Fine-Grayモデルは、競合リスクを考慮した統計モデルです。Cox比例ハザードモデルと同じく、生存時間分析に用いられますが、競合イベント(例:異なる原因の死亡、治療中止など)が存在する状況で、特定のイベントの発生確率を直接的に評価できる点が特徴です。
Fine-GrayモデルとCoxモデルとの違い
CoxモデルとFine-Grayモデルは、基本的な考え方や使用するデータ形式が似ています。
したがって、大まかな概念は、Coxモデルのページを参照してください<こちら>。
ちなみに、両モデルには次のような違いがあります:
- Coxモデル: 特定のイベントの「ハザード比」を評価する。競合リスクを考慮しない。
- Fine-Grayモデル: 特定のイベントの「累積発生率」(Cumulative Incidence Function: CIF)を評価する。
競合リスクを考慮する。
この違いにより、Fine-Grayモデルは競合リスクを含むデータでの解析に適しています。
競合リスクについてはこちらのページを参照してください。
Fine-Gray解析に必要なデータ
Fine-Grayモデルを適切に解析するには、以下のデータが必要です。
Coxモデルの基本的なデータ構成に似ていますが、競合リスクを考慮するための追加情報が必要です。
影響を与える要因(共変量)
Coxモデルと同じです。
ベースライン共変量だけでなく、EZRなどの統計ソフトでは、時間依存性共変量も扱うことも可能です。
イベントの有無
Fine-Grayモデルでは、イベントの発生状況を次の3つに分類して解析します。
ここがCoxモデルと違うところです。
イベントなし
観察期間中に興味あるイベントも競合イベントも発生しなかった場合です。
データは「打ち切りデータ」として扱われます。
打ち切りデータは、観察終了時点までの期間を解析に組み込みます。
例: 患者が観察期間中に健康で、何のイベントも発生しなかった場合。
興味あるイベントあり
観察期間中に、競合イベント発生前に(あるいは生じずに)、興味あるイベントが発生した場合です。
興味あるイベントの発生時点までの期間を解析に使用し、それ以降のデータは解析に含めません。
例: 心筋梗塞を興味あるイベントとしている場合に、観察期間中に興味あるイベントである心筋梗塞が発生した場合。
競合イベントあり
観察期間中に興味あるイベントが生じる前に(あるいは生じずに)、競合イベントが発生した場合です。
競合イベントの発生時点までの期間を解析に使用し、それ以降のデータは解析に含めません。
例: 心筋梗塞を興味あるイベントとする場合に、心筋梗塞を起こさずに死亡(競合イベント)が観察期間中に発生した場合。
観察期間
Fine-Grayモデルでは、観察期間を次のような場合に分けて解析します。
これもCoxモデルと違うところです
観察期間中にイベントなし(打ち切りデータ)
観察終了時点までに興味あるイベントも競合イベントも発生しなかった場合。
このデータは、対象イベントが発生する可能性を推定するために重要です。
観察開始日から観察終了日あるいは打ち切り日までが解析に組み込む期間です。
例: 5年間の観察期間中、特定の病気も死亡もなく、健康な状態が続いた。この場合は5年間が解析に組み込まれる。
観察期間中に興味あるイベントが最初に発生
興味あるイベントが最初に発生した場合、その発生時点で観察を終了し、その時点までのデータを使用して解析を行います。
観察開始日から興味あるイベント発生日までが解析に組み込む期間です
例: 285日目に心筋梗塞が発生した場合。この場合は285日間が解析に組み込まれる。
観察期間中に競合イベントが最初に発生
競合イベントが観察期間中に最初に発生した場合、その発生時点で観察を終了します。
観察開始日から競合イベント発生日までが解析に組み込む期間です
例: 3年目までに心筋梗塞を起こさずに、がんによる死亡が発生した場合。この場合は3年間が解析に組み込まれる。
以上のデータを収集し、エクセルや統計ソフトに入力し、統計ソフトで解析していきます。
呼吸器内科領域での具体例
例1: COPD患者における死亡イベント
目的: 喫煙歴や肺機能(FEV1)がCOPDによる死亡リスクにどう影響するかを調べる。
競合リスクとして、COPD以外の他の疾患による死亡を考慮する。
- データの構造:
- ベースライン変数: 年齢、性別、喫煙歴、FEV1。
- イベント:
- 対象イベント: COPDによる死亡。
- 競合イベント: 他の疾患(例:がん)による死亡。
- 時間: 診断日から対象イベント、競合イベント、または打ち切り日までの日数。
- 解析結果の例:
- 喫煙者のハザード比が2.0であれば、非喫煙者に比べ、喫煙がCOPDによる死亡の累積発生率を2倍に増加させる。
例2: IPF患者における急性増悪イベント
目的: 特定の治療法が急性増悪リスクを減らすかを調べる。
競合リスクとして、死亡を考慮する。
- データの構造:
- ベースライン変数: 年齢、性別、酸素療法の有無、治療法(治療A vs 治療B)。
- イベント:
- 対象イベント: 急性増悪発生。
- 競合イベント: 死亡。
- 時間: 診断日から対象イベント、競合イベント、または打ち切り日までの日数。
- 解析結果の例:
- 治療Aのサブディストリスクハザード比が0.7であれば、治療Bと比較して、治療AがIPFの急性増悪累積発生率を30%低下させる。
例3: 若年者喘息患者における喘息発作
目的: ダニ予防をしていない枕の継続使用が喘息発作リスクに与える影響を調べる。
競合リスクとして、観察中に発作以外の理由で患者が枕をダニ予防枕に交換した場合を考慮する。
- データの構造:
- ベースライン変数: 年齢、性別、枕がダニ予防加工されているかどうかの有無、吸入薬の使用状況。
- イベント:
- 対象イベント: 喘息発作。
- 競合イベント: 観察中断(例:枕の買い替え)。
- 時間: 観察開始日から対象イベント、競合イベント、または打ち切り日までの日数。
- 解析結果の例:
- ダニ予防効果のない枕使用のハザード比が1.5であれば、ダニ予防枕を使用した環境に比べ、ダニ予防効果のない枕使用が喘息発作の累積発生率を1.5倍に増加させる。
まとめ
Fine-Grayモデルは、競合リスクを考慮しながら特定のイベント(興味あるイベント)が発生する確率を解析する統計モデルです。
このモデルを使うことで、競合イベントの影響を反映した現実的な結果を得ることができます。
初心者でも、正確なデータを準備し、モデルの基本的な仮定や解釈を理解すれば、競合リスクがあるデータを分析する強力なツールとして活用できるでしょう!!
Fine-Grayモデルを使いこなすことで、今までCoxモデルでは見落とされていた競合リスクを踏まえた新しい知見が得られるかもしれません!
<スマートフォンをご利用の皆さまへ>
他の記事をご覧になりたい場合は、画面左上の「メニュー」からジャンルを選択してお楽しみいただけます。
また、画面右下の「サイドバー」を使って、気になる話題を検索することもできますので、ぜひご活用ください。
<PCをご利用の皆さまへ>
他の記事をご覧になりたい場合は、画面上部のメニューバーや画面右側のサイドバーをご利用いただき、気になる話題をお探しください。