Coexposure to asbestos, mineral wool, crystalline silica and refractory ceramic fibres and risk of lung cancer and mesothelioma.Delva F, et al. Thorax. 2025.
中皮腫といえば、原因として真っ先に挙げられるのがアスベスト(石綿)です。
しかし、最近発表されたフランスのコホート研究では、アスベストと同時に“結晶質シリカ”に曝露されていた人で、中皮腫リスクが有意に高くなるという興味深い結果が報告されました。
結晶質シリカは建設現場や解体作業、研磨・サンドブラストなどさまざまな作業環境に存在するごくありふれた鉱物粉じんです。
それ自体が中皮腫の原因とは考えられていないにもかかわらず、アスベストと一緒に吸い込むことでリスクが増す可能性がある──となれば、私たち臨床医や産業医にとって、問診や曝露歴の聴取で見逃せないポイントになりますよね。
本記事では、この研究の結果とその臨床的な意味を、できるだけわかりやすくご紹介します。
はじめに

この論文は、「アスベスト+他の無機粉じん」の同時曝露が肺がん・中皮腫にどう影響するかを見た研究です。
- 造船・建設・鉄鋼・配管工・溶接工 などでは
- 古い断熱材由来のアスベスト
- コンクリートや岩石粉じんに含まれる結晶質シリカ
- 断熱材・吸音材としての鉱物ウール(MW:断熱材)
- アスベスト代替として後年導入された耐火セラミックファイバー(RCF:アスベスト代替の耐火材)
が同じ現場で使われているかと思います。

アスベストと肺がん・中皮腫の関係は歴史的に確立していますが、
- 「アスベスト+シリカ」
- 「アスベスト+鉱物ウール(MW)」
- 「アスベスト+耐火セラミックファイバー(RCF)」
といった「複数の鉱物粒子への同時曝露」がリスクを上乗せするのかどうかは、これまで分かっていませんでした。
著者らは、フランスの退職アスベスト曝露労働者コホート(ARDCO)を使って、「アスベストは全員曝露済み」という前提の中で、追加のMW/シリカ/RCF曝露の影響を評価しようとしています。
背景
アスベスト、鉱物ウール(MW)、耐火セラミックファイバー(RCF)、シリカは、職場における最も一般的な鉱物粒子への曝露の一部である。
目的
アスベストとMW、結晶質シリカ、またはRCFとの同時曝露が、肺がんおよび中皮腫のリスクに及ぼす影響を調査すること。
方法
アスベスト関連疾患コホートは、就労期間中にアスベストに曝露した退職労働者を対象としたサーベイランスプログラムである。
完全な職歴が収集され、アスベストへの職業曝露は専門家により評価され、MW、RCFおよびシリカへの職業曝露はフランスの職業曝露マトリックスを用いて評価された。
肺がん死亡および肺がん罹患、また中皮腫死亡または中皮腫罹患のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定するため、Cox比例ハザードモデルが使用された。
結果
アスベスト曝露者からなるこの集団において、
死亡に関する研究では、喫煙とアスベストで調整したのち、
- MW、
- 結晶質シリカ、
- RCF
上記への曝露はいずれも肺がんと関連を示さず、またアスベストで調整した場合、中皮腫との関連もみられなかった。
罹患に関する研究では、
結晶質シリカへの曝露(曝露歴あり)が中皮腫と関連していた(調整済みHR=1.75、95%CI 1.17–2.62)。
結語
結晶質シリカが中皮腫を誘発することは知られていないが、アスベストとの同時曝露により、アスベストが中皮細胞に及ぼす影響が増強される可能性がある。

感想です。
どんな結果だった?
この研究は、「すでにアスベストに曝露された人」を対象にして、
さらに他の粉じん(鉱物ウール、結晶質シリカ、耐火セラミックファイバー)への追加曝露がリスクに影響するかを調べました。
1. アスベストの曝露量とリスク
| アウトカム | アスベスト曝露10増ごとのリスク上昇(HR) |
|---|---|
| 肺がん死亡 | HR 1.01(1.00–1.02) |
| 中皮腫死亡 | HR 1.05(1.03–1.07) |
アスベストの累積曝露が増えると、肺がんと中皮腫リスクが上がるという結果でした。
2. 他の粉じん(鉱物ウール・シリカ・耐火セラミックファイバー)の影響は?
では、そこに他の粉じんが加わるとどうなるかを見ていきます。
肺がんについて
- 鉱物ウール
- 結晶質シリカ
- 耐火セラミックファイバー
これらを追加で吸っていても、肺がんのリスクにはほとんど影響なしという結果でした。
調整後のハザード比(HR)は、全部ほぼ1.0付近で、有意差は出ていません。
中皮腫について
ちょっと違う結果が出ました。
- 結晶質シリカに「曝露歴あり」の人で、
→ 中皮腫の発症リスクが上がっていました。 - HR 1.75(95%CI 1.17–2.62)
つまり、約1.75倍リスクが高かった、ということですね。
3. 「アスベスト+〇〇」の組み合わせ解析
この研究の面白いところは、
アスベストは全員曝露済みという前提で、
- シリカあり or なし
- 鉱物ウールあり or なし
- 耐火セラミックファイバーあり or なし
というパターンの組み合わせに分類して、それぞれのリスクを比較したところです。
中皮腫で有意にリスクが高かったのは…
「アスベスト+シリカ」だけ曝露している人たち
- HRは 2.76(95%CI 1.42–5.34)
つまり、この組み合わせが一番「中皮腫になりやすかった」というわけです。
論文解釈に注意するポイント
- 粉じんの曝露量があいまい: 「この仕事ならたぶんシリカに曝露してるよね」くらいの評価だったので、実際の曝露量は不明です。
- 全員がアスベスト高曝露者: 重労働&粉じん多めの人が多いので、結果の一般化が難しいかも。
- 中皮腫の症例数は少なめ(約110件)
まとめ:臨床現場でどう活かす?
① 職歴をしっかり聴こう
- アスベストの有無だけでなく、建設・解体・サンドブラスト・研磨など、シリカが発生する作業もチェック!
② 高リスク者を重点的にフォロー
- アスベスト+シリカ曝露ありの人は、画像を注意してフォロー。
③ 労働環境の管理にも意味あり
- 現場ではアスベスト禁止でも、シリカ粉じんはまだまだ飛んでいます。
- だからこそ、アスベストと同じくらいシリカも管理すべきだよ、というメッセージでもあります。

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