学び系間質性肺疾患関連ガイドライン

間質性肺疾患(ILD)の診断の流れ

Idiopathic Pulmonary Fibrosis (an Update) and Progressive Pulmonary Fibrosis in Adults: An Official ATS/ERS/JRS/ALAT Clinical Practice Guideline. Am J Respir Crit Care Med. 2022 May 1;205(9):e18-e47.

間質性肺疾患(ILD)の診断、どこから始める?

まず最初に!
☑️ 「急性の呼吸不全」や「急速な悪化」がないかをチェック!
→ ある場合は迅速な検査&治療が必須!

原因検索!
☑️ 二次性?特発性?
二次性なら基礎疾患の治療を優先、特発性なら詳細分類へ。

HRCTでUIPパターンを評価!
☑️ UIP=IPFではない! 他疾患の可能性も慎重に考慮。
☑️ UIPやProbable UIP以外なら クライオバイオプシーや外科的肺生検 も選択肢!
→ ただし、患者の耐術能を慎重に評価 することが重要。

診断が難しいときは?
☑️ MDD(多専門家会議)を活用!
複数の専門家で診断精度をUPし、不要な侵襲的検査を回避。

研修医や専攻医、医学生さんに向けてわかりやすく解説します。

ILD患者さんの受診理由

間質性肺疾患(ILD)は、以下のような理由で発見されることが多いです。

  1. 胸部異常影の精査
    • 健診で異常所見を指摘された
    • がんや膠原病の診療中に胸部CTで発見された
  2. 呼吸困難感や咳嗽などの症状
    • 自覚症状があり受診し、CTで異常所見を指摘される

まず最初に確認すべきこと!

🔴 患者さんが「急性の呼吸不全」や「急速進行性の病態」ではないかを評価
これらのケースでは迅速な精査と治療が必要です!

急性増悪の可能性も考慮し、低酸素血症や短期間での呼吸状態や画像の悪化傾向があれば入院での精査加療が望ましいです。
状態を判断して適切な対応を行いましょう。


まずは原因検索!二次性か、特発性か?

次に重要なのは、「この間質性肺疾患に明らかな原因があるか?」 という点です。

✅ 原因がある場合(=二次性ILD)
→ 薬剤性、膠原病関連、過敏性肺炎(HP)、放射線性肺臓炎、血管炎などを考える。
→ まずは原因疾患を特定し、それに応じた治療を検討!

✅ 原因がない場合(=特発性間質性肺炎:IIP)
→ 胸部HRCTや病理検査に基づいてさらに詳細な分類を行う。

ここで重要なのは、問診・身体診察・血清学的検査をしっかり行い、原因検索を徹底すること です。


主な鑑別疾患:日常診療でよく遭遇するもの

詳細は図のリストを参照してください。
以下に遭遇しやすい疾患を列挙します。

おまけ:

IPAF(interstitial pneumonia with autoimmune features、自己免疫性特徴を有する間質性肺炎)の概念は、2015年にERS/ATS/APSR/ALATの国際ガイドラインで提唱されましたが、現時点では確立した疾患単位とは言い難い状況です。

✅ IPAFは現時点では研究的なカテゴリーにとどまり、独立した疾患概念としての確立には至っていません。
IPAFの診断で治療方針を決定するべきではなく、個々の病態に応じた管理が求められます。

明らかな膠原病の発症が認められない場合はIIPとして管理し、膠原病が発症した場合にはCTD-ILDの治療指針に準じるのが適切と考えられます。
この点については、原著論文にも明確に記載されています

したがって、IPAFは臨床の診断補助として参考になるものの、現時点では治療指針として直接適用するのは時期尚早と考えられます。

近年、学会や研究会において「IPAFと診断し、●●治療を行った」といった発表が見られることがありますが、IPAFの概念の現状を踏まえると、このような発表のあり方は慎重に検討すべきです 今後、IPAFの臨床的意義や最適な治療戦略を明確にするためには、さらなる研究が必要とされます。

Fischer A, Antoniou KM, Brown KK, Cadranel J, Corte TJ, du Bois RM, et al. An official European Respiratory Society/American Thoracic Society research statement: interstitial pneumonia with autoimmune features. Eur Respir J. 2015;46(4):976-87.

特発性間質性肺炎(IIP)代表的なもの

  • 特発性肺線維症(IPF):最も重要な疾患。UIPパターンが特徴。
  • 非特異性間質性肺炎(NSIP):線維化が均一で予後が比較的良い。
  • 特発性器質化肺炎(COP):比較的急性に進行し、治療反応性が高い。
  • PPFE(pleuroparenchymal fibroelastosis):胸膜直下の線維化が特徴。
  • 分類不能型IIP:検査が不十分で確定診断に至らない場合や、画像および病理学的評価が極めて困難な症例はこのカテゴリーに分類されます。実臨床では、診断の難しさから多くの症例がこの分類不能に該当する可能性が高く、この点は特に重要です。

二次性ILDの主な原因

  • 膠原病関連ILD(CTD-ILD)(関節リウマチ、強皮症、皮膚筋炎など)
  • 過敏性肺炎(HP)(鳥やカビの抗原などが原因)
  • 薬剤性肺炎、放射線性肺臓炎
  • 血管炎関連ILD(顕微鏡的多発血管炎など)

病院の特徴によって頻度は変わる!
施設の特性によって診断されるILDの種類が変わることにも注意が必要です。
例えば、がん専門病院では 薬剤性肺炎や放射線性肺炎 の割合が多くなり、膠原病診療を積極的に行っている施設では 膠原病関連ILD が多くなる傾向があります。


診断の流れ:IPFの診断アルゴリズムを応用!

