Desai A, et al. Clinical Outcomes of Perioperative Immunotherapy in Resectable Non–Small Cell Lung Cancer. JAMA Network Open 2025.
はじめに

肺がんは依然としてがんによる死亡原因の上位を占めており、中でも早期非小細胞肺がん(NSCLC)は40~45%を占めるほどです。
治癒を目指すには外科的切除が基本となりますが、再発リスクを減らすための周術期化学療法において、従来のプラチナ製剤を用いた化学療法だけでは再発率が高い一群があり、限界があるのが現状です。

このような背景から、周術期(術前・術後)の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の併用が注目されています。ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブなどが臨床試験で良好な効果を示し、2021年以降、米国FDAでも承認が相次いでいます。
ただし、これまでの知見の多くは臨床試験の結果であり、「実臨床では本当に効果が出ているのか?」「どれくらい使われているのか?」という点については十分なデータがありませんでした。
今回の研究は、こうした疑問に答えるために米国のリアルワールドデータを活用したコホート研究です。
重要性
肺がんは依然としてがん関連死亡の主要な原因であり、早期の非小細胞肺がん(NSCLC)は新規診断の40~45%を占める。
周術期の化学免疫療法の導入が進んでいるが、実臨床での使用状況とその転帰に関するデータは限られている。
目的
切除可能なステージII〜IIIAのNSCLC患者における術前および術後の化学免疫療法の使用パターンと臨床成績を評価すること。
デザイン、セッティング、参加者
この後ろ向きコホート研究は、米国内約280のがんクリニックからの電子カルテデータを含むFlatiron Healthデータベースを用いて実施された。
2020年1月1日~2023年10月31日にステージII〜IIIAのNSCLCと診断され、外科的切除を受けた成人患者を対象とした。
術前にはニボルマブまたはペムブロリズマブ+プラチナ製剤ベースの化学療法、術後にはアテゾリズマブまたはペムブロリズマブ(±化学療法)を受けた患者が含まれる。
曝露因子
切除可能なNSCLCに対する術前および術後の化学免疫療法。
主なアウトカムと評価項目
主要評価項目は遠隔転移のない生存期間(DMFS:distant metastasis–free survival)で、治療開始から転移または死亡までの期間と定義した。
副次評価項目にはバイオマーカー検査率、治療開始までの期間、転移パターンが含まれる。
結果
1334人の切除可能なステージII〜IIIAのNSCLC患者が分析対象となり、424人が術前化学免疫療法、910人が術後化学免疫療法または免疫療法単独を受けた。
18か月時点でのDMFSは、術前群で80.2%(95%CI, 75.0%-85.7%)、術後群で83.0%(95%CI, 80.0%-86.0%)であった。
バイオマーカー検査(例:PD-L1)は術後群の方が高頻度で実施されていた(72.2% vs 52.6%、P<.001)。
最も多い転移部位は脳、骨、胸膜で両群とも同様であった。
2022年から2023年にかけて化学免疫療法の使用は増加したが、対象患者の30%未満にとどまった。
結語
この後ろ向きコホート研究では、化学免疫療法が切除可能なNSCLC患者において良好な臨床的DMFSを示したことが明らかとなった。
一方で、これらの治療法のより広範な導入には依然として課題が残されている。

勉強したいと思います!!
どんな結果だったか?
この研究では、アメリカ国内の280のがんセンターの実臨床データを解析し、切除可能なステージII〜IIIA NSCLCに対して免疫療法を受けた患者さん1334人を対象に、以下の2群で比較しています。
群 | 治療内容 | 人数 |
---|---|---|
術前群 | ニボルマブ or ペムブロリズマブ + 化学療法 | 424人 |
術後群 | アテゾリズマブ or ペムブロリズマブ ± 化学療法 | 910人 |
一番の注目点:18か月の遠隔転移なし生存率(DMFS)
- 術前群:80.2%
- 術後群:83.0%
→ 両群とも良好な成績
バイオマーカー検査(PD-L1, EGFRなど)
- 術前群では検査率が50%程度と低い
- 術後群では70%以上が検査を受けていました
転移部位
両群ともに共通して多かったのは:
- 脳
- 骨
- 胸膜
この研究から何が読み取れる?
本研究の大きなポイントは、「実臨床のデータであっても、術前・術後いずれの化学免疫療法も良好なDMFSを達成している」ということですね。これにより、臨床試験の結果が現場でも再現されていることが裏付けられました。
また、治療期間が短いほどDMFSが低く、長いほど高いという「治療期間と転帰の相関」も示されており、継続的な治療の重要性が示唆されています。
✔ 術前と術後、どっちがいいのか?
- 明確な「優劣」は今回の研究ではつけられませんでした。
- ステージIIIには術前が好まれる傾向、ステージIIでは術後が主流のようです。
- ポイントは「その患者が治療を完遂できるか」。術前なら確実に化学免疫療法を先に投与できる利点があります。
✔ なぜ免疫療法の導入率が30%未満なのか?
- 費用、検査体制、導入ノウハウの不足が原因と考えられます。
- まだ「導入のハードルが高い」と感じている施設が多いのかもしれません。
限界と注意点
- 後ろ向き研究であり、因果関係は証明できない
- OS(全生存)や局所再発率などのデータは未報告
- バイアスや記録の欠落も一定程度ある可能性
実臨床にどう活かす?
- 周術期の導入タイミング(術前か術後か)に関わらず一定の効果が期待できる
- 治療を受けた方が再発リスクが低くなる

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