「ILDだからICIは避けた方がいい」——そんな臨床での“空気”を揺るがすデータが報告されました。
全国8,000例の解析で、ICIは化学療法の“ほぼ2倍”の生存期間を示し、DIILD発症の有無でも生存に差がなかったのです。
この研究のインパクトと臨床的示唆を、読みやすく整理しました。
Survival benefit of immune checkpoint inhibitors for non-small cell lung cancer patients with interstitial lung diseases: a nationwide population-based study. Karayama M, et al. Thorax. 2025.
はじめに

この論文の背景として、まず「ILD と肺癌の関係」があります。IPF を代表とする ILD は肺癌を合併しやすく、IPF 患者の約 13%前後に肺癌が生じると報告されています。また、肺癌患者の 2~10%程度はもともと IPF を合併していると言われていますね。
しかし ILD を合併した肺癌患者では、抗癌薬による薬剤性 ILD(DIILD)のリスクが高く、治療の選択肢がかなり限られてしまいます。そのため、一次治療では比較的DIILDリスクの少ないプラチナベースの化学療法や単剤の抗癌剤のみを用いているのが実状です。

免疫チェックポイント阻害剤(ICIs)は、非小細胞肺癌(NSCLC)の治療において生存期間を延ばす新たな標準治療として広く使われていますが、ILDを有する患者は臨床試験から除外されることが多く、実際の効果や安全性についてのデータは限られていました。
この研究は、全国規模の保険データベースを活用し、ILD-NSCLC患者に対するICI治療の実際の有効性と安全性を評価した、初の大規模研究となります。
背景と目的
細胞傷害性化学療法と比較して、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が間質性肺疾患を併存する非小細胞肺がん(ILD-NSCLC)患者に対してどの程度有効か、また安全性がどうであるかは明らかではない。
方法
日本の全国保険請求データベース(NDB)から、ICI を受けた ILD-NSCLC 患者(ICI 群、n=1748)と、ICI を受けず化学療法のみを受けた患者(化学療法群、n=6362)のデータを抽出した。
両群の全生存期間(OS)を比較するためにランドマーク解析を実施した。
また、第一選択治療として ICI を受けた患者(first-ICI 群 753名)と、背景因子を一致させた化学療法群(matched 化学療法群 753名)を傾向スコアマッチングにより比較した。
結果
ICI 群の OS 中央値は 19.7か月で、化学療法群の 9.9か月より有意に長かった(HR 0.51、95% CI 0.47–0.54、p<0.001)。
3、6、9、12か月のランドマーク解析では、いずれも ICI 群が化学療法群より有意に長い OS を示した(すべて p<0.001)。
薬剤誘発性 ILD(DIILD)の発生率は ICI 群で化学療法群より有意に高かった(p<0.001)。
しかし ICI 群の中では、DIILD の有無による OS の有意差は認められなかった(p=0.784)。
傾向スコアマッチングの解析では、first-ICI 群は matched 化学療法群より有意に長い OS を示した(p<0.001)。
結語
ILD-NSCLC 患者において、ICI は薬剤誘発性 ILD のリスク増加があるにもかかわらず、細胞傷害性化学療法と比較して有意に長い OS と関連していた。

感想です。
どんな結果だった?
全体生存期間(OS)
| 治療群 | OS中央値(月) | HR(95%CI) | p値 |
|---|---|---|---|
| ICI群 | 19.7ヶ月 | 0.51 (0.47–0.54) | <0.001 |
| 化学療法群 | 9.9ヶ月 | – | – |
✔ ICI群はOSが約2倍と非常に良好な成績を示しました。
ランドマーク解析(不死時間バイアスの除去)
| 評価時点 | HR(調整後) | p値 |
|---|---|---|
| 3ヶ月 | 0.67 | <0.001 |
| 6ヶ月 | 0.72 | <0.001 |
| 9ヶ月 | 0.70 | <0.001 |
| 12ヶ月 | 0.76 | <0.001 |
✔ どの時点でもICI群が有意に優れていました。
DIILD発症率
| 治療群 | 1年累積発症率 | 3年累積発症率 |
|---|---|---|
| ICI群 | 6.3% | 7.2% |
| 化学療法群 | 2.1% | 2.5% |
✔ ICI群はDIILD発症率が3倍以上高かったが…
→ DIILD発症の有無でOSに有意差なし(p=0.784)
(DIILDあり:18.7ヶ月 vs なし:19.7ヶ月)
傾向スコアマッチングによる解析(First-line ICI)
| 群 | OS中央値(月) | HR(95%CI) | p値 |
|---|---|---|---|
| First-ICI群 | 16.7ヶ月 | 0.56 (0.49–0.64) | <0.001 |
| 化学療法群 | 9.8ヶ月 | – | – |
✔ 背景を揃えてもICIは有効でした。
この研究での考察は?
本研究は、ILD合併NSCLC患者に対してもICIが有効である可能性を示した初の大規模データです。
特に注目すべき点は:
- DIILDの発症率は高いが、予後に影響を与えなかった
- 従来、DIILDは致命的な副作用とされてきましたが、適切なモニタリングと早期対応により生存期間への影響を最小化できる可能性が示されました。
- 患者選択が重要
- 本研究でのICI群は、IPF患者やLTOT使用者の割合が低く、比較的リスクの低い患者が多かったことから、全てのILD患者に安全とは限らないことに注意が必要です。
- 他の因子が未評価
- ECOG-PSやPD-L1発現、肺機能、CT所見などの重要指標はデータベース上では取得できず、予後やDIILDリスクをより正確に評価するにはこれらの情報が不可欠ですね。
論文解釈に注意するポイント
- 選択バイアス: 良好な全身状態(若年、非IPF、非LTOT)患者がICI群に多く、ICIの有効性が過大評価された可能性。
- データ欠損: PD-L1発現やECOG-PS、肺機能、CT画像所見など、臨床的に重要な情報が欠落。
- ILDの定義の不正確性:ICDコードによる分類では、UIPパターンなどの臨床的に重要なサブタイプの情報が得られません。
- 新しい治療法の影響が未評価:抗CTLA-4抗体、抗線維化薬との併用効果は未検証。
臨床現場でどう活かす?
この研究は、臨床現場において以下のような意思決定に貢献する可能性があります:
- カンファレンスでの治療方針決定において、ILD-NSCLCだからといって一律にICIを禁忌とするのではなく、患者の全身状態や病態に応じた選択が可能であることを示唆。
- DIILDを恐れてICIを避ける傾向がありましたが、このリアルワールド研究により「DIILD=致命的ではない患者群がいる可能性がある」という新たな判断データが得られた。

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