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ガイドライン間質性肺疾患肺癌や悪性腫瘍いろいろ解説

急性増悪シリーズ:肺癌術後の間質性肺炎の急性増悪はどれくらいの頻度で起こるのか?そしてその転帰は?

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肺癌手術後の急性増悪、その頻度と転帰は?

間質性肺炎を合併した肺癌患者さんに手術を行うと、術後に急性増悪(AE)することがあります。

文献によると、術後急性増悪の発生率は約9.3%(範囲3.3〜15.8%)とされており、術後30日以内の死亡率は33.3〜100%と非常に高いです。

中でも、特発性肺線維症(IPF)患者では発症リスクが高いとされています。

このため、術前のリスク評価がとても大切になりますね。


急性増悪のリスク因子は?

手術を受けるすべての間質性肺炎患者さんが急性増悪を起こすわけではありません。これまでの研究から、いくつかのリスク因子が挙げられています。

✦ 性別

  • 多くの報告で、男性に多い傾向があるとされています。
  • 明確なメカニズムは不明ですが、喫煙歴の強さや線維化の進行度と関係(交絡因子?)している可能性がありますね。

✦ UIPパターン

  • HRCTや病理でUIPパターンがあると、急性増悪のリスクが高いと報告されています。
  • 特に、蜂巣肺(ハニカム)優位のUIPではリスクが高く、手術適応の慎重な検討が必要です。

✦ CPFE(気腫合併肺線維症)

  • 肺気腫と肺線維症が混在しているCPFE(combined pulmonary fibrosis and emphysema)は、手術リスクが高い病態です。
  • 一見すると呼吸機能が保たれていても、拡散能(DLCO)は著しく低下していることが多く、過小評価されがちなので注意が必要ですね。

✦ FDG-PETの集積所見

  • 一部の研究では、PETでのFDG集積が強い症例ほど急性増悪のリスクが高い可能性があると報告されています。
  • 活性化された線維化領域や隠れた炎症が反映されているのかもしれません。

✦ 術式(手術の方法)

  • 肺葉切除以上の広範囲な手術(特に肺全摘)はリスクが高くなります。
  • 楔状切除や区域切除など縮小手術は、リスクを抑える選択肢として有用です。
  • VATS(胸腔鏡下手術)も低侵襲であるため、可能なら優先されますね。

✦ 呼吸機能(%FVC・%DLCO)

  • %FVCが70%未満DLCOが60%未満では急性増悪のリスクが高まるとされています。
  • 特にDLCO 50%未満では、酸素化能が著しく低下しているため、周術期の酸素投与や換気に注意が必要です。

✦ KL-6

  • KL-6はII型肺胞上皮細胞由来の糖タンパクで、線維化の進行や炎症を反映するバイオマーカーです。
  • 術前のKL-6高値は、術後急性増悪の予測因子になりうるとされています。

✦ 術前のステロイド治療

  • 術前にステロイドを使用していた患者さんでは、術後AEのリスクが高くなる傾向があります。
  • 免疫抑制による感染リスク増加だけでなく、肺の修復力の低下も影響していると考えられます。
  • ただし、ステロイドが中止できない症例もあるため、個別にリスクとベネフィットのバランスを検討する必要がありますね。

✦ その他

  • 喫煙歴や栄養状態、年齢、併存症(糖尿病など)も考慮が必要です。
  • また、高濃度酸素投与や片肺換気による酸化ストレスや虚脱肺の再膨張などの周術期管理も関与する可能性があります。

予防対策にはどんな工夫があるか?

術後AEを完全に防ぐ方法はまだ確立されていませんが、いくつかの予防戦略が提案されています。

✔ 手術前にきちんとリスクを評価しましょう

  • CT画像・呼吸機能・マーカーなどを組み合わせて、リスクを層別化することが推奨されています。
  • 手術をするか否か」の判断も含めて多職種で話し合うことが重要ですね。
  • 例えば、高齢でがんの進行が緩やかであれば、患者さんとよく相談したうえで、あえて経過観察するという選択肢もあるかもしれません。

✔ 術式の選択はリスクに応じて

  • 高リスクの方には縮小手術(区域切除や楔状切除)が選択されることもあります。
  • また、VATS(胸腔鏡手術)は、開胸よりも侵襲が少なく安全性が高い可能性があります。

✔ 術中・術後の呼吸管理に注意を

  • 100%酸素の長時間投与を避けることや、片肺換気の時間を最小限にすることが推奨されます。
  • 周術期に抗線維化薬の使用ステロイドの予防投与を検討する施設もありますが、明確なエビデンスはまだ十分ではありません

まとめ

間質性肺炎合併肺癌における手術治療では、術後急性増悪というリスクがあることを忘れてはいけません。
ただし、適切なリスク評価と周術期管理を行えば、安全に手術できる可能性もあります。
患者さんごとのリスクに応じたオーダーメイドの治療が求められますね。

特に、呼吸器内科と呼吸器外科(必要に応じて麻酔科)との合同カンファレンスは必須だと思います。

引用文献:

間質性肺炎合併肺癌に関するステートメント2025(改訂第2版)

Acute exacerbation of interstitial lung disease after procedures. Amundson WH, et al. Respir Med. 2019. PMID: 30961948 

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