Nested case–control studies(ネストした症例対照研究)とは、疫学研究でよく用いられる手法であり、特徴的なアプローチを持っています。以下に手法を解説します。
概要
定義: 大規模なコホート研究内で、発生した症例(アウトカムを経験した人)と、アウトカムが発生しなかった対照を選び出し、詳細な解析を行う手法。特定のリスク要因(曝露)とアウトカムの関連性を効率的に調べる。
特徴:
- 研究対象はコホート内の一部に限定されるため、通常の症例対照研究よりもバイアスが少なく、効率的。
 - 対照は症例と同じコホート内からランダムに選ばれる。
 - コホート研究の中で症例を「ネスト」する(埋め込む)形で実施される。
 
メリット
- 効率的: コホート全体を解析せず、対象を症例と対照に絞るため、コストやリソースを節約できる。
 - 交絡因子の調整: 対照群が同じコホート内から選ばれるため、交絡因子(年齢や性別など)の分布が症例群と類似している。
 - 信頼性: コホート全体から選んだ症例と対照のデータがもとになるため、選択バイアスが少ない。
 
デメリット
- 時間とリソースの制約: コホート研究が前提のため、コホートデータがなければ実施できない。
 - 選択バイアスのリスク: 対照の選び方が不適切だと、解析結果にバイアスが生じる可能性がある。
 
使いどころ
- 新薬の安全性評価や特定の疾患のリスク因子解析。
 - 大規模なデータセットを効率的に解析したい場合。
 
方法
コホートの構築
- 研究対象となる母集団を定義し、全ての被験者を登録する。
- 例: 薬物使用者と非使用者、特定の疾患リスクがある患者集団。
 
 - 被験者に関する情報(曝露状況、共変量など)をベースラインで収集。
- 例: 年齢、性別、既往歴、生活習慣。
 
 
症例(Case)の特定
- コホートの追跡期間中に、アウトカム(疾患、死亡など)が発生した被験者を症例として特定する。
- 例: 心筋梗塞を発症した患者。
 
 
対照(Control)の選択
- 症例と同じコホート内から、アウトカムが発生していない対照を無作為に選ぶ。
- マッチング方法(症例と対照を特定の要因で一致させる):
- 年齢、性別、登録時期などでマッチング。
 - マッチングすることで交絡因子の影響を軽減。
 
 - マッチング比:
- 通常は1:1または1:4の比率で症例に対する対照を選択。
 
 
 - マッチング方法(症例と対照を特定の要因で一致させる):
 
曝露情報の収集
- 症例と対照について、曝露状況(リスク因子)を収集。
- 例: 薬剤使用、喫煙歴、環境因子への曝露。
 
 - 曝露情報は症例がアウトカムを経験する以前の時点で取得する(時間の因果関係を考慮)。
 
統計解析
- 症例と対照の曝露状況を比較し、曝露とアウトカムの関連を評価する。
- **オッズ比(Odds Ratio)**を算出:
- 症例群と対照群における曝露の頻度を比較。
 - オッズ比が1より大きい場合、曝露がアウトカムのリスクを増加させる可能性がある。
 
 - ロジスティック回帰を用いて、交絡因子を調整した解析を実施。
 
 - **オッズ比(Odds Ratio)**を算出:
 
感度分析
- 選択した対照やマッチング方法が結果に与える影響を確認する。
 - 異なるマッチング基準や比率での解析を試みる。
 
結果の解釈
- 曝露とアウトカムの関連を解釈し、因果関係を推定する。
 - 注意点として、コホートの追跡期間や症例数が解析結果に影響を与える可能性があることを考慮する。
 
具体例(これは仮想データに基づいた結果です。ご注意を。)
研究テーマ
「特定の職業曝露(例:アスベスト)が肺癌の発症リスクに与える影響を評価する」
具体的な手法
- コホート構築
- 母集団: 全国的な職業健康調査データベースを使用して、過去30年間に職業歴を記録した従業員100,000人をコホートとして登録。
 - 収集データ:
- ベースライン情報: 年齢、性別、喫煙歴、既往歴。
 - 職業曝露情報: アスベストや他の有害物質への曝露。
 - フォローアップ期間: 20年間。
 
 
 
- 症例(肺癌発症者)の特定
- コホートのフォローアップ期間中に肺癌を診断された被験者を症例とする。
- 診断情報は、医療データベースやがん登録から取得。
 
 - 症例数: 500人。
 
 - コホートのフォローアップ期間中に肺癌を診断された被験者を症例とする。
 
- 対照の選択
- 対照基準: コホート内で肺癌を発症していない人から、症例とマッチングさせて対照を選ぶ。
 - マッチング変数: 年齢(±2歳)、性別、喫煙歴。
 - 対照比: 症例1人に対して対照4人(500人の症例に対して2,000人の対照)。
- 選び方: コホート内から無作為に選択。
 
 
 
- 曝露情報の収集
- 症例と対照のアスベスト曝露状況を、雇用歴や職業環境データから取得。
 - 曝露レベルを定量化:
- 曝露なし。
 - 低曝露(断続的な曝露)。
 - 高曝露(長期間または高濃度の曝露)。
 
 - 曝露期間は、肺癌診断(症例)または同様の追跡期間終了(対照)の5年以上前までのデータを使用(時間的因果性を考慮)。
 
 
- 統計解析
- オッズ比の算出:
- 症例と対照のアスベスト曝露の割合を比較し、オッズ比を計算。
 - 曝露なしを基準として、低曝露と高曝露のリスクを評価。
 
 - 交絡因子の調整:
- 喫煙、職業以外の曝露要因(例: 空気汚染)、既往歴などをロジスティック回帰モデルで調整。
 
 
 - オッズ比の算出:
 
- 感度分析
- 異なる定義の曝露期間(例: 10年前までの曝露データを用いる)で分析を行い、結果が安定しているか確認。
 - サブグループ解析:
- 喫煙者と非喫煙者に分けて解析。
 - 年齢層別(例: 40歳未満 vs. 40歳以上)に解析。
 
 
 
- 結果の解釈
- 仮想結果:
- 曝露なしに比べて、低曝露群のオッズ比は1.5(95%信頼区間: 1.2–1.8)。
 - 高曝露群のオッズ比は3.2(95%信頼区間: 2.8–3.7)。
 
 - 解釈: アスベスト曝露は、曝露量に応じて肺癌リスクを増加させる。
 
 - 仮想結果:
 
  
  
  
  