Similar Weaning Success Rate with High-Intensity and Sham Inspiratory Muscle Training: A Randomized Controlled Trial (IMweanT). Van Hollebeke M, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2025.
まず最初にまとめからいうと

「高強度IMT(Hi-IMT)でも低強度IMT(Lo-IMT)でも、呼吸筋機能は改善するが、ウィーニング成功率に差はなかった。」
📝 研究結果の要約
- Hi-IMTとLo-IMTの間でウィーニング成功率や最大吸気圧(PImax)の改善に有意差なし
- 両群ともPImaxは有意に改善
- Hi-IMT群: +15 cmH₂O (95% CI: 10, 20)
- Lo-IMT群: +14 cmH₂O (95% CI: 9, 19)
- 群間での有意差なし (P=0.55)
- FVC(努力性肺活量)の改善はHi-IMT群の方が大きかった
- Hi-IMT群: +0.33 L (95% CI: 0.23, 0.43)
- Lo-IMT群: +0.16 L (95% CI: 0.07, 0.24)
- 群間で有意差あり (P=0.02)
- 低強度IMTでも一定の効果があり、過度な負荷設定は必須ではない可能性
⚠️ 研究の限界
- 通常ケア群との比較がないため、IMTの本質的な効果を評価しきれない
- Lo-IMT群の負荷が予想より高く、純粋なシャム対照としての妥当性に疑問
🔍 今後の課題
✅ 通常ケア vs. IMTの直接比較で本当の効果を検証
✅ 長期間のIMTの影響を評価する研究が必要
✅ 個別の負荷設定を最適化し、患者ごとに適切な介入方法を確立
IMTはウィーニング困難な患者に有益な可能性あり。ただし、「どの負荷が最適か?」が今後の研究の鍵。 🏥💡

- 人工呼吸器からの離脱、つまりウィーニングは、重症患者にとって大きな課題です。実際にウィーニングを試みた患者の最大35%が失敗し、その結果、ICUや病院での入院が長引き、死亡リスクも上がることが報告されています。
- ウィーニングがうまくいかない原因はいくつかありますが、その中でも特に呼吸筋の筋力低下が大きな要因と考えられています。長期間人工呼吸を受けている患者では、60%以上が呼吸筋の機能低下を経験するとされており、これがウィーニングを難しくしているのです。
- つまり、ウィーニングを成功させるには、呼吸筋をできるだけ維持・回復させることが重要だということです。

- 人工呼吸器からの離脱を助ける方法の一つとして、「吸気筋トレーニング(IMT)」が注目されています。
- IMTは、呼吸筋の力を強くし、最大吸気圧(PImax)を向上させることで、人工呼吸器の離脱を促進する可能性があると考えられています。
- ただし、これまでのIMT研究にはいくつかの課題がありました。
- IMTのやり方が研究ごとに異なっているため、一貫した効果を評価しにくい。(負荷強度が10~50% PImaxと幅広く、トレーニング機器もさまざま)
- シャム対照(プラセボ)を用いた研究が少ないため、IMTの本当の効果がどの程度なのかがはっきりしない。多くの研究は、通常の標準治療との比較のみで行われている。
- ウィーニング困難な患者に特化した研究が少ないため、この集団に対してIMTがどれほど有効かが十分に検討されていない。

- この研究では、高強度IMT(Hi-IMT)とシャム低強度IMT(Lo-IMT)を比較し、ウィーニング成績やICU滞在期間、呼吸筋・肺機能への影響を調べました。
- 著者らは、『Hi-IMTのほうが呼吸筋機能を改善し、ウィーニング成功率を高め、ICU滞在期間を短縮するのでは??』と仮説を立てています。
- 本研究の特徴は、シャム対照群を設定したことにあります。 これにより、「IMTが本当に効果があるのか、それとも通常のリハビリの影響なのか」という疑問に対する新たな知見を提供できる可能性があります。それではこの研究を勉強してみます。
背景
- 吸気筋トレーニング(IMT)は、ウィーニング困難な患者において呼吸筋機能を改善するとされています。
- IMTのプロトコルでは、外部負荷に対して毎日一定回数の呼吸を行うことが求められます。
- しかし、シャム対照(偽の低強度介入:つまり見た目上はIMTっぽくやっているが、実際の負荷は少ない)を含めた場合のIMTがウィーニング転帰に与える影響については、まだ明確になっておりません。
目的
- ウィーニング困難な患者において、高強度IMT(Hi-IMT)とシャム低強度IMT(Lo-IMT)を比較し、ウィーニング転帰、呼吸筋機能、および肺機能に対する影響を評価することを目的としました。
- 評価は、対象者の登録から28日後に実施しました。
方法
両群とも、ウィーニングの成功または最大28日間にわたって毎日IMTを実施しました。
- Hi-IMT群(44名、男性61%、平均年齢57±15歳)は、残気量から最大吸気を行い、最大吸気圧(PImax)の30~50%の負荷をかけるトレーニングを行いました。
- Lo-IMT群(46名、男性52%、平均年齢60±12歳)は、PImaxの10%以下の負荷で最大吸気を行いました(シャム対照群)。
最大吸気圧(PImax)とは、呼気位から最大限の吸気努力を行った際に口腔内で測定される圧力のことです。これは、呼吸筋、特に横隔膜の筋力を評価する指標として用いられます。
測定および主要な結果
- トレーニングの遵守率(完了セッション数/計画セッション数)は、Hi-IMT群77±20%、Lo-IMT群72±17%と両群で類似(P=0.25)。
- ウィーニング成功率は、Hi-IMT群64%、Lo-IMT群76%であり、統計的な有意差なし(P=0.43)。
- ウィーニングに要した日数は、Hi-IMT群45±48日、Lo-IMT群37±26日であり、両群間に差なし(P=0.33)。
- 最大吸気圧(PImax)の改善度も、Hi-IMT群+15 cmH₂O(95%信頼区間: 9~20)、Lo-IMT群+14 cmH₂O(95%信頼区間: 9~19)とほぼ同等(P=0.72)。
- 努力性肺活量(FVC)の改善度は、Hi-IMT群+0.33 L(95%信頼区間: 0.22~0.43)、Lo-IMT群+0.16 L(95%信頼区間: 0.07~0.25)となり、Hi-IMT群のほうが有意に改善(P=0.04)。
結語
- 高強度IMTおよびシャム低強度IMTのいずれにおいても、高い遵守率のもとでウィーニング成功率は同程度であり、最大吸気筋力の顕著な向上が認められました。
- しかし、高強度IMTはFVCの改善において、より大きな効果を示しました。
- この結果は、ウィーニング困難な患者に対するIMTの効果を評価する上で重要な知見となり、高強度IMTが呼吸機能の改善に寄与する可能性を示唆しています。
補足

