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いろいろ解説深掘り間質性肺疾患

過敏性肺炎⑦~線維性過敏性肺炎の病理像をやさしく解説します

過敏性肺炎(HP)は、反復する抗原吸入によって誘発される免疫性びまん性肺疾患であり、2020年ガイドラインでは、非線維性(nonfibrotic HP)と線維性(fHP)に分類されました。

病理組織を観察すると、こんな特徴があります:

  • 末梢気道や肺胞まわりにリンパ球などの炎症細胞が浸潤
  • 小さな肉芽腫が点々と見える
  • 時間が経つと線維化(肺の組織が硬くなる)が加わる(線維性HP)

このように、HPの病理は「炎症・肉芽腫・線維化」が混ざり合った複合的な病変が特徴なのです。

ここでは、線維性HPに特徴的な病理所見をわかりやすく解説します。

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線維性過敏性肺炎とは?

線維性過敏性肺炎(fibrotic hypersensitivity pneumonitis:fHP)は、アレルゲンの反復吸入により引き起こされるアレルギー性間質性肺疾患です。

非線維性過敏性肺炎とは異なり、線維化(fibrosis)を伴う慢性進行型で、予後にも影響を及ぼします。

線維性過敏性肺炎における病理組織診断の基準

Fibrotic HPProbable HPIndeterminate for HP
生検した組織の少なくとも1つに、
以下3つの所見を有すること
生検した組織の少なくとも1つに、
以下2つの所見を有すること
生検した組織の少なくとも1つに、
以下の1つの所見を有すること
(1) Chronic fibrosing IP(慢性線維性間質性肺炎)
– 肺胞構造の破壊、線維芽細胞巣±胸膜周囲に蜂巣肺
– fibrotic NSIP様のパターン
(1) Chronic fibrosing IP(慢性線維性間質性肺炎)
– 肺胞構造の破壊、線維芽細胞巣±胸膜周囲に蜂巣肺
– fibrotic NSIP様のパターン
(1) Chronic fibrosing IP(慢性線維性間質性肺炎)
– 肺胞構造の破壊、線維芽細胞巣±胸膜周囲に蜂巣肺
– fibrotic NSIP様のパターン
(2) airway centered interstitial fibrosis(気道中心性線維化優位)
– ±細気管支周囲の気道上皮化生
– ±架橋線維化
(2) airway centered interstitial fibrosis(気道中心性線維化優位)
– ±細気管支周囲の気道上皮化生
– ±架橋線維化
(3) Poorly formed non-necrotizing granulomas
(幼若な非壊死性肉芽腫)
以下の3項目が存在していることもある:
± cellular IP
± cellular bronchiolitis
± 器質化肺炎
以下の3項目が存在していることもある:
± cellular IP
± cellular bronchiolitis
± 器質化肺炎
以下の3項目が存在していることもある:
± cellular IP
± cellular bronchiolitis
± 器質化肺炎

加えて
HP以外の診断を示す以下の所見がみられないこと:
– 形質細胞優位の炎症細胞浸潤
– リンパ濾胞形成が目立つ
– 明瞭な類上皮細胞からなる肉芽腫や壊死を伴う肉芽腫
– 誤嚥を考えられる異物

加えて
HP以外の診断を示す以下の所見がみられないこと:

– 形質細胞優位の炎症細胞浸潤
– リンパ濾胞形成が目立つ
– 明瞭な類上皮細胞からなる肉芽腫や壊死を伴う肉芽腫
– 誤嚥を考えられる異物

加えて
HP以外の診断を示す以下の所見がみられないこと:
– 形質細胞優位の炎症細胞浸潤
– リンパ濾胞形成が目立つ
– 明瞭な類上皮細胞からなる肉芽腫や壊死を伴う肉芽腫
– 誤嚥を考えられる異物

脚注:

  • Hot tub lungの組織所見は従来の過敏性肺炎の非線維化型および線維化型と異なり、これを除外する。
  • 線維性過敏性肺炎では、線維化のない領域で非線維性(細胞性)過敏性肺炎の特徴を認めることがある。この所見に線維化を認める場合、線維性過敏性肺炎診断の組織学的な裏付けとなる。
  • 架橋線維化:胸膜下の線維化巣および葉中心または小葉中心領域の線維化巣を繋げる線維化。
  • 過敏性肺炎の肉芽腫は小さく、密な集塊を形成せず、サルコイドーシスでみられる肉芽腫周囲の硝子性線維化を伴わない。

1)UIP様の線維化を認めることもある。(Chestガイドラインには記載されている)
2)ACIFがなくても、肉芽腫がみられる場合、気道中心性にcellular IPがみられる場合には過敏性肺炎と判断するべきである。
3)肉芽腫の場所として、気腔内も含まれているが、IPFの蜂巣肺近傍や他の炎症性病変でもこのような所見は非特異的に観察されることを注意すべきである。


NSIP:nonspecific interstitial pneumonia(非特異性間質性肺炎)
UIP:usual interstitial pneumonia(通常型間質性肺炎)
ACIF:airway centered interstitial fibrosis(気道中心性線維化)

(Raghu G, Remy‐Jardin M, Ryerson CJ, et al. Diagnosis of hypersensitivity pneumonitis in adults. An official ATS/JRS/ALAT clinical practice guideline. Am J Respir Crit Care Med 2020; 202: e36–e69 より改変転載)


病理所見のポイント:典型的なfHPの三大所見

ガイドラインでは、fHPに特徴的な病理像を以下の3項目で定義しています:

