最近、タルラタマブ(商品名イムデトラ®)が小細胞肺癌に承認されましたね。この薬剤ではサイトカイン放出症候群(CRS)の発症率が約50%とかなり高く、これからCRSへの注目はますます高まりそうです。
まずはその流れを踏まえて、今回は免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療後におけるCRSについての論文を読んでみました。
Cytokine release syndrome after treatment with immune checkpoint inhibitors: an observational cohort study of 2672 patients from Karolinska University Hospital in Sweden. Osama Hamida, et al 2024.
はじめに

今回は、ICI治療後にまれに起こるCRSについて、大規模コホート研究(Hamidaら、OncoImmunology誌 2024年)をもとに、わかりやすく解説していきます

CRSとは、
免疫細胞が過剰に活性化されてしまい、炎症性サイトカインが大量に放出されることで起こる全身の炎症反応です。
よく聞く「サイトカイン」とは、免疫細胞同士がやり取りするメッセンジャーのようなもので、
これが一気にあふれ出すと、発熱、血圧低下、呼吸困難、さらには多臓器不全まで引き起こしてしまうんですね。
もともとは、CAR-T療法(キメラ抗原受容体T細胞療法)に伴う副作用として有名でしたが、
近年ではICI治療後にもCRSが発生することがわかってきました。

免疫チェックポイント阻害薬とCRSの関係
ICIは、がん細胞に対する免疫攻撃を再活性化する素晴らしい治療ですが、
その分、正常組織にも免疫反応が暴走するリスクを伴っています。
その結果、まれにCRSのような全身型の炎症反応が起こることがあるのですね。
ただし、ICIに伴うCRSは、
✅ 頻度が低い
✅ 重症例はさらにまれ
とされており、現時点ではまだ情報が限られている状況でした。
背景・目的・方法
ICIは、さまざまな免疫関連有害事象(irAE)に関連している。
臨床現場では、まれなirAEが初めて発見されることもある。
本研究では、ICI治療を受けた2672人の患者を対象に、まれなirAEであるサイトカイン放出症候群(CRS)について系統的に調査した。
結果
ICI誘発性CRSのリスク(発熱、微生物学的検査陰性、他の明らかな原因がなく、ICI投与後30日以内に発症と定義)は、
約1%であり、以前の報告よりも高かった。
ICI誘発性CRSは多くの場合軽症であり、軽症CRS後のICI再投与も一般的には安全であった。
しかし、28人中2人が重症CRSを発症し、そのうち1人は死亡した。
CRPやプロカルシトニン値は致死的CRSを識別できなかったが、簡易型敗血症関連臓器障害評価(qSOFA)スコアは高リスク患者の識別に有用である可能性が示唆された。
結語
これらのデータは、CRSリスク評価のための枠組みを提供し、早期診断の改善に向けた多施設共同研究の必要性を示している。

解説しつつ、まとめたいと思います!!
今回の研究概要
📚 スウェーデンのカロリンスカ大学病院で、
2672人のがん患者さんを対象に、ICI治療後にCRSを発症したかどうかを調べたものです。
対象薬剤には、ニボルマブ、イピリムマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブなど、
広く使われているICIがすべて含まれています。
CRSの診断基準は「発熱(38℃以上)+感染症や他の明らかな原因がないこと」。
慎重に臨床診断されており、信頼性の高いデータとなっています。
CRSはどれくらい起こった?~発症率と死亡率~
🔹 CRS発症率は全体だと約1%(28人/2672人)
ICIタイプ | 治療患者数 | CRS発症患者数 | CRS発症率(%) |
---|---|---|---|
抗PD-1単剤 | 1947人 | 16人 | 0.82% |
抗PD-L1単剤 | 200人 | 1人 | 0.50% |
抗CTLA-4単剤 | 93人 | 3人 | 3.23% |
PD-1+CTLA-4併用療法 | 310人 | 8人 | 2.58% |
CTLA-4単剤と併用がCRS発症頻度が高いですね。
🔹 発症はICI投与後7.5日(中央値)で、早期に起こることが多い
👉 特に最初の1~2回目の投与で起こりやすい傾向がありました。
🔹 死亡率は3.5%(28例中1例が死亡)
👉 CRSを発症した28人のうち1人が重症化して亡くなっています。
👉 全体の死亡率で見ると、2672人中1人、つまり0.037%に相当します。
📝 ポイント
- ICI治療全体に対してみればCRS発症はまれ
- でも、一度CRSを起こすと、油断は禁物(特に高齢、進行がん、男性)
- 重症化を防ぐためには、早期の対応がカギ
CRSを疑ったら?~診断のポイント~
発熱があったら、まず「感染症かな?」と考えるのが普通ですよね。
ただ、今回の研究では、感染が証明されない場合にはCRSも強く疑うべきだとされています。
ここで役立つのが、
✅ qSOFAスコア
呼吸数・意識レベル・血圧の3項目で評価する簡単なスコアで、
これが高い(特に3点満点)場合、重症CRSの可能性が高いと考えられます。
一方、
❌ CRP
❌ プロカルシトニン
❌ 白血球数
などの通常の炎症マーカーは、重症度の予測には使えなかったそうです。
治療はどうする?
この研究では、CRSが疑われた時点で、
🔹 広域抗菌薬+ステロイドを早期に投与する
が推奨されています。
感染とCRSの見分けがつかないことが多いため、両方に対応する形を取るわけですね。
また、もし重症化してステロイドだけで改善しない場合は、
✅ IL-6阻害剤(例:トシリズマブ)の使用も考慮すべきとされています。
ICIは再開できる?
「CRSを起こしたら、もうICIは使えないの?」と心配になりますが、
この研究では、軽症(グレード1-2)だった場合には再開できることが多いと示されています。
実際に、CRS後にICIを再開した患者さんのうち、
🔹 68%は再開に成功
🔹 そのうち16%(3人)だけが再発し、しかもすべて軽症
つまり、
軽症CRS後のICI再開は、比較的安全にチャレンジできるということですね!
まとめ:今回の研究から学べること
✅ ICI治療後のCRS発症率は約1~3%で抗CTLA-4単剤や併用で頻度が高い。CRS発症者の死亡率は3.5%。
✅ qSOFAスコアが重症化の予測に有用かもしれない
✅ 軽症CRSならICIの再投与も可能
✅ 感染症とCRSの区別が難しいため、疑ったら抗菌薬+ステロイドを早期投与!
これからのICI治療では、「CRSを知っているかどうか」が患者さんの命運を分ける場面も出てきそうですね。
CRSは、重篤化すると死亡リスクと関連する可能性があり、ICIを扱うすべての診療科において、ぜひ知っておくべき重要な知識だと思います。
特に、最近ではICI併用療法も増えているので、実際のCRSの発症頻度はもっと高いのではないかと思います。
次回以降の記事では、CRSに焦点を当てた内容も順次取り上げていく予定です。
また、最近小細胞肺癌に対して承認されたタルラタマブ(腫瘍抗原であるデルタ様リガンド3およびT細胞受容体複合体のCD3に特異的に結合する、新規の半減期延長型BiTE®(二重特異性T細胞誘導)分子)についても今後触れたいと思います。
この薬剤では、CRSの発生頻度がさらに高いことが報告されており、今後ますますCRSへの注目が高まることが予想されます。
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