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いろいろ解説その他深掘り

ANCA関連血管炎の「寛解導入治療」って?~MPAとGPAの基本をざっくり解説~

ANCA関連血管炎は、腎臓や肺など生命に関わる臓器に障害を引き起こす自己免疫性疾患です。

その中でも、MPA(顕微鏡的多発血管炎)およびGPA(多発血管炎性肉芽腫症)は代表的な疾患であり、早期診断と適切な治療が非常に重要です。

2023年に改訂された日本のANCA関連血管炎診療ガイドラインでは、MPA/GPAに対する最新の寛解導入治療(初期治療)について、複数の選択肢とそれぞれのエビデンスが提示されています。

本記事では、その内容をできるだけわかりやすく整理して解説します。

参考:ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023

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MPA/GPAの寛解導入治療に関する推奨をまとめた表

グルココルチコイド(GC:ステロイドのこと)、シクロホスファミド(CY)、リツキシマブ(RTX)、メトトレキサート(MTX)、ミコフェノル酸モフェシル(MMF)

推奨内容推奨の強さエビデンスの確実性備考
① GC単独よりも、GC+静注CYパルスまたは経口CYCを提案弱い非常に低静注CYパルスの代替として経CYCを用いてもよい。
② GC+CYとGC+RTXのいずれも提案する。弱いRTXの使用は、十分な知識・経験をもつ医師のもとで行うことが望ましい。
③ 重症臓器病変がなく腎機能障害が軽微で、CY・RTXともに使用できない場合は、GC+MTX*を提案する。弱い非常に低*:保険適用外。
④ 重症臓器病変がある、または腎機能障害が軽微でなく、CY・RTXともに使用できない場合は、GC+MMF*を提案する。弱い非常に低*:保険適用外。
⑤ GC+CYまたはRTXを用いる場合、GCの通常レジメンよりも、減量レジメンを提案する。弱い
⑥ CYまたはRTXを用いる場合、高用量GCよりもアバコパンの併用を提案する。弱いアバコパンは、MPA・GPAの治療に対して十分な知識・経験をもつ医師のもとで使用する。
⑦ 重症例では、経口GC+GCパルス+CYまたはRTXに、血漿交換を併用しないことを提案する。弱い
⑧ 最重症の腎障害例では、GC+GCパルス+経口CYよりも、GC+経口CY+血漿交換を提案する。弱い非常に低

寛解導入治療とは?

“寛解導入”とは、病気の活動性を抑え、症状を改善させるための初期集中的治療のことです。

ステロイド(グルココルチコイド)を基本に、免疫抑制薬を併用します。

ただし、免疫抑制剤の副作用リスクが懸念される場合や、血管炎が限局型で重症臓器病変を伴わない場合には、GC単独での治療が選択肢となることもあります。

治療レジメンを決める際には、重症かどうかの評価が必要になります。

ガイドラインにおける「重症」の定義

一般的に、以下のような生命または臓器機能に関わる病変がある場合を「重症」とみなします:

臓器重症とされる例
腎臓急速進行性糸球体腎炎(Cr上昇、尿蛋白・血尿など)
肺胞出血、呼吸不全を伴う間質性肺炎など
神経多発単神経炎(運動麻痺を伴うものなど)
消化管出血や穿孔などの重篤な病変
眼・心・中枢神経機能障害を伴う病変(失明リスク、脳梗塞など)

非重症(軽症)の例

  • 鼻や副鼻腔の病変(鼻出血、慢性副鼻腔炎など)
  • 皮膚の紫斑や軽度の関節炎のみ
  • 腎機能が正常で軽度の血尿・蛋白尿のみ(※慎重に評価)

こうした場合は「非重症」と判断されることが多く、よりマイルドな治療が考慮されます。

限局型血管炎

  • 腎や肺、神経、頭頚部、皮膚の単一臓器のみの病変であり、他の臓器・筋骨格系の症状がない。
  • 発熱や倦怠感などの臓器非特異的症状はあってもよい。


治療の選択肢とエビデンス解説

以下は、2023年ガイドラインに基づく治療選択肢を、整理したものです。

1. 標準治療が可能な場合

  • 推奨薬: シクロホスファミド(CY:静注または経口)またはリツキシマブ(RTX)
  • 推奨度: 弱い(エビデンスは低〜中)