  1. 慢性線維化性間質性肺炎
     a. 肺の構造改変、線維芽細胞巣(fibroblastic foci)± 胸膜下蜂巣肺(honeycombing)
    →UIP(usual interstitial pneumonia)パターン
     b. NSIP様パターン
  2. 気道中心性線維化
     a. 細気管支上皮化生
     b. ±架橋線維化(胸膜下と細葉中心部・細葉中心部の線維化巣をつなぐ線維化)
  3. 幼若な非壊死性肉芽腫の存在
     - 小さく疎な集簇
     - サルコイドーシスと異なり硝子様の線維化を伴わない

これら1~3のすべてが1つ以上の生検部位で認められる場合、「典型的な線維性過敏性肺炎」と診断されます。

尚、UIPパターンの症例は、他のパターンと比較して、予後不良であることが多いとされています。


なくてもよいが、あると参考になる所見

線維性過敏性肺炎ではしばしば以下のような、非線維性HPでみられる所見も併存します:

  • 細胞性間質性肺炎
  • 細気管支炎(cellular bronchiolitis)
  • 器質化肺炎(organizing pneumonia)

このような所見は、線維性HPであっても線維化が少ない領域に現れることがあり、
あれば過敏性肺炎(HP)という診断全体を支持する重要な根拠となります

この所見を見た時に非線維性か線維性かを区別するときには他の病理標本や胸部CTで線維化所見がどの程度あるかで判断するとよいでしょう。

その他の参考所見

  • 限局的なPBM(細気管支周囲の気道上皮化生:peribronchiolar metaplasia)
    →本来なら肺胞などがある場所に、気道上皮ができてしまっている状態を指します。これは、長期的な炎症や線維化によって、組織に異常修復が生じた結果です。
  • 泡沫状マクロファージ
    →肺で異物を取り込んで“掃除している”マクロファージが、泡のような姿になっている状態。抗原食べてる。
  • コレステロール裂隙
    →非特異的所見ですが、周囲に泡沫状マクロファージや異物型巨細胞などがあれば、脂質関連の病変を強く示唆します。HPでしばしばみられる所見の一つです。


診断カテゴリーの整理(2020 ATS/JRS/ALAT)

  • Typical HP(典型的):上記1~3の項目すべてあり
  • Probable HP(可能性が高い):1と2の項目あり。肉芽腫なし。
  • Indeterminate for HP(確定できない):1の項目のみ。

誤解してほしくないのは、「Indeterminate」というのは“HPではない”という意味ではなく、“HPである可能性もあるが、そうでない可能性もある”という確率的な評価であるという点です。


他疾患を示唆する「除外所見」にも注意!

以下のような所見がある場合は、過敏性肺炎以外の疾患を考慮します。
これは、前回の非線維性HP同様になります。

  • 形質細胞優位の浸潤(→膠原病など)
  • 明瞭なリンパ濾胞形成(→膠原病など)
  • サルコイド様肉芽腫(→サルコイドーシスなど)
  • 壊死性肉芽腫(→抗酸菌・真菌感染や誤嚥)

線維性過敏性肺炎と鑑別すべき疾患は?

fHPは、いくつかの疾患と病理組織像がよく似ています。
ここでは特に「IPF(特発性肺線維症)」と「膠原病に伴う間質性肺疾患(ILD)」との違いを見ていきましょう。


vs IPF

所見fHPIPF
細気管支周囲の炎症や線維化あり少ない
小葉中心性線維化よくある少ない
架橋線維化特徴的あまり見られない
巨細胞・肉芽腫・腔内器質化ときどき見られるほぼ見られない

一方で、IPFでは「線維芽細胞巣」や「胸膜に沿った線維化」が特徴的とされます。

つまり、fHPは気道のまわりを中心に炎症が広がりやすくIPFは肺の辺縁から線維化が進む傾向があります。


vs 膠原病関連ILD

次に、関節リウマチなどの膠原病に関連して起こる肺炎との違いです。

ここも要注意のポイント:

  • fHPでは、やはり細気管支のまわりに炎症や線維化、小葉中心性の線維化が見られやすい。
  • 膠原病では、胚中心を伴うリンパ濾胞(リンパ球が集まってできた構造)や形質細浸潤が特徴です。

ただし、まれにfHPと膠原病が合併することもあるため、総合的な判断が必要です。


見分けのポイントは“どこに線維化が起きているか”と“どんな細胞が集まっているか”

  • fHPは「細気管支や小葉の中心」に線維化が集中
  • IPFは「肺の小葉辺縁・下のほう(胸膜下)」に進行性の線維化が多い
  • 膠原病由来は「リンパ球の塊(リンパ濾胞)」や「形質細胞浸潤」が特徴

その他の鑑別診断も重要

2021 CHESTガイドラインでは、

  • 線維性サルコイドーシス、
  • 線維化を伴う誤嚥
  • 膠原病関連のILD
  • 薬剤性
  • 免疫不全症でみられるリンパ球性肉芽腫性病変
  • 喫煙関連の線維化
  • 肉芽腫性の感染症
  • 職業曝露疾患(塵肺/アスベスト/超合金など)
  • ランゲルハンス組織球症

も鑑別に挙げられています。

まとめ

線維性過敏性肺炎の病理診断では、単に「線維化がある」ことだけを見て判断するのではなく、線維化の分布や組織パターンの把握、さらには他疾患の除外が不可欠です。

特に、UIPとの鑑別や、肉芽腫・細気管支炎といった非線維性所見の併存は、診断の重要な手がかりとなります。

非病理医にとって、これらの所見を自ら拾い上げて解釈することは難しいかもしれません。

しかし、あらかじめこうした病理所見の意味を理解しておくことで、病理依頼の際に「どのような疾患を鑑別したいか」「どんな所見を確認してもらいたいか」といった意図を明確に伝えることができ、診断精度の向上にもつながるのではないでしょうか。



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