大阪公立大学からの報告ですね。
Toshiyuki Nakai, et al. Application of endobronchial ultrasound-guided cryobiopsy for centrally located intrapulmonary lesions: A retrospective cohort study. Lung cancer 2025.
はじめに

肺がんは依然として予後不良の疾患であり、治療方針を決定するには正確な病理診断が必要です。
特に進行非小細胞肺がん(NSCLC)では、PD-L1の発現や遺伝子変異の評価が治療薬の選択に直結するため、質・量ともに優れた検体が求められます。
しかし、中心型肺内病変(CLILs)は気管支壁の外側に位置しており、従来の経気管支生検では到達困難で、十分な組織が得られないことがしばしばありました。

このような背景のもとで注目されているのが、EBUS-TBNAで作成した経路(トラクト)を利用してcryoprobeを挿入する「EBUS-cryo法」です。
これにより、従来の限界を超え、リアルタイムで安全に深部組織へアプローチできる可能性があるんですね。
EBUS-Cryoの手技
① 術前準備・挿管
- 鎮静下で施行(ミダゾラム、フェンタニル、プロポフォールなどを使用)
- EBUSスコープ(BF-UC290F)を挿入し、8.5mmの気管チューブで挿管
② 標的病変の描出(EBUS画像)
- CTとEBUS画像(形状、カラードプラ、エラストグラフィ)を併用し、中心型肺内病変を同定
③ トラクト作成(EBUS-TBNA)
- 25Gの針(NA-U401SX-4025N)を使って病変に3回程度穿刺
- 針を前後に20~30回動かして組織を採取
- スコープの角度や回転を駆使しながら、Cryoprobeが通るためのトラクトを作成
④ EBUS-Cryoの実施
- 1.1mmのCryoprobeを、TBNAで作成した針道から病変内部に挿入
- 超音波画像を見ながら、壊死や血管を避けて凍結位置を決定
- 約7秒間凍結し、CryoprobeとEBUSスコープを一体で引き抜いて組織を採取
- 組織は生理食塩水で解凍後、すぐにホルマリン固定
⑤ 止血確認・繰り返し採取
- すぐにスコープを再挿入して出血の有無を確認
- 凍結時間を最大10秒程度に調整しながら、通常2~3回程度採取
- 出血はほとんどが軽度で、吸引のみでコントロール可能
背景
EBUS-cryoは、高品質なリンパ節標本の採取を可能にする技術である。
この技術を肺腫瘍などの肺内病変に応用することで、十分な質と量の組織採取が可能になると期待される。
そこで本研究では、EBUS-TBNAにより作成されたトラクト(針道)を用いてEBUS-cryoを中心型肺内病変(CLILs)に適用し、その診断能、安全性、組織採取能を評価した。
方法
2023年3月から2024年12月に大阪公立大学病院でCLILsの診断目的でEBUS-TBNA後にEBUS-cryoを施行した患者を後ろ向きに解析した。
専門の病理医が全標本の質と面積を評価し、6段階スコア(1〜6点)で評価した。
スコアが5以上を「高品質」と定義した。各手技による組織の質・面積・診断能を比較した。
結果
74例中70例が成功し解析対象となった。
EBUS-cryoとEBUS-TBNAの診断率はそれぞれ95.7%と91.4%であり、有意差はなかった(P = 0.51)。
中等度の出血は5.7%に発生したが、重篤な合併症はなかった。
標本の質の平均スコアと面積はいずれもEBUS-cryoがEBUS-TBNAよりも有意に高かった(質:4.84 ± 1.31 vs. 2.27 ± 1.09、P < 0.001;面積:5.90 ± 3.06 mm² vs. 4.10 ± 3.51 mm²、P < 0.001)。
高品質標本の取得率もEBUS-cryoで高かった(72.8% vs. 4.4%;P < 0.001)。
結語
CLILsに対するEBUS-cryoは、高い診断能、許容範囲の安全性、優れた組織採取能を有する有用な技術である。

勉強したいと思います!!
どんな結果だったか?
70例のCLILs症例でEBUS-cryoが成功裏に施行されました。主な結果は以下の通りです。
指標 | EBUS-cryo | EBUS-TBNA |
---|---|---|
診断率 | 95.7% | 91.4%(有意差なし) |
高品質検体取得率 | 72.8% | 4.4%(P < 0.001) |
検体面積(平均) | 5.90 mm² | 4.10 mm²(P < 0.001) |
出血(中等度以上) | 5.7% | なし |
また、PD-L1解析成功率はEBUS-cryo由来標本で95.6%、遺伝子パネル検査でも97.6%が適応可能と判断されました。
この結果から、EBUS-cryoは診断率に加えて、「バイオマーカー検査への対応力」が非常に高いことがわかりますね。
この研究から何が読み取れる?
本研究では、従来の課題であった「厚い気管支壁越しの質の高い組織採取」が、25G針でのトラクト作成+1.1mm cryoprobeの使用により克服できる可能性が示されました。
さらに、ROSE(迅速細胞診評価)を併用しながら、安全性を担保した上で高い診断能を達成している点も特筆すべきです。
ただし、クライオ生検は「ピンポイントな部位からの採取」であるため、腫瘍内異質性がある場合にはEBUS-TBNAによる広域採取と相互補完が重要となります。
限界と注意点
- 対象が悪性疾患に限定されており、良性疾患への応用は未評価であること
- 25G針使用によるバイアス(標本サイズが小さくなる可能性)
- クライオ標本は肉眼的に大きく、ブラインド評価に限界があった点
- 比較対象が22GのTBNAではなく、25Gだったため、相対的にcryoprobeが有利になった可能性
実臨床にどう活かす?
- 「CTで見えるけど到達困難なCLILs」に対し、リアルタイムかつ高精度での組織採取が可能
- 少ない回数で高品質な標本を得ることができ、再生検のリスクを低減
- PD-L1・EGFRなどのバイオマーカー解析にも十分耐えうる検体が得られる
- 今後の個別化医療(precision medicine)に不可欠な技術として、実装可能なエビデンスを提供

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