研究ネタに困っている方向けです。
🧠日常診療の「なんで?」から始める!
臨床研究アイデアの見つけ方・育て方
こんにちは。
今回は、私が後輩からよく相談されるテーマ――
「臨床研究のアイデアの出し方」について、実践的なコツをお話ししたいと思います。
ぶっちゃけて言うと、学会発表ネタ・論文ネタの探し方、つまり「日常診療の気づきをどう研究アイデアに変えていくか?」という話です。
「研究って、特別な人がやるものでしょ?」
そんなふうに思っていませんか?
でも実は、研究のタネ(ネタともいう)は毎日の診療の中にたくさん転がっているのです!
アイデアは、突然ひらめくものではありません。
常に「なにかないかな」「これ、使えるかも?」と考え続けることで、少しずつ整理され、形になっていくものです。
今回は、そんな“診療から研究へ”の道のりを、5つのステップに整理してみました。
臨床研究をこれから始めたい方、ぜひ参考にしてみてください!
🔍Step 1:日常診療の「小さな違和感」に気づく
研究の出発点は、論文でも教科書でもなく、ベッドサイドでのモヤモヤです。
「なんでこの人だけこんな経過?」「この検査、ほんとに意味ある?」といった直感を大切にしてください。
外来診療、入院対応、カンファレンスでの議論、同僚・上司・後輩の口にした何気ない一言、すべてがヒントになります。
あとは、日常診療で困ったこと、患者さんや看護師さんからの苦情・クレームなどは意外と「医療ニーズ」である可能性があります。
💡たとえば、こんな疑問
- IPF:ずっと安定していて呼吸機能もKL-6もあまり悪くないのに、なぜか急性増悪した患者さんが続いた…
- 肺癌:80歳超で化学療法・分子標的薬・ICI治療を減量したけど、意外と長く元気に生活できている…
- NTM:CTで大きな結節や空洞があった患者さんは再燃率が高い気がする…
- COPD:本人が禁煙していても悪化している。家族が喫煙しているから…?
- 重症肺炎:抗菌薬の1時間かけての投与よりも3時間かけて投与したほうが、改善が早かった印象がある…
👉こうした気づきを、ぜひスマホのメモや診療録のメモ欄に書き残しておいてくださいね。
“思い付きは記録して初めて、研究に育ちます”。
🧱Step 2:疑問を「PICO」で研究のカタチにする
次は、その疑問を研究に育てていくための設計図づくり。
ここで登場するのが、PICOフレームワークです。
項目 | 意味 |
---|---|
P(Patient) | 対象となる患者 |
I(Intervention / Indicator) | 注目する治療・検査・因子 |
C(Comparison) | 比較対象 |
O(Outcome) | 結果・指標(死亡、入院、再発など) |
💡PICOの実例(COPD × 非喫煙 × 入院リスク)
- P:禁煙したCOPD患者
- I:受動喫煙
- C:家族内に喫煙者いる vs.いない
- O:1年以内の急性増悪による入院率
疑問をPICOに落とし込むと、比較対象や測定すべきアウトカムが明確になるんですよね。
研究の骨格が一気に浮かび上がってきます。
PICOに落とし込むキーワードは「なんでもOK」です。
PICO具体例集は別記事で紹介したいと思います。
📚Step 3:文献レビューで「既知」か「未知」か確認する
次は、「それってもう誰かが研究していない?」を確認するステップです。
PubMedやGoogle Scholarで、似た研究があるかどうかをチェックしましょう。
でも、ここでのコツは「既に研究されているからダメ」ではなく、
「自分ならどう差別化できるか?」を考えることです。
たとえば…
- 日本人対象でのデータは少ない?
- 高齢者に特化した視点は新しい?
- リアルワールドデータとしての価値がある?
似たような文献があったとしても「limitation(限界)」の項目を読むと、
“ここが未解決です”と書いてくれていることも多いので、要チェックですね。→これ重要!!
