今回は、間質性肺疾患(ILD)の診療でよく耳にするようになった「PPF(進行性肺線維症)」と「PF-ILD(進行性線維化型間質性肺疾患)」について、混乱しがちなポイントやその背景、意義について解説していきますね。
そもそもPPFもPF-ILDも「診断名」ではありません!
まず一番大事なこととして、PPFもPF-ILDも「診断名」ではなく、「病態・挙動(disease behavior)」を示す用語です。
どちらも「特定の原因疾患(たとえばNSIPやHP、RA-ILDなど)を背景にもちながら、線維化が進行する経過をたどる症候群的なILDの概念」であり、あくまで“経過の分類”と理解するのが適切です。
PF-ILDとは?(治療中にもかかわらず進行する病態)
PF-ILDは、2019年に報告されたINBUILD試験で導入された用語で、IPF以外のILDでも標準治療にもかかわらず進行する例に対して抗線維化薬(ニンテダニブ)の効果を検討しました。
PF-ILDの定義(INBUILD試験)
以下のいずれか1つ以上を満たす、過去2年以内の進行性所見:
- FVCの相対的低下(relative decline)で10%以上
- FVCの相対低下5〜10% + 症状悪化またはCT画像上の線維化の進行
- 症状悪化+CT画像の線維化進行
🔎 ポイント:この定義には、「標準治療を行っていたにもかかわらず進行したこと」が前提となっています。
つまり、PF-ILDという用語には“治療抵抗性の進行例”という含みがあるということですね。
PPFとは?(治療内容は問わず、進行所見があれば対象)
一方、2022年に発表されたATS/ERS/JRS/ALATの国際ガイドラインでは、「PPF(progressive pulmonary fibrosis)」という新しい包括的概念が提唱されました。
PPFの定義(2022年ガイドライン)
過去1年以内に以下の3項目のうち2つ以上を満たす場合:
- 呼吸器症状の悪化
- FVCの絶対的低下(absolute decline)で5%以上、またはDLcoの10%以上低下(Hb補正後)
- CT画像での線維化の進行(牽引性気管支拡張の増悪、蜂巣肺の増加など)
🔎 ポイント:PPFは「治療中にも関わらず進行」といった治療歴の制限は明記されておらず、進行が認められればPPFと判断できる構造になっています。
そのため、治療の有無にかかわらず“進行”しているかを客観的に評価する指標として使いやすいのがPPFという概念の特徴でもあります。
FVCの評価法にも違いがある!
PF-ILDとPPFでは、FVC(肺活量)の評価方法にも違いがあります。
FVCの相対的と絶対的な変化の評価の違いについてはこちらの記事をご参照ください。
<%FVCの「絶対的低下」と「相対的低下」の違いを知っていますか?>
評価法 | PF-ILD(INBUILD) | PPF(ガイドライン) |
---|---|---|
評価対象 | 相対的変化(%相対低下) | 絶対的変化(%絶対低下) |
時間軸 | 過去2年以内 | 過去1年以内 |
例:FVC 80% → 72% | 相対10%低下 → 該当 | 絶対8%低下 → 該当 |
例:FVC 80% → 76% | 相対5%低下 → 症状orCT悪化あれば該当 | 絶対4%低下 → 非該当 |
🔍 FVCの「相対」と「絶対」の違いは、解釈次第で患者が該当するかどうかに影響するので、注意が必要ですね。
PF-ILDには治療効果のエビデンスあり、PPFはまだこれから
項目 | PF-ILD | PPF |
---|---|---|
用語の由来 | INBUILD試験(2019) | ATS/ERS/JRS/ALATガイドライン(2022) |
治療との関係 | 標準治療にも関わらず進行 | 治療の有無は問わない |
抗線維化薬のエビデンス | ニンテダニブで有効性確認済 | 今後の検証が必要 |
実臨床での活用 | 治験・保険適応で用いられることが多い | 今後の普及が期待されるが、現時点では未確立 |
このように、PF-ILDはすでに治療適応に活かされている一方で、PPFはあくまで進行の定義であり、治療効果に関する確立したエビデンスはまだありません。
論文でもこの点について以下のように指摘されています:
“…it should be noted that the new definition of PPF was associated only with prognosis, and it is unclear if it also identifies patients best suited for antifibrotic therapy.”
つまり、PPFの定義に当てはまるからといって、すぐに抗線維化薬が適応になるとは限らないということです。
🔚 まとめ:どう使い分ける?
- PF-ILD:治療しているのに進行した例。治験や保険診療の文脈では今も重要。
- PPF:進行所見があれば対象。診療ガイドライン上の病態定義として今後広がる可能性あり。
- どちらも「病態」であって、「診断名」ではない。
- FVCの評価法や観察期間にも違いがあるので、定義の出典に注意しながら使用しましょう。
- そもそも呼吸器のILD領域では「P」が多すぎますね。