルサイズと変数数のバランスが重要です。10~20イベント/変数(EPV: Events Per Variable)が一般的な目安です。例えば、100のイベントがある場合、5~10変数が推奨されます。イベント数が少ない場合、モデルの信頼性が低下します。イベントが少ない場合、Lasso回帰や縮小推定などの正則化手法を使用して変数を絞り込むことが推奨されます。具体例を挙げます。IPFの死亡率に関連する解析を行う場合、あなたのデータで30例の死亡があったとしましょう。年齢と性別、FVC、DLCO、喫煙歴、KL-6、体重などの7つのベースライン変数の中から死亡リスク因子となりうる変数を同定する多変量Cox解析を行うとします。死亡イベントが30しかないので、7つのベースライン変数を組み込むことはできませ...
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<その2>Cox比例ハザード解析やロジスティック解析における多変量解析の変数選択はどのように行うべきか?

<その1>Cox比例ハザード解析やロジスティック解析における多変量解析の変数選択はどのように行うべきか? の続きになります。見ていない方は、こちらへ。どうしても変数選択が必要な場合には何を使う?1. 事前知識に基づく変数選択(Clinical Knowledge-Driven Selection)概要医学的な事前知識や先行研究に基づいて、解析に含める変数を選択します。メリット科学的妥当性が高い。過剰適合(overfitting)のリスクが低い。結果の解釈が容易。デメリット知識やエビデンスが乏しい分野では利用が難しい。潜在的な交絡因子を見逃す可能性がある。使い分け臨床研究や治療介入試験で、主要な因子を特定する際に使用。使用例臨床研究: 特定の疾患の主要なリスク因子を調査する研究。治療介入試験: 介入効果に影響を与える可能性のある因子(年齢、性別など)を調整。2. 全変数投入(Enter Method, Forced Entry)概要全ての候補変数をモデルに含め、変数の独立した影響を評価します。メリット変数選択による偏りが生じない。結果が再現性高く解釈が簡単。デメリット過剰適合のリスクがあ...
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<その1>Cox比例ハザード解析やロジスティック解析における多変量解析の変数選択はどのように行うべきか?

Cox比例ハザード解析やロジスティック解析における多変量解析の変数選択は、研究の目的やデータ特性によって異なりますが、一般的な選択基準の妥当性が高い順に以下のように整理できます。1.事前に定義された研究目的や仮説に基づく選択(優先度:高)目的: 既存の知見や文献レビューから、研究目的に合致する重要な変数を明確にする。利点:研究の焦点を絞り込む。過剰なデータ操作による誤った結果を防ぐ。例:臨床的に重要とされるリスク因子(例: 年齢、性別、基礎疾患)。研究の仮説を検証するために必要な変数。2.文献やガイドラインに基づく選択(優先度:中-高)目的: 過去の研究でリスク因子として確認されている変数を考慮。利点:信頼性が高い。既存知見と結果を比較しやすい。注意点:ガイドラインや文献は地域や患者特性によって異なる場合があるため、対象集団に合うか検討が必要。3.専門家の意見や臨床的知見に基づく選択(優先度:中)目的: 研究者や専門家が臨床的に重要と考える変数を選ぶ。利点:実務的な意味のある結果を得られる可能性が高い。課題: 主観的な偏りが生じるリスクがある。4.データ駆動型アプローチによる選択(優先...
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Nested case–control studies(ネストした症例対照研究)

Nested case–control studies(ネストした症例対照研究)とは、疫学研究でよく用いられる手法であり、特徴的なアプローチを持っています。以下に手法を解説します。概要定義: 大規模なコホート研究内で、発生した症例(アウトカムを経験した人)と、アウトカムが発生しなかった対照を選び出し、詳細な解析を行う手法。特定のリスク要因(曝露)とアウトカムの関連性を効率的に調べる。特徴:研究対象はコホート内の一部に限定されるため、通常の症例対照研究よりもバイアスが少なく、効率的。対照は症例と同じコホート内からランダムに選ばれる。コホート研究の中で症例を「ネスト」する(埋め込む)形で実施される。メリット効率的: コホート全体を解析せず、対象を症例と対照に絞るため、コストやリソースを節約できる。交絡因子の調整: 対照群が同じコホート内から選ばれるため、交絡因子(年齢や性別など)の分布が症例群と類似している。信頼性: コホート全体から選んだ症例と対照のデータがもとになるため、選択バイアスが少ない。デメリット時間とリソースの制約: コホート研究が前提のため、コホートデータがなければ実施できな...
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Self-Controlled Case Series(自己対照症例シリーズ)

