間質性肺疾患(ILD)の患者さんは、COVID-19で重症化しやすいか?そしてワクチンはそれを予防できるのか?最新の全国レジストリ研究の結果です。
IImpact of interstitial lung disease on COVID-19 severity: A nationwide register study.
Ekbom E, et al. Respir Med. 2025.
This is an open access article under the CC BY license
以下上記の論文から引用します。
はじめに

この論文では、
「間質性肺疾患(ILD)の患者さんはCOVID-19が重症化しやすいのか」
「ILDの中でも線維化を伴うタイプやサルコイドーシスでリスクは違うのか」
「ワクチンはどの程度そのリスクを下げてくれるのか」
という3つのポイントを全国レジストリを使って検証しています。
これまでの報告でも、特発性肺線維症(IPF)などのILD患者さんは、COVID-19が重症化しやすいと言われていました。
ただし、多くは単施設もしくは限られた集団での研究で、ワクチンが普及したあとも含めた長期間・全国規模のデータは少なかったのです。

さらに、サルコイドーシスに関しては、もともと他のILDより臨床経過が緩やかなことが多く、COVID-19重症化リスクが高いのかどうか、先行研究でも結果がまちまちでした。
また、ワクチン接種による重症化予防効果が「ILD患者で一般集団と同じようにあるのか」もはっきりしていませんでした。
こでこの研究では、スウェーデン全人口のレジストリ(SCIFI-PEARL)を用いて、
- ILDの有無
- ILDのタイプ(線維性ILD・サルコイドーシスなど)
- ワクチン接種状況(2回以上接種 vs 1回以下)
とCOVID-19の重症度(非入院・入院・ICUまたは死亡)との関連を検証しています。
目的
本研究の目的は、間質性肺疾患(ILD)がCOVID-19の重症度増加と関連するかどうか、
またその関連が疾患のタイプやワクチン接種状況によって異なるかどうかを検討することである。
方法
スウェーデンにおけるSCIFI-PEARL研究の一環として構築された全国レジストリデータを用いて、COVID-19重症度との関連を検討した。
COVID-19重症度は、
①非入院、
②入院、
③重症(集中治療室〔ICU〕入室または死亡)
の3段階に分類し、2020年1月から2022年5月までの期間を対象とした。
多項ロジスティック回帰を用いて交絡因子を調整し、ワクチン接種状況との相互作用を検討した。
結果
ILD患者は合計18,666人であり、そのうち8774人が線維化を伴うILD、9181人がサルコイドーシスであった。
ILD患者のうちCOVID-19を発症したのは3384人であり、その18.9%が入院を要し、8.5%が重症(ICU入室または死亡)であった。
これに対し、ILDを有さないCOVID-19患者では、入院は3.8%、重症は1.3%であった。
ILDはCOVID-19重症度の上昇と関連し、ILDなしの患者と比較した条件付きオッズ比(COR)(95%信頼区間)は、
- 入院で2.30(2.09–2.54)、
- 重症で2.50(2.17–2.88)
であった。
対応するCORは、
- 線維性ILDでは、入院3.25(2.81–3.75)、重症化3.46(2.88–4.15)、
- サルコイドーシスでは入院1.56(1.34–1.81)、重症化1.57(1.21–2.03)
であった。
2回以上のワクチン接種は、ILDかつCOVID-19を有する患者において重症COVID-19に対して防御的に働き、入院の頻度を低下させた(非接種または1回接種:21.8%、2回以上接種:16.3%)。
重症例(ICU入室または死亡)に対する低下効果はさらに強く、非接種または1回接種群では12.0%であったのに対し、2回以上接種群では3.6%であった。
しかしながら、2回以上の接種を完了した個人においても、ILDはCOVID-19重症度の上昇と有意に関連したままであった。
結語
ILDはCOVID-19感染患者の重症度増加と関連しており、とくに線維性ILDにおいて顕著であった。
ワクチン接種は重症例(ICU入室や死亡)を予防する上で最も有効であった。
本研究は、ILD患者におけるワクチン接種プログラムおよび予防戦略の継続的重要性を強調するものである。