まず、前述のとおり ILDの原因検索 が診断の第一歩となります。問診や身体所見を徹底し、特に 呼吸器外症状や膠原病関連自己抗体の評価 を行い、二次性ILDの可能性を精査することが重要です。

呼吸器外症状の評価 では、以下の専門科へのコンサルトが不可欠です。

  • 膠原病内科(膠原病・血管炎の全般)
  • 皮膚科(皮膚筋炎、強皮症、血管炎、サルコイドーシス などを考慮した場合)
  • 耳鼻科(顕微鏡的多発血管炎 などを考慮した場合)
  • 眼科(サルコイドーシス などを考慮した場合)

もし膠原病内科がない場合は、皮膚科の先生に相談するのも有用 です。その際、診てもらいたいポイントをリスト化しておき、紹介状作成時に活用するとスムーズ でしょう。

また、膠原病・血管炎関連の特異的抗体や鳥関連抗体の評価 も、症状や病歴に応じて検討が必要です。
💡 電子カルテに検査セットを事前に登録しておくと、オーダーが効率的に進められます。

二次性の疾患が診断された場合 → その疾患に応じた治療を検討
明らかな原因が見つからない場合特発性間質性肺炎(IIP) を考え、さらに分類

次のステップでは、胸部HRCTの評価 に進みます。
💡 特にUIPパターンの判定が診断のカギを握るため、詳細な評価が必要 です。(UIPパターンの解説は、前回のブログを参照してください。→<こちら>


次のステップ:HRCTでUIPパターンを評価

UIPパターンの場合

IPFを考える場合、 HRCTでUIPパターンの評価が必須です!
(UIPパターンの解説は、前回のブログを参照してください。→<こちら>

しかし、UIPパターンはIPFに特異的というわけではない ため、慎重に判断する必要があります。

UIPパターンを呈する主な疾患

✅ Fibrotic hypersensitivity pneumonitis(HP-UIP) → モザイクパターンや気腫様変化が混在
✅ CTD-UIP → 線維化が均一に広がる傾向
✅ 環境曝露によるILD(粉塵や有機物暴露)

いずれも 二次性ILDに分類される疾患 であり、UIPパターンだからといって即座にIPFと診断することはできません。

したがって、HRCT所見の詳細な評価を行うと同時に、二次性ILDの可能性を徹底的に精査することが重要 です。


HRCTでUIPパターン以外の場合には?

HRCTパターンは以下の 4分類 に整理されます。

1️⃣ UIPパターン
2️⃣ Probable UIPパターン
3️⃣ Indeterminate for UIPパターン
4️⃣ Alternative Diagnosis

Probable UIPの場合

2022年の国際ガイドラインでは、UIPとProbable UIPの統合が議論されましたが、最終的に区別が維持されました。その理由として、以下の点が挙げられます​。

  • 組織学的適合性の高さ: Probable UIPパターンの約80~85%は組織学的にもUIPと一致することが確認されています。しかし、これは専門施設におけるデータに基づくものであり、一般臨床で同様の診断精度が得られるとは限らない。
  • 生存率の違い: 一部の研究で、Probable UIPの患者はUIPと比較して生存率がやや良好である可能性が示唆されており、両者の統合によって予後の推定精度が低下する可能性がある。
  • 診断精度の問題: Probable UIPはHRCT画像上でHPや他の線維化性ILDと鑑別が困難なケースがあり、統合すると誤診のリスクが増加する可能性がある。
  • 線維化の程度による影響: 若年患者や線維化が軽度の患者では、Probable UIPの診断精度が低下する可能性があるため。

しかし、重要な点もあります。
それは、Probable UIPパターンであっても、多専門家会議(MDD)によって、外科的肺生検なしにIPFと診断できるようになったことです​。これは、HRCT上のUIPパターンとProbable UIPパターンの患者が、臨床経過や治療反応性において類似していることを根拠としています。わかりにくいですね。

要するに、UIPとProbable UIPの区別は引き続き維持されるものの、臨床診断の柔軟性が高まり、MDDを活用することで生検なしにIPFと診断できるケースが増えたと整理することができます。

Indeterminate for UIP、Alternative Diagnosisの場合

気管支肺胞洗浄(BAL)、クライオバイオプシー(TBLC)、外科的肺生検(SLB)を用いて、肺の組織診断を行うことができます。
しかし、これらの検査は侵襲性が伴うため、適応は慎重に検討する必要があります。
実臨床では、比較的低侵襲なBALやTBLCが選択されることが多いですが、患者の全身状態や診断の明確化が求められる場合には、耐術能を考慮した上でSLBを検討することも重要です。


病理所見の評価

今回は病理の詳細については割愛しますが、組織学的なUIPパターンについては以下の通りです。
放射線学的なUIPパターン(HRCT-UIP)と混同しないでくださいね。

UIPの組織病理学的特徴

UIPの確定診断には以下の組織学的所見が必要!

