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肺癌や悪性腫瘍論文紹介

ステージIII EGFR変異非小細胞肺がんにおける免疫チェックポイント阻害薬──放射線化学療法後デュルバルマブの可能性

これまた、リアルワールド解析です。
切除不能ステージIII EGFR変異陽性NSCLCにおけるCCRT後のデュルバルマブ投与の有効性と安全性について、最新の後ろ向きコホート研究を読み解きます。

Fujisaki et al. Durvalumab after concurrent chemoradiotherapy for sensitizing epidermal growth factor receptor-mutant stage III non-small cell lung cancer: A Japanese Real-World data analysis. Lung Cancer 2025.

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はじめに

ステージIIIの非小細胞肺癌(NSCLC)に対して、化学放射線療法(CCRT)後に免疫チェックポイント阻害薬(ICI)のデュルバルマブを使うことは、PACIFIC試験により標準治療のひとつとなっています。

ただしこの恩恵が、EGFR変異陽性例にも及ぶのかについては論争がありました。

その背景には以下の理由があります:

  • ICIのあとにEGFR-TKI(特にオシメルチニブ)を投与すると、重篤な肺障害が起こりやすいという報告も。
  • EGFR変異陽性NSCLCは、ICI単剤に対して効果が乏しいとされる。
  • PACIFIC試験のサブグループ解析でも、EGFR変異群で明確な有効性は示されなかった。

一方、化学療法や放射線療法には腫瘍免疫環境を改善する可能性もあり、「CCRTを挟むことによりEGFR変異例でもICIの効果が発揮されるのでは?」という仮説が提起されていました。

このような臨床的ジレンマに対して、本研究は日本全国48施設のリアルワールドデータを用いて、「EGFR変異陽性ステージIII NSCLCにおけるCCRT後のデュルバルマブ投与の有効性と安全性」を評価しています。

背景

局所進行EGFR変異非小細胞肺癌(NSCLC)において、同時化学放射線療法(CCRT)後のデュルバルマブ療法の有効性と安全性には依然として議論がある。

方法

この後ろ向きコホート研究では、2015年7月から2022年6月の間に、日本の48施設でCCRTを完遂し、進行を認めなかった切除不能なステージIII感受性EGFR変異NSCLC患者の治療成績を解析した。

再発後にEGFR変異が確認された患者は除外された。

群間比較は傾向スコアマッチング(PSM)によって行われた。

主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)であり、副次評価項目は全生存期間(OS)およびデュルバルマブ治療後のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の安全性であった。

結果

162名の適格患者のうち、106名がCCRT後にデュルバルマブを受け、56名は受けなかった。

PSM後、各群に56名ずつがマッチされた。

PFSの中央値は、

  • デュルバルマブ群が26.8か月(95%CI, 13.9–未到達)、
  • CCRT単独群が11.1か月(95%CI, 9.0–18.2)であり、

統計的に有意な差が認められた(HR 0.52, p = 0.005)。

一方で、デュルバルマブ後にオシメルチニブを早期投与した場合、

CTCAEグレード3以上の肺炎の頻度が増加する傾向があったが、

EGFR-TKI全体でのグレード3以上の有害事象発生率に群間差はなかった(23.5% vs 20.8%)。

結語

結論として、CCRT後のデュルバルマブは、局所進行EGFR変異NSCLC患者においてPFSを延長する可能性がある。

オシメルチニブの投与時期に注意すれば、安全にデュルバルマブを投与できる。


感想です。

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どんな結果だった?

研究対象は、再発前にEGFR変異(exon 19欠失またはL858R)を確認済の162例。うち106例がCCRT後にデュルバルマブを投与され、残りの56例はCCRT単独群として比較されました。

傾向スコアマッチング後の解析:

指標デュルバルマブ群CCRT単独群ハザード比(HR)p値
PFS中央値26.8か月11.1か月0.520.005
1年PFS率67.4%48.0%
2年PFS率52.5%25.6%
3年PFS率40.8%16.4%

➡ デュルバルマブ群で明らかに無増悪生存期間が延長しました。

一方で、全生存期間(OS)には有意差はなしでした(HR 0.61、p = 0.26)。

注意点として:

  • オシメルチニブをデュルバルマブ後6か月以内に投与すると、肺炎のリスクが高まる(17.6% vs 0%、p = 0.048)。

➡ デュルバルマブを使う場合、その後のEGFR-TKI開始タイミングに十分注意が必要ですね。


この研究からわかること

この研究の重要なポイントは、「感受性EGFR変異陽性NSCLCにおいても、デュルバルマブがPFSを延長しうる」ことをリアルワールドの大規模データで示した点ですね。

過去のPACIFIC試験ではEGFR変異群に対する有効性は明らかでなかったため、EGFR変異陽性例ではICIを避ける傾向がありました。

しかし、この研究では、再発前にEGFR変異が確認されていた患者のみを解析対象にし、かつPSMを用いたことにより、バイアスを可能な限り排除した設計になっています。

論文解釈に注意するポイント

  • 後ろ向き研究であること
  • 中央評価が行われていない点
  • デュルバルマブ未投与群が早期診断例である可能性
  • 観察期間や遺伝子検査の時期による治療選択の違い(デュルバルマブ承認前後)などの時代バイアスが存在。

臨床現場でどう活かす?

  • EGFR変異陽性でも、CCRT後のデュルバルマブはPFSを延長できる可能性があることが示唆された。
  • 治療選択の幅が広がり、「PD-L1高発現例」や「免疫環境が改善された例」においては、ICIが選択肢として再評価される可能性がある。
  • 一方で、その後のEGFR-TKI開始時期には注意が必要であり、6か月以上空けることで肺障害のリスクが低下する可能性。

臨床現場では「EGFR陽性だからICIはダメ」と一律に判断せず、個別のリスク評価(特に再発タイミングと治療間隔)を行いながら、選択肢を広げるべきですね。



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