感染症論文紹介

ワクチン接種を受けた慢性肺疾患患者におけるデルタ株およびオミクロン株SARS-CoV-2転帰に関する全国規模のコホート研究(Wee LE, et al. Chest. 2024.)

A Nationwide Cohort Study of Delta and Omicron SARS-CoV-2 Outcomes in Vaccinated Individuals With Chronic Lung Disease

  • COPD患者がCOVID-19への感受性が高くなることが報告されています。この背景には、気道上皮の免疫応答の変化やACE2受容体の発現増加が関連していると考えられています。また、死亡リスクの上昇も指摘されています。
  • 喘息患者において、特に重症喘息を持つ場合、COVID-19に感染しやすいとの報告がある一方で、軽症喘息患者では感受性が健康な人と同等であることも示唆されています。
  • ILD患者でもCOVID-19関連死亡リスクが高いとされています。

でもそれらの研究は、オミクロン期以前のデータですよね。現在の株では呼吸器疾患があるとCOVID-19の感受性や重症化率はどうなんでしょうか? ワクチンは必要なのでしょうか?

研究の背景とリサーチクエスチョン

慢性肺疾患を有する個人は、呼吸器ウイルス感染症に対して感受性が高いが、慢性肺疾患とCOVID-19の転帰に関する文献には大きな異質性が存在する。
特に、オミクロン株などの新しい変異株や、ワクチン接種および追加接種を受けた集団における転帰に関するデータは不足している。

ワクチン接種率が高く、追加接種を受けた集団を対象としたコホートにおいて、
デルタ株およびオミクロン株の流行下で、慢性肺疾患を有する個人のSARS-CoV-2感染の転帰はどのようであったか?

方法

  • シンガポールに住む成人の慢性肺疾患患者(喘息、COPD、気管支拡張症、肺線維症を含む)で構成されるワクチン接種率が高く追加接種を受けたコホートとその集団とマッチした一般集団の「デルタ株」および「オミクロン株」のSARS-CoV-2感染の転帰を比較した。
  • 社会人口学的要因および併存疾患で調整したカレンダー時系列を用いたCox回帰分析によって、感染リスク、COVID-19関連入院、重症COVID-19のリスクを比較した。

主な結果

  • 慢性肺疾患患者68,782人およびマッチした対照参加者534,364人が対象となった。
  • オミクロン株流行の終盤までに、慢性肺疾患患者の92.7%が追加接種を受けていた。
  • 対照参加者と比較して、慢性肺疾患患者はデルタ株流行期およびオミクロン株流行期の両方で、SARS-CoV-2感染、COVID-19関連入院、重症COVID-19のリスクが高いことが示された
    • デルタ株:
      1. 感染リスク 調整ハザード比[aHR] 1.22[95%信頼区間CI, 1.17-1.28]
      2. 入院リスク aHR 1.76[95% CI, 1.61-1.92]
      3. 重症COVID-19リスク aHR 1.75[95% CI, 1.50-2.05]
    • オミクロン株:
      1. 感染リスク aHR 1.15[95% CI, 1.14-1.17]
      2. 入院リスク aHR 1.82[95% CI, 1.74-1.91]
      3. 重症COVID-19リスク aHR 2.39[95% CI, 2.18-2.63]
  • オミクロン株流行期には、喘息およびCOPDを有する患者で感染、入院、重症COVID-19のリスクが有意に高かった。
    • 喘息:重症COVID-19リスク aHR 1.31[95% CI, 1.10-1.55])
    • COPD:重症COVID-19リスク aHR 1.36[95% CI, 1.12-1.66])
  • 過去1年間に入院を要する重症増悪を経験した患者は、より不良な転帰のリスクが高かった
    • デルタ株:重症COVID-19リスク aHR 9.84[95% CI, 6.33-15.28]
    • オミクロン株:重症COVID-19リスク aHR 19.22[95% CI, 15.35-24.06]
  • 追加接種群ではリスクが緩和され、3回接種群と比較して4回接種群では入院および重症COVID-19に対するハザード比が数値的に低かった。

結論

デルタ株およびオミクロン株流行下において、慢性肺疾患患者はマッチした対照参加者と比較してCOVID-19関連入院および重症COVID-19のリスクが高いことが観察された。

追加接種は重症COVID-19の転帰を緩和する効果があった。

オミクロン期でも、呼吸器疾患があると感染リスク・入院リスク・重症化リスクが高いんですね・・・

過去1年間の増悪があると予後不良ということは、普段の疾患コントロールが重要そうです。

慢性呼吸器疾患がある患者さん、特にCOPDや喘息患者さんに対しては、まだワクチンについて患者さんと相談した方がよさそうですね。

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