特発性Pleuroparenchymal Fibroelastosis(iPPFE)は、2013年のATS/ERS改訂により定義された稀な間質性肺疾患(ILD)で、診療の現場でも遭遇する機会が増えてきました。今回は疾患概念と臨床像について解説します。

iPPFEとは? ― 上葉に現れる特殊な線維化
iPPFEは、両側の上肺野に好発する慢性線維性ILDの一つです。


病理学的には以下のような特徴を持ちます:
- つぶれた肺胞由来の弾性線維の集まり(EVG染色で黒くみえるところ)
- 胸膜直下の線維化(弾性線維を伴う)
- 肺胞近傍の線維化進展像
- 硝子化線維組織による胸膜肥厚
もともとは病理診断名として登場しましたが、現在では臨床診断名としても一般的に用いられています。

日本ですでに存在していた類似概念
実は、日本ではPPFEという国際的名称が登場する前から、「特発性上葉限局型肺線維症(別名:網谷病)」や「上葉優位型肺線維症」といった類似の概念が存在していました。
- 網谷病は上葉に限局した線維化
- 上葉優位型肺線維症は、上葉を中心に他の肺葉にも病変が広がることがある
どちらも共通して、上葉に線維性病変があり、その組織像がPPFEパターンである点が重要です。
“日本発”ともいえる疾患概念
これらの日本で蓄積された知見は、国際的なiPPFEという疾患概念にも取り入れられました。
つまり、iPPFEは国際的には比較的新しい名前ながら、そのルーツは日本にあるとも言えるのです。
臨床像:診断のヒントは「やせ」「扁平胸郭」「気胸(進行例)」
iPPFEは、比較的ゆっくり進行する間質性肺疾患でありながら、進行すると身体的・呼吸器的症状を示します。
背景
- 男女差は明確でなく、若年発症も稀ではない
- 喫煙との関連は薄く、喫煙歴があるのは全体の3割ほど
症状の進行と身体所見
- 初期は無症状。健診や胸部異常陰影で紹介されるケースも多い。
- 進行すると、
- 乾性咳嗽
- 労作時呼吸困難
- 気胸(進行していると頻度が高く、初発症状が胸痛のことも)
- 特徴的な身体所見:
- 進行性のやせ(低BMI)
- 扁平胸郭
- fine cracklesは下肺野に病変があるときに聴取されやすい。
上葉病変だけだと聴取されにくい。
👉 やせ・扁平胸郭・気胸(進行例)のトリオはPPFEを疑う重要なヒント!
血液検査の所見
- KL-6:やや上昇することもあるが、正常範囲のことも多い
→ 上葉病変のみでは上がらず、下葉の線維化(網状影など)の進行とともに上昇
(個人的にはPPFEの胸膜病変単独では上昇せず、併存する上下葉などの線維化病変の進行によって上昇するのではないかと考えております。) - SP-DやSP-A:特にSP-Dの上昇が目立つことがある
呼吸機能検査の特徴
- 拘束性障害とガス交換障害を呈する
- FVC・TLC:低下
- 1秒率:90%超えも多く、重要な所見!
- RV(残気量)は保たれ、RV/TLC比上昇
→ この所見はIPFでは見られにくく、PPFEに特徴的
👆扁平胸郭が肺の伸展を制限し、さらにFVC低下に拍車をかける。
まとめ:iPPFE診療の着眼点と診断のコツ
iPPFEは、比較的新しい国際的な疾患概念でありながら、そのルーツは日本にあるとも言える特殊な線維化性肺疾患です。
現場でiPPFEを疑うためには、臨床・画像・呼吸機能・病歴を統合的に評価する視点が欠かせません。
🔑iPPFEを疑うときのポイント
カテゴリ | 着目点 |
---|---|
画像 | 両側上葉の胸膜直下に楔状の線維化+容積減少 |
症状 | 無症状で経過することも多いが、進行すると咳・呼吸困難・気胸 |
身体所見 | 低BMI・進行性のやせ・扁平胸郭(特に重要) |
血液検査 | KL-6は正常~軽度上昇、SP-Dの上昇が目立つことあり |
呼吸機能 | 拘束性障害、FVC低下、1秒率高値+RV保たれる(RV/TLC↑) |
その他 | 若年・非喫煙例でも発症あり、進行例では気胸が初発になることも |
胸部レントゲンやCTで上葉優位の胸膜肥厚+線維化病変、低BMIや扁平胸郭をみたらPPFEを疑いましょう。
次回以降の記事では画像所見や病理所見、診断や治療、予後について解説していく予定です。


<スマートフォンをご利用の皆さまへ>
他の記事をご覧になりたい場合は、画面下の「メニュー」「検索」「サイドバー」を使って、気になる話題を検索することもできますので、ぜひご活用ください。
<PCをご利用の皆さまへ>
他の記事をご覧になりたい場合は、画面上部のメニューバーや画面右側のサイドバーをご利用いただき、気になる話題をお探しください。