東京科学大学からの報告ですね。実臨床でよく経験する症例群のように思います。
Rheumatoid arthritis development and survival in idiopathic interstitial pneumonia patients with anti-citrullinated protein antibodies. Masaru Ito, Tsukasa Okamoto, et al. Respiratory Investigation 2025.
はじめに

特発性間質性肺炎(IIP)は、原因不明の肺の間質を中心に炎症や線維化を起こす病態ですが、その一部が後に膠原病、特に関節リウマチ(RA)などを発症することがありますね。
いわゆる肺病変先行型の膠原病とかRAってやつです。
RAは主に関節を侵す自己免疫疾患ですが、肺にも病変が及ぶことがあるため、呼吸器内科医にとっても無関係ではありません。

今回の研究では、RAの発症に先行してIIPを呈し、かつ抗シトルリン化タンパク抗体(ACPA)陽性であった患者に着目しています。
これはRAの診断に有用、あるいは発症を予測するマーカーの1つで、まだ関節症状がない人にもすでに体内に存在していることがあります。
つまり、こういう人がいます:
「今は関節の症状はないけど、肺の病気があって、ACPAも陽性。将来リウマチになるのか?」
この研究では、「ACPA陽性のIIP患者が、どれくらいの割合でRAを発症するのか?」
そして、「どんな人がリウマチを発症しやすく、また予後が悪くなるのか?」を明らかにしようとしています。
背景
ACPA陽性のIIP患者の中には、ACPA陽性早期にRAを発症する者がいる一方、後期に発症する者や発症しない者も存在する。
しかし、RAの発症および生存率を予測する臨床的要因は不明である。
方法
ACPA陽性であり、RAの診断を受けていないIIP患者の後ろ向き臨床データを解析した。
胸部高分解能CT(HRCT)スコアは病変の広がりに基づいて算出した。
結果
78人の患者のうち、46人(59.0%)が中央値49.3か月の観察期間中にRAと診断された。
48か月時点でのRA累積発症率は、高ACPA陽性群では67.5%、低ACPA陽性群では36.3%であり、有意に高かった(p = 0.01)。
多変量解析では、高ACPA陽性(HR 3.28, p < 0.01)および高線維化スコア(HR 1.57, p = 0.02)がRA発症の独立した予測因子であった。
さらに、Cox回帰解析では、線維化スコアとステロイドや免疫抑制剤の使用が全死亡率の上昇と関連していた(それぞれHR 1.76, p = 0.02; HR 3.32, p < 0.01)。
結語
ACPA陽性IIP患者において、高ACPA陽性および高線維化スコアはRAの早期発症のリスク因子である可能性がある。
また、高線維化スコアは予後不良とも関連していた。
呼吸器内科医は、高ACPA値と広範な線維化病変を有する患者に対して、リウマチ専門医との連携を検討すべきである。

勉強したいと思います!!
どんなことがわかったの?
この研究に参加したのは、ACPA陽性のIIP患者78人。
結果として、以下のことが明らかになりました:
結果 | 内容 |
---|---|
✅ RAを発症した割合 | 約 59%(4年以内) |
✅ RAを発症しやすい条件 | ACPAが高値(上限の3倍超) 肺の線維化が進んでいる(HRCTスコア) |
⚠️ 死亡率 | 約 32%(全原因死) |
⚠️ 死亡しやすい条件 | 肺線維化が高度 ステロイドや免疫抑制薬を使っている |
つまり、ACPAが高く、肺の線維化が強いと、RAにもなりやすく、さらに予後も悪いということがわかりました。
この結果はどう考えたらいいのか?
この研究が示してくれた重要なメッセージは、
ACPA陽性のIIP患者の多くは、比較的早くRAを発症する可能性がある
しかも、肺の線維化が強い人ほどその傾向が強い
ということです。
また、治療としてステロイドや免疫抑制薬を使用している人ほど予後が悪いという結果もありましたが、これは病状が重いから治療されていた=重症例のマーカーと考えた方が自然ですね。
ここは注意が必要!
ただし、いくつか限界もあります。
- 後ろ向き研究なので、データが完全ではない(%FVCなど一部欠損)
- 患者数が少ない(特にACPA低値群)
- ACPAの経時的な変化は調べていない
- RAの発症日が診断記録ベースなので、実際の発症時期とずれがあるかも
今後は、前向き研究やACPAの時間的変動も追うような研究が望まれますね。
この研究はどう役立つ?
- 関節症状がないIIP患者で、ACPAが高値の人が来た
- HRCTで肺の線維化が強い
→ このようなケースでは、リウマチ科に早めに紹介しておくことで、RAの早期診断・早期治療が可能になるかもしれません。(しかし私は、膠原病に特異的な自己抗体が陽性だったらいちおう早めに相談してますけれども・・・)
また、今後の予後予測にもつながるため、「慎重にフォローする対象」としてリスク層別ができるようになりますね。
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