「ILDがあるとICIは危ない」「COPDはどうなんだろう?」
この疑問、呼吸器診療に関わる若手医師なら一度は感じたことがあるのではないでしょうか。
感覚的にはリスクが高そうでも、実際にどれくらい差があるのかは意外と知られていません。
本記事では、Checkpoint Inhibitor Pneumonitis(CIP)に焦点を当て、ILD・COPD・肺疾患なしの3群を比較した大規模研究を整理します。
Maule et al. Checkpoint Inhibitor Pneumonitis in Non-Small Cell Lung Cancer With Chronic Lung Disease: A Comparative Study of ILD, COPD, and the General Population Using a Global Federated Database. Respirology, 2025
以下上記の論文から引用します。
はじめに

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、非小細胞肺癌(NSCLC)の治療において今や欠かせない存在ですね。
一方で、Checkpoint Inhibitor Pneumonitis(CIP)は、発症すると治療中断やステロイド治療が必要となり、予後にも影響しうる重要な免疫関連有害事象です。

特に臨床現場では、
「ILDやCOPDを合併している患者さんにICIを使って大丈夫か?」
と悩む場面が少なくありません。
これまでも「ILDは危ないかもしれない」とは言われてきましたが、COPDと直接比較したデータは乏しく、経験則に頼らざるを得ない部分がありました。
本研究は、ILD・COPD・慢性肺疾患なしの3群を同一条件で比較し、CIPの発生や転帰を大規模データで明らかにした点が特徴です。
若手医療者にとって、「なぜ慎重になるのか」を説明できる根拠を与えてくれる論文と言えます。
背景と目的
免疫チェックポイント阻害薬関連肺臓炎(checkpoint inhibitor pneumonitis; CIP)は重篤な免疫関連有害事象である。
間質性肺疾患(interstitial lung disease; ILD)または慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)を有する患者ではリスクが高い可能性があるが、これら集団を比較するデータは限られている。
本研究は、ILD、COPD、および既存の肺疾患を有さない患者の間で、CIPの発生率、発症時期、再発、転帰の差を評価することを目的とした。
方法
TriNetX Research Networkを用いた後ろ向きコホート研究であり、2017年1月から2023年1月の間に免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitors; ICIs)を受けた患者を同定した。
患者はILD群、COPD群、対照群に層別化した。
CIPはICDコードを用いて同定した。
ベースライン特性を調整するために、傾向スコアマッチング(1:1:1)を行った。
評価項目は、CIP発生、発症までの時間、再発、入院、死亡であった。
結果
184,000人超のICI投与患者のうち、
- ILDは3147人、
- COPDは8657人、
- 既知の肺疾患なしは47,031人であった。
マッチング後(各群 n=3147)、CIP発生率はILDで最も高く(4.6%)、COPD(1.9%)および対照群(1.5%)より高かった(p<0.001)。
CIP発症までの時間は群間で同様であった。
CIPを発症したILD患者は、COPDおよび対照群と比較して再発が多く(16.4% vs 9.1% および 8.3%)、全原因入院も多かった(61% vs 40% および 39%)。
全原因死亡もILD-CIP群で高かった(41.1%)。
結語
ILDはCIP発症リスクを有意に増加させ、再発および死亡を含む転帰を悪化させる。
これらの結果は、基礎にILDを有するICI治療患者における、より厳密なサーベイランスとリスク層別化を支持するものである。

勉強したいと思います!!
結果はどうなっているか?
- CIP発生率はILD合併例で最も高い
- ILDはCOPDおよび非ILD/非COPD群と比較して、CIP発症リスクが有意に高い
- COPD単独では、CIP発生率は非ILD/非COPD群と有意差なし
- CIP-free survivalはILDで有意に不良(HR 2.49)
- CIP再発(平均エピソード数)はILDで有意に多い
- 急性呼吸不全・ICU入室はILDおよびCOPDで非ILD/非COPD群より高頻度
- 全死亡はCOPDでILDより高率
CIP発生率
ILD vs COPD(傾向スコアマッチ後)
- ILD:4.6%
- COPD:1.9%
- リスク比(RR):2.49
- 95%信頼区間:1.61–3.84
- p < 0.001
👉 ILD合併はCOPDと比較してCIP発生リスクが有意に高い
ILD vs 非ILD/非COPD
- ILD:4.6%
- 非ILD/非COPD:1.5%
- RR:2.63
- 95%CI:1.73–4.00
- p < 0.001
👉 ILDは基礎肺疾患のない患者と比べても、CIPリスクが有意に高い
COPD vs 非ILD/非COPD
- COPD:1.9%
- 非ILD/非COPD:1.5%
- RR:1.27
- 95%CI:0.82–1.98
- p = 0.32
👉 COPD単独ではCIP発生率に有意差なし
CIP-free survival(時間依存解析)
Kaplan–Meier解析およびCox比例ハザードモデルでは、
ILD vs COPD
- ハザード比(HR):2.49
- 95%CI:1.61–3.84
- log-rank p < 0.001
👉 ILD患者はCOPD患者よりも有意に早期にCIPを発症
CIP再発(複数エピソード)
CIPを発症した患者に限定した解析(Table 5)では、
| 群 | CIP発症患者数 | 平均CIPエピソード数 | 中央値 |
|---|---|---|---|
| ILD | 70 | 0.156 | 1 |
| COPD | 30 | 0.040 | 1 |
| 非ILD/非COPD | 32 | 0.021 | 1 |
- ILD vs COPD:p < 0.001
👉 ILDではCIPの再発(平均エピソード数)が有意に多い
全死亡
ILD vs COPD
- ILD:8.9%(128/1447)
- COPD:12.3%(182/1483)
- RR:0.69
- 95%CI:0.55–0.88
- p = 0.0026
👉 全死亡はCOPDのほうが、LDより有意に高い
ILD vs 非ILD/非COPD
- ILD:8.9%
- 非ILD/非COPD:11.5%
- RR:0.77
- 95%CI:0.63–0.93
- p = 0.003
COPD vs 非ILD/非COPD
- COPD:12.3%
- 非ILD/非COPD:11.5%
- RR:1.07
- 95%CI:0.90–1.27
- p = 0.127
急性呼吸不全
ILD vs COPD
- ILD:20.6%
- COPD:21.0%
- RR:0.98
- 95%CI:0.86–1.13
- p = 0.79
👉 ILDとCOPDで差なし
非ILD/非COPDとの比較
- ILD vs 非ILD/非COPD:RR 1.60(95%CI 1.39–1.85), p < 0.001
- COPD vs 非ILD/非COPD:RR 1.63(95%CI 1.42–1.88), p = 0.016
限界
- ICDコードベースなので、CIP重症度(CTCAE grade)で層別化できない。
- 喫煙歴、呼吸機能、癌の病期・組織型、ICI投与スケジュール、ILDサブタイプ、COPD重症度などの未測定交絡が残り得る。
- ILD急性増悪や感染性肺炎などとの鑑別の難しさ/誤分類の可能性。
- ステロイド治療内容やICI中断・再開など、マネジメントの詳細は不明。
結果をどう活かす?
ILDはCIPの発生率・発症速度・再発頻度のすべてで有意に高リスク。
COPDはCIP発生自体は増えないが、重症呼吸イベントはILDと同じくらい高く、死亡率はILD群よりも高い
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