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いろいろ解説ガイドライン間質性肺疾患

間質性肺疾患・間質性肺炎患者において、肺以外の手術や気管支鏡検査で急性増悪を発症することがあるのか?

術前・検査説明に必要な知識ですね。

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はじめに

間質性肺疾患(ILD)の患者さんが他科で手術を受ける場合や、診断目的で気管支鏡検査を行う際、「この手技によって病状が悪化しないか?」と心配になることがありますよね。

今回は、肺以外の手術や、気管支鏡による生検・BALなどの手技後に起こりうる急性増悪(acute exacerbation: AE)について、ポイントを整理します。

※急性増悪後の予後や予防に関しては、別記事をご参照ください。

<別記事凛リンク>特発性肺線維症の急性増悪の診断に焦点をあてる

<別記事リンク>間質性肺炎・間質性肺疾患に対する外科的肺生検後の急性増悪はどれくらいの頻度で起こるのか?

<別記事リンク>肺癌術後の間質性肺炎の急性増悪はどれくらいの頻度で起こるのか?そしてその転帰は?


肺以外の手術(Non-lung surgeries)

「膝の人工関節置換術」や「冠動脈バイパス術」など、肺とは無関係な手術でも、ILD患者さんでは急性増悪が報告されています【1】。

たとえば、Maらは、全身麻酔を伴わない股関節置換術後24時間以内に、呼吸状態が急激に悪化した症例を報告しています。術前には未診断のILDがあったようで、画像では蜂巣肺や牽引性気管支拡張が認められました【1】。

他にも、複数の輸血や心不全、感染など炎症反応を伴う状況でAEが起こる可能性があるとも言われており、肺外の手術後の呼吸状態の悪化には注意が必要です。

➡️ 他診療科から「手術して大丈夫ですか?」と相談を受ける際は、「基礎疾患にILDがあれば、肺以外の手術でもAEの可能性がある」ことを念頭におく必要がありますね。

実際にILD患者が肺以外の手術を受けた場合のAE発症率やリスク、死亡率を体系的にまとめた論文は、現時点では存在していないと思いますが、

私自身の臨床経験では、肺以外の手術によるAEの発症率はそれほど高くないように感じています。

そのため、患者さんには次のように説明することが多いです:

  • 一般的に、非肺手術でのAE発症頻度は肺手術と比べて低いと考えられますが、はっきりとしたデータがないため発症頻度には不確実性があること
  • AEはあくまで手術全般における周術期合併症の一つに過ぎず、他にも注意すべき合併症が多数あること
  • 現時点では、手術によるベネフィットとAEを含むリスクのバランスを慎重に考慮する必要があること

この「ベネフィットとリスクのバランス」については、以下のような要素を個人的に重視しています。

  • 手術のベネフィット:たとえば、悪性腫瘍の根治や、心血管系疾患など予後に大きく関わる手術かどうか
  • リスク評価
    • ILDの重症度(AEを発症した場合に耐えられる全身状態か?)
    • AEの既往歴の有無
    • KL-6高値、UIPパターンなどAEのリスク因子の有無
    • 手術そのものの侵襲性(大手術か、局所的な処置か など)

以上のように、ベネフィットとリスクのバランスが明らかに良好な場合には、リスクを十分に説明したうえで、手術に対して否定的なスタンスは基本的にとっていません。

一方で、そのバランスが不明確であったり、明らかにリスクがベネフィットを上回ると考えられる場合には、その旨を担当診療科の主治医や患者さんとしっかり相談し、方針を慎重に検討することが重要です。


経気管支肺生検およびクライオ生検(TBLB & Cryoprobe biopsy)

経気管支肺生検(TBLB)では、AEの報告は少ないです。

一方で、より大きな組織を得られるクライオバイオプシー(cryoprobe biopsy)は、数%の割合でAEが報告されています【2】【3】。

  • Casoniら(2014):69例中1例(1.4%)でAE発症(致死的)、その症例では手技中に大量気胸と高濃度酸素投与が必要でした【2】。
  • Dhooriaら(2017):128例中3例(2.3%)でAE(いずれも致死的)。出血や気胸が先行しており、直接的な原因かは不明です【3】。

➡️ クライオバイオプシーは有用な検査ですが、特にIPFや進行した線維化が疑われる場合には、AEのリスクを十分に説明して実施する必要がありますね。


気管支肺胞洗浄(BAL)

BALによるAEの報告もあります。特に繰り返し施行されたBALでリスクが高まる可能性があります。

  • Hiwatariら(1994):IPF患者124例中3例でBAL後にAE(いずれも死亡)【4】。
  • Sakamotoら(2012):231回のBAL中、4回でAE(3例は死亡)【5】。初回ではなく、再度行った際に起こった点が注目されます。

➡️ BALも侵襲的手技のひとつであり、特に病勢が進行している場合には、慎重な適応判断が必要ですね。


その他の診断・治療手技

TAVR(経カテーテル大動脈弁置換術)後にAEが報告されています。

Sugizakiらは、TAVR後70日目に致死的AE-IPFを発症した症例を報告【6】。

Shimuraらの日本のレジストリでは、TAVRを受けた749人中11人(1.5%)が肺合併症を発症し、そのうち3人がAE-ILDでした【7】。

また、術前CTでILA(interstitial abnormalities)を有する患者はTAVR後の死亡率が高いとされており、潜在的なILDでも注意が必要です【8】。

➡️ TAVRなどの一般的手技でも、ILD患者ではAEのリスクがあることを念頭に置いておくとよいですね。


まとめ

  • ILD患者さんでは、肺以外の手術でもAEのリスクがあるため、他科からの手術コンサルト時には注意が必要です。
  • 気管支鏡手技(BAL、TBLB、クライオバイオプシー)でも、少数ながらAEが報告されています。
  • 患者さんにとってのリスクとベネフィットを十分に説明し、AEの発症リスクを把握しておくことが、医療者として大切な対応ですが、必要な手術・検査であればAEを過度に恐れずに実施することのほうが重要だろうと思います。

引用文献一覧

  1. Ma X et al. Acute exacerbation of idiopathic pulmonary fibrosis after total hip replacement. J Clin Anesth. 2016;34:518-519.
  2. Casoni GL et al. Transbronchial lung cryobiopsy in the diagnosis of fibrotic interstitial lung diseases. PLoS One. 2014;9(2):e86716.
  3. Dhooria S et al. A multicenter study on the safety and efficacy of different methods for obtaining transbronchial lung cryobiopsy. Clin Respir J. 2018;12(4):1711-1720.
  4. Hiwatari N et al. Bronchoalveolar lavage as a possible cause of acute exacerbation in idiopathic pulmonary fibrosis. Tohoku J Exp Med. 1994;174(4):379-386.
  5. Sakamoto K et al. Acute exacerbation of IPF following diagnostic BAL procedures. Respir Med. 2012;106(3):436-442.
  6. Sugizaki Y et al. Critical exacerbation of idiopathic pulmonary fibrosis after TAVR. J Cardiol Cases. 2018;17(2):52–55.
  7. Shimura T, Interact Cardiovasc Thorac Surg, 2017; 1;25(2):191-197.
  8. Kadoch M, Respir Med, 2018; 137:55-60.

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