論文の書き方統計

Self-Controlled Case Series(自己対照症例シリーズ)

self-controlled case series(自己対照症例シリーズ)とは、疫学研究でよく用いられる手法であり、特徴的なアプローチを持っています。以下に手法を解説します。

概要

定義: 研究対象者自身を「対照」として用いる手法であり、アウトカムが発生した期間(リスク期間)とアウトカムが発生しなかった期間を比較する。曝露(例: ワクチン接種)が特定の時間枠内でアウトカムに影響を与えるかを検証する。

特徴:

  • 被験者は全員がアウトカムを経験している。。
  • 個人内でリスク要因とアウトカムの関連を評価するため、個人間の交絡因子の影響を排除できる。

メリット

  1. 交絡因子を排除: 年齢、性別、遺伝的要因など、個人間の違いを完全に除外できる。
  2. 高い効率性: 対照群を設定する必要がなく、症例データのみで解析可能。
  3. 時間依存性の解析に適合: 特定のリスク期間(曝露後の一定期間など)の影響を直接評価可能。

デメリット

  1. 全てのアウトカムには適用不可: アウトカムが再発しない事象(例: 死亡)では適用困難。
  2. 解析が複雑: 時間枠やリスク期間の設定が不適切だと、結果が正確でなくなる可能性がある。
  3. リスク期間の仮定: 曝露とアウトカムの間のリスク期間を正確に設定する必要がある。

使いどころ

  • ワクチン接種後の副作用リスク(例: 発熱やアナフィラキシー)評価。
  • 薬物使用期間と副作用の関連解析。

方法

  1. 対象者の選定
    • 症例のみを対象とする(アウトカムが発生した人に限定)。
      • 例: ワクチン接種後にアレルギーを発症した人。
    • 全員がアウトカムを経験しているため、対照群は不要。

  1. 曝露とリスク期間の定義
    • 曝露: 評価対象となる因子(例: ワクチン接種、薬物投与)。
      • 例: ワクチン接種日。
    • リスク期間: 曝露後にアウトカムのリスクが高まると仮定される期間。
      • 例: ワクチン接種後7日間。
    • 非リスク期間: リスク期間外の時期(ベースライン期間)。
      • 例: ワクチン接種前および接種後8日以降。

  1. データ収集
    • 各症例について、以下の情報を収集:
      • アウトカム発生日: 例: アレルギーの診断日。
      • 曝露日: 例: ワクチン接種日。
      • フォローアップ期間: 例: 2年間。

  1. タイムウィンドウの設定
    • フォローアップ期間を以下に分割:
      1. 曝露前期間(ベースライン)。
      2. リスク期間(例: ワクチン接種後0–7日)。
      3. 曝露後の非リスク期間(例: ワクチン接種後8日以降)。
    • タイムウィンドウごとにアウトカム発生数を記録。

  1. 統計解析
    • Poisson回帰モデルを使用:
      • 各タイムウィンドウ内でのアウトカム発生率を比較。
      • ベースライン期間を基準として、リスク期間の相対リスク(Relative Risk, RR)を算出。
    • モデルの調整:
      • 時間依存性の要因(例: 年齢、季節)を調整する。
      • 個人間の固定効果を考慮。

  1. 感度分析
    • リスク期間の変更:
      • リスク期間を0–14日、0–21日などに変更して結果が変わるか確認。
    • 複数の曝露:
      • 同一個人が複数回曝露を受けている場合、それぞれのリスク期間を独立して評価。

  1. 結果の解釈
    • 仮想結果:
      • リスク期間(0–7日)の相対リスク(RR)は2.5(95%信頼区間: 1.8–3.5)。
      • 非リスク期間(8日以降)はRR = 1.0(基準期間と変わらず)。
    • 解釈:
      • ワクチン接種後7日間はアレルギーリスクが2.5倍に上昇するが、それ以降はリスクが上昇しない。

具体例(これは仮想データに基づいた結果です。ご注意を。)

研究テーマ

「インフルエンザワクチン接種がアナフィラキシー発症リスクに与える影響を評価する」

  1. 対象者の選定
    • 過去2年間にアナフィラキシーと診断された症例(10,000人)。
  2. 曝露とリスク期間の定義
    • 曝露: インフルエンザワクチン接種。
    • リスク期間: 接種後0–7日間。
    • 非リスク期間: 接種前30日間および接種後8日以降。
  3. データ収集
    • ワクチン接種日とアナフィラキシー発生日を収集。
    • 各症例についてフォローアップ期間を記録(例: 接種前30日から接種後60日まで)。
  4. 統計解析
    • Poisson回帰モデルでリスク期間と非リスク期間のアウトカム発生率を比較。
    • リスク期間の相対リスク(RR)を計算。
  5. 感度分析
    • リスク期間を0–14日、0–21日として再解析。
  6. 結果の解釈
    • 仮想結果:
      • 接種後0–7日のRR = 3.0(95%CI: 2.5–3.6)。
      • 接種前30日間および接種後8日以降のRR = 1.0。
    • 解釈:
      • インフルエンザワクチン接種後7日間はアナフィラキシーリスクが一時的に上昇するが、長期的にはリスクの上昇は見られない。
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