勉強したいと思います!!
結果のまとめ
対象とCOVID-19の頻度
- スウェーデン成人の全人口:約813万人
- ILD患者:18,666人
- 線維性ILD:8774人
- サルコイドーシス:9181人(うち233人は線維性ILDと重複)PIIS0954611125004354
COVID-19を発症した割合(累積発生率)は、
- 一般人口(ILDなし):23.6%
- すべてのILD:18.1%
- 線維性ILD:13.9%
- サルコイドーシス:22.1%
と、全体としては「ILD患者の方が感染自体は少ない」という結果でした。
これは、ハイリスク群として行動制限や感染予防をより厳密に守っていた可能性が示唆されます。
COVID-19重症度(IL Dの有無で比較)
COVID-19を発症した人のうち、重症度は以下のようになりました。
| 集団 | 入院 | 重症(ICU or 死亡) |
|---|---|---|
| ILDなし | 3.8% | 1.3% |
| ILDあり(全体) | 18.9% | 8.5% |
| 線維性ILD | 31.7% | 16.8% |
| サルコイドーシス | 10.9% | 3.5% |
多変量調整後の条件付きオッズ比(ILDなしを基準)は、
- 全ILD
- 入院:COR 2.30(2.09–2.54)
- 重症:COR 2.50(2.17–2.88)
- 線維性ILD
- 入院:COR 3.25(2.81–3.75)
- 重症:COR 3.46(2.88–4.15)
- サルコイドーシス
- 入院:COR 1.56(1.34–1.81)
- 重症:COR 1.57(1.21–2.03)
つまり、「感染してしまった後」の話としては、ILDがあると入院も重症化も2〜3倍に増え、その中でも線維性ILDが特にハイリスク、サルコイドーシスも有意にリスクが上がる、という結果です。

Fig. 3 調整済み条件付きオッズ比(COR)および95%信頼区間(CI)。
対象は、2020年1月から2022年5月までにスウェーデンでCOVID-19に感染した人々。
この解析では、基礎疾患としてILDを有するCOVID-19症例とILDを有さないCOVID-19症例を比較しており、全体、およびILDのサブグループごと、さらに年齢(<60歳と≥60歳)で層別化した場合、ならびにBMI情報があるサブコホートでの結果が示されている。
基本的にどのサブグループでリスクは高い。
ワクチンの効果
ワクチン2回以上接種(かつ最終接種から6か月以内)を「接種あり」と定義して解析されています。
ILD患者の中で、
- 非/1回接種群
- 入院:21.8%
- 重症:12.0%
- 2回以上接種群
- 入院:16.3%
- 重症:3.6%
とくに「重症例」の割合がワクチン接種の恩恵で3分の1程度にまで減っていますね。
結果の解釈
ワクチンの位置づけ
ワクチン接種は、ILD患者において重症(ICU・死亡)を減らしており、特に「致命的な転帰の予防効果」が強いことが示されていますね。
一方で、入院のオッズ比は一般人口より高いままで、ワクチンによって「重症から中等症(入院)へ被害がシフトしている」可能性も示唆されます。
限界点
著者らが挙げている主な限界は以下の通り
- 診断精度の問題:ICD-10コードに基づくため、同じコード内に臨床的に異なるILDが混在している
- COVID-19検査体制の変化:パンデミック初期は検査へのアクセスや戦略が時期により異なり、累積発生率の解釈には注意が必要
- 肺機能データがない:スパイロメトリーや拡散能など、個々の呼吸機能指標を調整できていない
- 免疫抑制薬の情報がない
結果をどう活かす?
1.ILD患者、とくに線維性ILDはCOVID-19重症化リスクが高い
- ILD全体で入院・重症のオッズが2倍以上、線維性ILDでは3倍以上になっているため、ILD患者さんがCOVID-19に罹患した場合には、早期から重症化リスクを意識した対応が必要になりますね。
2. サルコイドーシスも「リスク群」と考える
- サルコイドーシスでも、入院・重症のオッズ比は約1.5倍に上昇しているため、他のILDほどではないにせよ「一般人口と同じ」とは言えないことが示されています。
著者らも、サルコイドーシス患者をCOVID-19の予防戦略(ワクチンや感染予防)の対象として含めるべきだと述べています。
3. ワクチンは「致命的な転帰」を減らす意味で極めて重要
- ILD患者においても、2回以上のワクチン接種により重症例(ICU・死亡)が大きく減少しており、臨床的には「接種しても入院はある程度起こるが、命に関わる確率は明らかに下がる」と理解できます。
4. 予防戦略・臨床的警戒の継続が必要
- パンデミックとしてのフェーズは終わっても、ILD患者ではCOVID-19重症化リスクが高い状態は続いていると考えられます。
ILD患者に対するワクチン接種・予防策・臨床的な注意を今後も継続すべきでしょう。
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