self-controlled case series(自己対照症例シリーズ)とは、疫学研究でよく用いられる手法であり、特徴的なアプローチを持っています。以下に手法を解説します。概要定義: 研究対象者自身を「対照」として用いる手法であり、アウトカムが発生した期間(リスク期間)とアウトカムが発生しなかった期間を比較する。曝露(例: ワクチン接種)が特定の時間枠内でアウトカムに影響を与えるかを検証する。特徴:被験者は全員がアウトカムを経験している。。個人内でリスク要因とアウトカムの関連を評価するため、個人間の交絡因子の影響を排除できる。メリット交絡因子を排除: 年齢、性別、遺伝的要因など、個人間の違いを完全に除外できる。高い効率性: 対照群を設定する必要がなく、症例データのみで解析可能。時間依存性の解析に適合: 特定のリスク期間(曝露後の一定期間など)の影響を直接評価可能。デメリット全てのアウトカムには適用不可: アウトカムが再発しない事象(例: 死亡)では適用困難。解析が複雑: 時間枠やリスク期間の設定が不適切だと、結果が正確でなくなる可能性がある。リスク期間の仮定: 曝露とアウトカムの...
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逆確率重み付け法(Inverse Probability Treatment WeightingIPTW)と傾向スコアマッチング

IPTW(Inverse Probability Treatment Weighting)と通常の傾向スコアマッチング(Propensity Score Matching, PSM)は、いずれも傾向スコア(propensity score)を用いて交絡因子を調整し、観察研究で因果推論を行うための手法です。しかし、アプローチや特性、結果に至る過程にいくつかの重要な違いがあります。傾向スコアマッチング(PSM)の概要手法:傾向スコアを用いて、治療群の患者と交絡因子が似た非治療群の患者を1対1、または1対多でマッチングします。マッチング後のペアを用いて治療効果を推定します。具体的な手順:傾向スコアを計算。傾向スコアが近い治療群と非治療群の患者をマッチング。マッチングされたデータセットを用いて治療効果を推定。目的:治療群と非治療群の交絡因子をバランスさせ、治療効果の「平均処置効果(ATE)」や「処置群における平均処置効果(Average Treatment Effect on the Treated, ATT)」を評価。IPTWの概要手法:傾向スコアを用いて各患者に「重み」を割り当て、全データ...
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喘息

吸入ステロイド薬の用量と有害事象の発生頻度の関連(Bloom CI, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2024.)

Association of Dose of Inhaled Corticosteroids and Frequency of Adverse Events.引用文献吸入ステロイド薬(ICS)は、呼吸器症状や肺機能の改善させ、喘息発作を予防し、死亡率を低下させるので、喘息治療ののキードラッグと言えます。ガイドラインでは、良好な喘息コントロールを達成するために、可能な限り最小の用量を処方することが推奨されてます1 2。ICSの最大の効果の80~90%は、低用量ICS(フルチカゾン換算で100–200 μg)だけで達成されると考えられています3 4。しかし、臨床現場では、低用量で十分にコントロール可能な患者に対して、過剰に高用量のICSが継続されることが結構あります 5。経口ステロイドの副作用として、心血管疾患、骨粗鬆症、白内障、副腎抑制、肥満、糖尿病などがあるので、我々はなるべく使用量や使用期間を最小限にしようとしています。しかし。ICSに関する最近の研究では以下の点が報告されています。複数のランダム化臨床試験から得られた視床下部-下垂体軸データに基づき、高用量ICSの約3分の2が全身的...
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