循環器と呼吸器の間には、昔から 「肺炎か心不全か問題」 という議論があります。これは、どちらの診療科が担当するべきかという問題に直結します。
しかし、実際には肺炎が主なのか、心不全が主なのかを明確に区別することは難しく、多くのケースで両者が併存し、その重症度が相互に影響し合っています。
診断は単純に白か黒かではなく、むしろグレーゾーンの中にあり、最終的には 「白に近い灰色か、黒に近い灰色か」 という判断になります。
そして、どちらの診療科がもともとの主治医か、あるいは診療体制のマンパワーによって、実際の担当科が決まるのが現状でしょう。
近年、これと同様の問題として 肺高血圧(PH)の「1群か3群か問題」 も浮上しています。
たとえば、COPDや間質性肺疾患(ILD)のある患者にPHが認められる場合、基礎疾患の重症度が高ければ3群(呼吸器疾患に伴う肺高血圧)と分類されますが、軽症であれば3群とは言い切れず、むしろ1群(肺動脈性肺高血圧症:PAH)の可能性も考慮されます。
そのため、呼吸器内科では 「3群とは断定できないケース」 では循環器内科に相談するのですが、ここでも 「1群か3群か問題」 が生じることになります。
この分類の違いは治療方針に直結するため、これまでは 「どの診療科が担当するか」「どのように治療するか」 について議論が続いてきました。

しかし、最近では トレプロスト®吸入液が、PAH(1群)だけでなくILDに伴うPH(3群)にも保険適用となり、少なくともILDを伴うPHに対する治療方針について一定の方向性が見えてきた と言えるでしょう。
今後、この問題についての診療科間の議論も、少しずつ整理されていくのではないでしょうか。
過去のトレプロストに関する記事↓
<こちら1>
<こちら2>
<こちら3>
<こちら4>
<こちら5>
肺高血圧症(PH)の分類とざっくりとした治療方針

1群、3群の一部、4群では、肺移植が考慮されるケースもありますね。
分類 | 主な原因 | 使用される治療法・薬剤(商品名含む) |
---|---|---|
第1群: 肺動脈性 (PAH) | 特発性 遺伝性 薬剤誘発性 他の疾患と関連 ・膠原病 ・HIV感染 ・門脈圧亢進 ・先天性疾患 ・住血吸虫 ・その他 | – エンドセリン受容体拮抗薬(ERA) - ボセンタン(トラクリア®) - アンブリセンタン(ヴォリブリス®) - マシテンタン(オプスミット®) – ホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5i) - シルデナフィル(レバチオ®) - タダラフィル(アドシルカ®) – 可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬(sGC刺激薬) - リオシグアト(アデムパス®) – プロスタサイクリン類似薬 - エポプロステノール(フローラン®) - イロプロスト(ベンタイビス®) - トレプロスチニル(トレプロスト®吸入液) – 選択的プロスタサイクリン受容体(IP受容体)作動薬 - セレキシパグ(ウプトラビ®) |
第2群: 左心性心疾患に伴う | 左室収縮不全 左室拡張不全 左心弁膜症など | – 基礎疾患(左心不全・弁膜症)の治療 |
第3群: 呼吸器疾患 低酸素血症に伴う | COPD 間質性肺疾患 睡眠時無呼吸症候群 | – トレプロスト吸入液(間質性肺疾患に伴うPHに適応) – 長期酸素療法(低酸素血症を伴う場合) – 基礎疾患(COPD・ILD)の治療が最優先 ※ 1群PAH治療薬のほとんどが推奨されない → 低酸素による肺血管収縮が関与するため、 血管拡張薬が病態を悪化させる可能性がある |
第4群: 慢性血栓塞栓性 (CTEPH) | 慢性肺血栓塞栓 | – 抗凝固療法 - ワルファリン、DOAC(ダビガトラン®、リバーロキサバン®) – 外科的肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)(適応がある場合) – 経皮的バルーン肺動脈形成術(BPA)(適応がある場合) – リオシグアト(アデムパス®) – セレキシパグ(ウプトラビ®) |
第5群: 原因不明の 複合的要因 によるもの | 血液疾患 全身性疾患 代謝性疾患 | – 基礎疾患(血液・代謝性疾患など)の治療が最優先 – PAH治療薬の効果が期待できる場合もあるが、個々の患者の状態に応じて慎重に検討 |
主なポイント
- 第1群(PAH)で使用される薬剤の多く(ERA・PDE5i・sGC刺激薬・プロスタサイクリン類似薬)は、第3群(呼吸器疾患に伴うPH)では推奨されない。
- 第3群(呼吸器疾患に伴うPH)において、近年トレプロスト®吸入液がILDに伴うPHの適応となり、一部の治療選択肢が拡がった。

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