✅ 不規則な線維化(patchy dense fibrosis)と構造の破壊(architectural distortion)
✅ 胸膜下および隔壁周囲の優位性(subpleural and paraseptal predominance)
✅ 線維芽細胞巣(fibroblast foci)
✅ 他の疾患を示唆する所見がない(absence of alternative diagnosis)


TBLCの役割

2022のガイドラインでは、SLBの代替手段として認める条件付き推奨が示されています。
ただし、この検査を安全かつ適切に行うには高度な専門技術が必要なため、実施できるのは経験豊富な専門施設に限られます。

クライオバイオプシーの診断精度

クライオバイオプシーは、原因不明のILDの診断において、約79%の診断精度があると報告され、。
また、SLBと比較すると、診断の一致率は約70.8%となっていますが、サンプル数を増やすことで診断精度が向上する可能性があると考えられています。
つまり、適切な施設で十分なサンプルを採取すれば、診断の確実性が高まるということですね。


クライオバイオプシーの合併症リスク

この検査にはいくつかのリスクもあるため、慎重に実施する必要があります。

🔹 気胸のリスク:肺に穴が開いてしまう「気胸」が約9%の確率で発生すると報告されています。
🔹 出血のリスク:通常の経気管支生検よりも大きな組織片を採取するため、出血の可能性が高くなります。

これらの合併症を防ぐためにも、適切な技術や標準化された手順のもとで行うことが重要です。



MDD(Multidisciplinary Discussion、多専門家会議)とは?

MDDは、ILDの診断精度を向上させるために、複数の専門分野の医師が協力して診断を行うプロセスを指します。特にIPFなどの線維化性肺疾患の診断において重要な役割を果たします。

MDDの構成メンバー

通常、以下の専門家が参加します:

  • 呼吸器内科:臨床経過や治療方針を評価
  • 放射線科医:HRCT画像の読影・診断
  • 病理医:組織検査結果の評価(病理組織がある場合)
  • 可能ならリウマチ専門医(Rheumatologist)(膠原病の可能性がある場合)

MDDの目的

  1. HRCT画像、病理結果、臨床所見を総合的に評価する
    → 例えば、「Probable UIP」の場合でも、他の疾患(膠原病関連ILDや過敏性肺炎)を除外し、IPFとして診断できるかを判断する。
  2. 診断の確度を高める
    → 単独の診断手法(画像・病理・臨床情報)それだけでは診断が難しいケースにおいて、MDDにより統合し、診断の一貫性を向上させる。
  3. 侵襲的検査(外科的肺生検など)の回避
    → MDDを経ることで、確定診断に達した場合は不要な外科的肺生検を避けられる。2022年のIPF診断ガイドラインでは、Probable UIPパターンでもMDDを通じてIPFと診断可能とされている​。

MDDの臨床的意義

  • 診断の一貫性と正確性を向上
  • 不必要な侵襲的検査を回避
  • 治療方針の決定をサポート
  • 異なる専門家の意見を統合し、より適切な診療を提供

MDDは、間質性肺疾患の診断において標準的なプロセスとなっており、特に不確実なケースでは不可欠なツールとされています。

まとめ


  • ILDは、健診や他の病気の診療中に偶然発見されることが多いですが、まず 「急性の呼吸不全」や「急速に悪化している状態」 ではないかを確認することが最優先です。これらのケースでは迅速な検査と治療が必要になります。
  • 次に、原因検索 を行い、二次性か特発性かを判断します。二次性ILDなら原因となる病気の治療を優先し、特発性の場合はさらに分類を進めます。
  • 診断の鍵を握るのは HRCTです。UIPパターンがあればIPFを疑いますが、UIPパターンだからといって即IPFと決めつけるのは危険。他の疾患の可能性を慎重に考慮する必要があります。
  • UIPパターン(または場合によってはProbable UIPパターン)以外 の場合、病理組織学的検査を検討します。その際には、患者の耐術能を十分に評価 した上で、適応を慎重に判断することが重要です。
  • 診断を確実にするために MDDを活用することが重要です。複数の専門家が協力することで、より正確な診断ができ、不要な侵襲的検査を回避できることもあります。

ポイントは、二次性の鑑別、HRCTの詳細な解析、MDDの活用です!
この流れを意識して診断を進めることで、より適切な診療が可能になります。

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