🧭Step 4:研究テーマは「疾患 × 介入・比較 × アウトカム」で考える
ここまできたら、アイデアを実行可能なテーマに絞り込みましょう。
私がいつもお勧めしているのは、PICOを「P」・「IC」・「O」に分けて考えて、“3つの軸”を組み合わせる方法です。
① 「P」疾患:できれば症例数が多く、診断基準や組み入れ基準が明確なもの
- IPF、ILD、COPD、NTM、肺癌、重症肺炎などは各病院で症例数が比較的多く、診断基準や組み入れ基準が比較的明確にできるのではないかと思います。
- 症例数や基準に大きな問題なければ実現可能性が高まってきます。
② 介入や比較:検査・治療・診断法・スコアリングなど
種類 | 例 |
---|---|
治療 | 抗線維化薬の使い分け・開始タイミング、 抗生剤の種類・持続時間、 ステロイド量・期間や免疫抑制剤の併用、 対象疾患とは直接関係ない併存症に対する治療(糖尿病や心疾患に対する治療など)、 なんでもいい。 |
検査 | KL-6やSP-Dなどのバイオマーカー、 腫瘍マーカー、 自己抗体、 CT所見、 病理所見、 なんでもいい。 |
スコア | Charlson index、 GAPステージ、 CURB-65、 SOFAスコア、 mMRCスケール、 Child-Pughスコア 対象疾患と関連あってもなくてもなんでもいい。 |
診断 | HRCTの読影アルゴリズム など |
③ アウトカム:測定可能で、臨床に意味がある指標
種類 | 例 |
---|---|
入院・再入院 | 急性増悪による入院率、30日以内の再入院率 |
死亡・生存期間 | 1年生存率、全死亡 |
病勢悪化 | CT進行、FVC低下 |
有害事象 | 治療関連の副作用 |
QOL(アンケート) | SF-36、mMRC、CATスコアなど |
💡テーマ構築の例
ある程度仮説を考えながら、とりあえず放り込んでみましょう。
以下、適当にぶちこんでみました。
(マジのやつは自分や後輩のネタとして使うのでここには入れていません。すんません)
当然センスがない組み合わせもありますが、意外に「イケるかも!!」というものも出てくることがあります。
疾患(P) | 介入・比較(IC) | アウトカム(O) |
---|---|---|
IPF | KL-6のカットオフ | 急性増悪 |
肺癌 | 初回治療レジメンの強度 | 高齢者の生存率 |
NTM | 結節病変の有無・大きさ | 治療後再燃率 |
COPD | 家族内の喫煙者あり vs なし | 入院率 |
重症肺炎 | GAPステージの妥当性 | 30日死亡率 |
▶ こうやって組み合わせてみると、「これ、調べられるかも?」と思えるテーマが見つかってきますね。
🚀Step 5:まずは“小さな研究”から始め、良さそうならスケールアップ
「よし、テーマが決まった!」となっても、
最初から大規模な前向き研究やRCTを目指す必要はありません。
むしろ最初は、症例報告や後ろ向き観察研究のように
“小さく始められる研究”がちょうどいいのです。
- 電子カルテから既存データを抽出
→もし、自分の診療科でデータベースがあればそこから対象疾患のデータを抽出しましょう。
ない場合には、病院のデータベースからICD-10や病名コードを使ってもいいです。 - 症例を10〜50例くらいでまずは解析
- χ²検定やロジスティック回帰・Cox比例ハザード解析など、基本的な統計で十分
ここで重要なのが、この研究は結果はともかく、
「データ収集から解析まで実現可能か?」
ということを判断することです。
👉 実現可能そうなら、そこから学会発表・抄録化→論文化→次のステップへと、進んでいけますよ。
また、小規模、後ろ向き研究で興味深い結果がでれば、
大規模な前向き研究やランダム化比較試験(RCT)を行う正当性の裏付けとなり、
スケールアップした研究の実施も可能になるかもしれません。
(多くの協力も得られるでしょう)
✅まとめ:よい研究は「問い」「現実性」「構造」のバランスから
ステップ | 内容 | ポイント |
---|---|---|
Step 1 | 違和感・疑問・ニーズを拾う | 「困ったな」の気づきが原点 |
Step 2 | PICOで整理 | 疑問を研究設計に変換する |
Step 3 | 文献を調べる | 被っていない、または差別化できるか確認 |
Step 4 | 疾患×介入・比較×アウトカムで構成 | 症例数・診断や組み入れ基準を見て実現可能かどうか考える。 |
Step 5 | 小さく始めて、スケールアップ | 後ろ向き研究でも立派な第一歩 |
「研究って難しそう…」と感じるかもしれません。
でも、大事なのは特別なアイデアではなく、日常診療の中の違和感に気づき、形にしてみる力です。
一歩踏み出せば、次の疑問もまた見えてきます。
今日の診療での「おや?」を、ぜひ研究の第一歩に変えてみてくださいね。
おっと忘れてはいけない。
倫理委員会の手続きを並行して行ってくださいね。
PICO具体例集


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