研究デザインのポイント
- 単一施設ランダム化比較試験であり、ウィーニング困難な人工呼吸器患者が対象
- 人工呼吸管理中の患者を1:1でHi-IMT群とLo-IMT群に割り付け
- 患者・医療スタッフ・評価者は盲検化されている(理学療法士のみ介入群を認識)
IMT(吸気筋トレーニング)のプロトコル概要
介入の詳細
- Hi-IMT群(高強度IMT)
- 負荷:PImaxの30~50% から開始し、毎日、耐えられる最大負荷に調整。
- 目標:
- FVCの約70%の肺活量増加を達成する。
- 呼吸努力・呼吸困難感スコア(修正Borgスケール)を4~6/10に維持
- Lo-IMT群(低強度IMT/シャム対照群)
- 負荷はPImaxの最大10%に固定。
- 呼吸努力や呼吸困難感に関係なく調整せず、最小限の負荷で実施。
- トレーニング方法(両群共通)
- 毎日IMTを実施。
- 1セット6~10回の吸気・呼気を4セット(合計32回の呼吸)。
トレーニングの評価と安全管理
- 各セッション後に以下を評価
- 呼吸努力
- 呼吸困難感
- 不快感(視覚アナログスケール)
- バイタルサインのモニタリング
- 安静時およびIMT中に測定し、IMT前後で記録。
- 以下の場合、トレーニングを中止
- 耐えがたい呼吸困難
- 酸素飽和度(SpO₂)<85%
- 持続的な咳嗽
介入期間
- 最大28日間 またはウィーニング成功、死亡に至るまで 継続

このように、Hi-IMT群ではより高い負荷で呼吸筋を鍛える一方、Lo-IMT群は最小限の負荷で実施され、シャム対照としての役割を果たしたという点が、本研究の重要なポイントです。

- 本研究では、Hi-IMT群とLo-IMT群の間でウィーニング成功率やPImaxに有意差は認められませんでした。
- しかし、PImaxとFVCは両群ともにベースラインと比較して有意に改善しており、IMTの負荷の強さに関わらず、IMTを行うこと自体に意義があることが示唆されました。
- また、FVCの改善度はHi-IMT群の方が有意に高いことが明らかになりました。
PImaxの改善
- Hi-IMT群: +15 cmH₂O (95% CI: 10, 20)
- Lo-IMT群: +14 cmH₂O (95% CI: 9, 19)
- 両群とも95%CIが0より大きいので、有意な改善がみられましたと言える。群間での有意差はなし (P=0.55)。
FVCの改善
- Hi-IMT群: +0.33 L (95% CI: 0.23, 0.43)
- Lo-IMT群: +0.16 L (95% CI: 0.07, 0.24)
- 両群とも95%CIが0より大きいので、有意な改善がみられましたと言える。FVCの改善量はHi-IMT群の方が有意に大きかった (P=0.02)。
まとめ

個人的な感想です
- 呼吸筋の強化自体は、低強度IMTでも一定程度達成できる可能性がある。
- Hi-IMTの方がFVCの改善は大きかったが、PImaxの改善には両群で大きな差はなかった。つまり、必ずしも高強度IMTを行わなくても、適切な呼吸筋トレーニングを継続することで機能回復は期待できる。
- この結果は、ウィーニング困難な患者に対してIMTの負荷を過度に高めなくても一定の効果が得られる可能性を示唆しており、患者の状態に応じた個別の負荷設定が重要であることを示している。