JCHO東京山手メディカルセンターからの報告ですね。興味深い論文です。
Clinical impact of radiological pleuroparenchymal fibroelastosis-like lesions in fibrotic hypersensitivity pneumonitis and efficacy of antigen avoidance. Yoshinaga T, et al. Respiratory Investigation 2025.
はじめに

線維化型過敏性肺炎(f-HP)は、抗原吸入による慢性炎症と線維化を主体とする間質性肺疾患です。
特発性肺線維症(IPF)に類似した進行性の経過をとる症例もあり、近年注目されています。
一方で、PPFE(pleuroparenchymal fibroelastosis)は、肺の上葉を中心に胸膜直下の線維化と弾性線維の増生を特徴とする稀な疾患ですが、f-HPを含む他のILD(IPFや膠原病ILD)、非結核性抗酸菌症などにも“PPFE様病変”としてしばしば観察されます。

過去には、PPFE様病変があるとIPFなど他疾患でも予後不良であることが報告されてきましたが、f-HPにおける明確なエビデンスは限られていました。
この研究では、PPFE様病変がf-HPの臨床経過(特に生存率およびFVC低下)に与える影響を検討するとともに、f-HP治療の基本である「抗原回避」の効果について、画像所見を層別化して評価した点が特徴です。
背景
高分解能CTにおいて、f-HP患者ではしばしば放射線学的なPPFE様病変が認められる。
本研究の目的は、これらの病変がf-HP患者の生存率および疾患進行とどのように関連するかを評価し、また抗原回避の有効性を検討することである。
方法
単一施設でのf-HP患者を対象とした後ろ向き観察研究を行った。
放射線学的PPFE様病変の有無は高分解能CTで評価された。
結果
107例中48例(44.9%)にPPFE様病変が認められた。
これらの病変は,
- 全死亡(HR=2.32、95%CI: 1.13–4.95、p=0.024)
- および疾患進行(OR=2.90、95%CI: 1.17–7.50、p=0.024)
と有意に関連していた。
また、抗原非回避は,
- 全生存率の低下(HR=2.67、p=0.008)
- および疾患進行(OR=3.62、p=0.004)
と関連した。
PPFE様病変を有する患者では、抗原回避が行われた群で有意にFVCの低下が少なかった(p=0.002)。
結語
f-HP患者における放射線学的PPFE様病変は、予後不良およびFVCの低下と関連していた。
抗原回避は生存率改善および疾患進行の抑制に有効である可能性がある。

勉強したいと思います!!
なにがわかったか?
✅PPFE様病変あり vs なしの比較
- PPFEあり群では有意にFVCが低く、BMIが低値、非喫煙者が多い傾向。
- 予後も有意に不良(中央値43.0か月 vs 84.0か月)で、生存率も低下(HR 2.32)。
- 年間FVC低下量:PPFEあり群 −147.5 mL/年 vs なし −48.0 mL/年(p<0.001)
✅抗原回避の効果
- 抗原非回避は独立して予後不良因子(HR 2.67)かつFVC低下リスク(OR 3.62)。
- PPFEあり群に限定しても、抗原回避ができた患者はFVC低下が緩徐(−81.8 mL/年 vs −226.6 mL/年)。
このPPFE様病変、どう捉えるべきか?
PPFE様病変は、他のILD(例:IPF、CTD-ILD、MAC-PDなど)と同様、f-HPにおいても予後不良のマーカーであり、肺機能の急速な悪化と関連していることが示されました。
さらに今回の研究で注目すべき点は、PPFE様病変を持つ患者は、持たない患者に比べて有意にBMIが低かったという結果です(中央値:21.2 vs 24.7、p<0.001)。
これは過去のPPFE様病変に関する研究(IPFやMAC症など)でも同様に報告されている傾向で、PPFE様病変=「やせている患者に多い」という臨床的な特徴が、本研究でも確認されました。
なぜ痩せているのか、はっきりした機序は不明ですが、
- 慢性炎症によるカヘキシア
- 胸郭の拘束による栄養摂取や活動制限
- 肺過膨張の抑制による代謝異常 などの仮説が挙げられています。
いずれにせよ、背景疾患に関わらず、PPFE様病変がある患者ではBMI低下が合併しやすいという点は、身体所見や栄養状態のチェックにおいて見逃してはならないサインだと思われますね。
明日からの診療にどう活かす?
✅1. CTでPPFE様病変を見つけたら“要注意例”と捉える
上葉優位の牽引性気管支拡張+線維化(apical capとは別)を見逃さない。
✅2. 抗原回避の再確認
すぐに住環境や抗原曝露歴の再確認。抗原回避の徹底。
✅3. 栄養状態の評価もルーチンに
PPFE様病変の有無にかかわらず、BMIや体重の経時的変化は重要な予後指標になり得ます。
必要であれば栄養サポートも早期に検討しましょう。
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