解説:

いずれの薬剤も、過去の臨床試験(RAVE試験やCYCLOPS試験など)で寛解導入に有効とされています。RTXは再発例や若年女性への投与でも考慮されます。

CYでは、経口CYよりも静注CYの方が推奨度が高いです。実臨床でCYCを使う場合にはほぼ静注一択でしょう。私は経口CYを使ったことがありません。
なぜこのような選択が考慮されるかというと、有効性だけでなく、副作用のリスクや累積使用量にも注意が必要だからです。
特にCYCは、累積投与量が多くなると将来的な発がんリスクが高まることが知られており、可能であれば使用量を抑える工夫が求められます。


2. 軽症(重症臓器病変がない、腎障害軽微)

  • 推奨薬: メトトレキサート(MTX)
  • 推奨度: 弱い(エビデンスは非常に低)
  • 注意点: 日本では保険適用外

解説:

MTXは、欧州を中心に軽症のANCA関連血管炎に対して使用されてきた実績があり、NORAM試験でもその有効性が報告されています。
ただし、腎機能が低下している患者には使用できない点に注意が必要です。

また、呼吸器内科の領域ではMTXは背景に間質性肺疾患(ILD)がある場合は使用を避けるのが一般的です。

というのも、MTXはILDの悪化リスクが指摘されているからです。


3. 重症または腎障害あり、CY/RTX使用不可

  • 推奨薬: ミコフェノール酸モフェチル(MMF)
  • 推奨度: 弱い(エビデンスは非常に低)
  • 注意点: 日本では保険適用外

解説:

MYCYC試験では、CYと比較して効果がやや劣るが代替薬として使用可能であるとされました。副作用プロファイルが比較的良好です。

また近年では、MMFは、強皮症(全身性硬化症)や皮膚筋炎など、さまざまな自己免疫性疾患に対して国際的に広く使用されるようになってきました。
その流れを受けて、MPAやGPAの治療にも実臨床で用いられる機会が増えており、私自身も状況に応じてしばしば使用しています。


4. ステロイドの副作用を抑えたい場合

  • 推奨: ステロイド減量レジメン
  • 推奨度: 弱い(エビデンスは中)

解説:

PEXIVAS試験において、免疫抑制剤の併用があれば、標準的なステロイド量よりも早く減量する方が副作用が少なく、効果も同等であると示されました。


5. ステロイドを極力減らしたい場合

  • 推奨: アバコパン(C5a受容体拮抗薬)の併用
  • 推奨度: 弱い(エビデンスは高)

解説:

ADVOCATE試験で、アバコパン併用群はステロイド使用量が少なくても寛解率が高く、再発率も低かったことが示されました。2023年に国内承認されましたが、専門施設での使用が推奨されますが、比較的安全に使用できるため、おすすめの治療と言えます。


まとめ:治療選択のポイント

「ステロイドまたはアバコパン」+「免疫抑制剤またはRTX」が基本治療だが、状態によってバリエーションあり。

状態推奨治療コメント
標準的な初期治療が可能CY(静注>経口)またはRTX効果が証明された第一選択
軽症かつ腎障害なしMTX(保険外)CY/RTX使えない場合の選択肢
重症または腎障害ありMMF(保険外)他薬剤不可時の代替
ステロイド副作用を抑えたい減量レジメン免疫抑制剤併用がよい
ステロイドを極力使いたくないアバコパン+CYCまたはRTXエビデンスあり

最後に

MPA/GPAの治療は多様化していますが、患者の病状、副作用リスク、使用可能な薬剤を踏まえて最適な選択を行うことが大切です。専門医との相談のうえ、納得できる治療計画を立てましょう。

個人的には標準治療として「静注CYまたはRTX+アバコパン」がよいのではないかと思っている次第です。



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