Future risk projection to engage ‘near-miss’ individuals in lung cancer screening eligibility: an analysis of ILST data. Chellan Kumarasamy et al. Thorax 2025.
〜なぜこの研究が必要だったか?〜

肺癌は依然として、死亡率の高いがんのひとつです。
これを減らす有効な手段が、低線量CT(LDCT)による肺癌スクリーニング(LCS)ですね。
ただ、LCSには課題もあります。
それは――
✅ 誰を対象にすべきか?
✅ 本当にハイリスクな人を効率よく拾えているのか?
という問題です。

最近では、リスク予測モデル(PLCOm2012など)を使って、
「今後6年以内に肺癌になる確率」をもとにスクリーニング対象を決める方法が主流になりつつあります。
しかしここで大きな疑問が生まれます。
「今は基準を満たさなくても、将来リスクが上がる人がいるのでは?」
今回の研究は、
🎯「初回スクリーニングでは不適格だったけれど、将来適格になるかもしれない人(=near-miss)」
に注目しました。
※リスク予測モデル(PLCOm2012)はページ最後の「おまけ」の項で解説してます。
背景と目的
肺癌リスクは時間とともに増加するため、初回スクリーニング適格外であった個体も、将来的に適格となる可能性がある。
本研究の目的は、リスクモデルに基づく肺癌スクリーニング(LCS)プログラムにおいて、初回適格外者のうち将来適格となり得る割合を明らかにし、喫煙中止がこの集団に与える影響を評価することである。
方法
国際肺スクリーニング試験(ILST)において、初回評価時に低線量CT(LDCT)スクリーニング非適格(PLCOm2012モデル6年リスク<1.5%)と判定された55~80歳の全被験者を対象とした。
年齢、喫煙年数、禁煙後経過時間の年次増加のみを仮定し、それ以外のリスク因子は一定とした上で、PLCOm2012モデルによりリスクを80歳まで推定した。
結果
対象者は4451名(中央値61歳、四分位範囲57–66歳)であった。
喫煙状況に変化がないと仮定した場合、2239名(50.3%)が80歳までに適格(PLCOm2012リスク≥1.51%)に到達した。
70歳、75歳までに到達した割合はそれぞれ26.9%、38.7%であった。
初回リスクが0.6%以上の群では、34.1%が10年以内に適格に到達した。
初回評価後に喫煙中止した場合、70歳までに適格となる割合は68.7%から24.9%に減少した。
結語
将来リスク予測により、個別の再評価のタイミングを設けることが可能となる。
初回LCSプログラム接触時に喫煙中止支援を提供することが重要である。

内容を勉強してみたいと思います!!
🟠 ~どんなことがわかった?~
ILSTの対象者のうち、
初回スクリーニング不適格だった4451人を追跡して将来リスクを推定しました。
結果は驚きです!
適格に到達した割合 | |
---|---|
80歳まで | 50.3% |
75歳まで | 38.7% |
70歳まで | 26.9% |
つまり、半数以上が将来スクリーニング適格になってしまうのです!
さらに注目すべきは、
- 初回PLCOm2012リスクが0.6%以上だった人は、
→ 10年以内に34.1%が適格化していました!
また、もし初回評価後に喫煙を中止した場合には、
- 70歳までに適格化する割合が68.7% → 24.9%に大きく減少しました。
🟠 ~この結果からわかること~
今回の研究が伝えているメッセージはシンプルです。
✅ 初回不適格でも「その後適格になる人」がたくさんいる
✅ 特に、初回リスクが0.6%以上の人は要注意
✅ だから「一回不適格=放置」ではダメ
✅ 将来を見越した再評価の仕組みが必要
また、初回時に禁煙支援を行えば、
その後スクリーニング対象となる人を減らせる可能性がある、という点も非常に重要ですね。
🟠 新規性 ~これまでと何が違う?~
これまでのスクリーニングプログラムは、
- 一度判定したらそれっきり
というスタイルが主流でした。
しかしこの研究は、
- 「リスクは年齢とともに上がる」
- 「将来的に適格化する人を事前に見極め、再評価する」
- 「禁煙支援でリスク上昇を防ぐ」
という、未来志向のスクリーニング戦略を提案しています。
特に、
▶️ 初回リスク0.6%以上を目安に「再評価対象」とする考え方は、実際の運用にすぐに役立ちそうですね!
🟠 改善すべき問題点 ~注意すべき限界~
もちろん、いくつか限界もあります。
🔹 喫煙継続や体重変動など、リスク因子が途中で変わる可能性を無視している
🔹 新たなCOPDや癌の診断が加わるリスク変化は考慮できていない
🔹 PLCOm2012モデルは性別を考慮していない(本来、女性のリスクは違う可能性がある)
こうした点は、今後より柔軟なリスク予測モデルの開発が求められますね。
🟠 論文の臨床的意義 ~現場でどう生かす?~
実臨床では、
- 初回スクリーニングで不適格だった患者さんにも、
- 「将来、何年後かに再評価する必要があるかもしれない」と伝える
- 特に、初回リスク0.6%以上なら積極的に再評価を検討する
こうしたアプローチが、肺癌による死亡をさらに減らすカギになりそうです。
また、喫煙者には初回から禁煙支援をしっかり行い、
リスクそのものを下げる努力も重要ですね。
🟣 おまけコーナー:PLCOm2012リスクって何?
肺癌スクリーニングの世界でよく出てくる
「PLCOm2012リスク」。
これ、簡単に言うと――
👉 「これから6年間で肺癌になる確率」を予測するためのスコア
です!
📖 どこから来たの?
アメリカで行われた大規模研究
PLCO試験(Prostate, Lung, Colorectal, Ovarian Cancer Screening Trial)のデータを使って、
2012年に作られたから
➡️ PLCOm2012(PLCO model 2012年版)と呼ばれています。
🧮 どんな情報を使うの?
PLCOm2012モデルは、次の11個の情報をもとにリスクを計算します。
- 年齢
- BMI(体格指数)
- 教育レベル
- COPD(慢性閉塞性肺疾患)の有無
- 他の癌の既往歴
- 家族に肺癌患者がいるか
- 喫煙状態(現在喫煙か、過去喫煙か)
- 喫煙量(1日あたり何本吸っているか)
- 喫煙していた年数
- 禁煙してからの年数
- 人種・民族
これらを数式に当てはめると、
「あなたが6年以内に肺癌になる確率(%)」が出てきます!
🎯 どう使われるの?
- スクリーニング(低線量CT検査)の対象者を選ぶために使います!
- 例えばアメリカでは、PLCOm2012リスクが1.51%以上ならスクリーニング適格です。
今回紹介した論文でも、
このPLCOm2012リスク1.51%を基準に、「適格・不適格」を判定していましたね。
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