間質性肺疾患論文紹介肺高血圧

間質性肺疾患による肺高血圧症に対する吸入トレプロスチニル ~INCREASE試験~(Waxman A, et al. N Engl J Med. 2021)

すこし古いのですが、気になったのでピックアップしてみました。Inhaled Treprostinil in Pulmonary Hypertension Due to Interstitial Lung Disease.

トレプロスチニル(Treprostinil)の登場以前、
特発性肺線維症(IPF)や間質性肺疾患(ILD)に合併した3群肺高血圧症(PH)に関しては、
酸素療法やリハビリテーションが中心であり、特定の薬剤による治療は限定的だったと思います。

トレプロスチニルは、プロスタサイクリンの安定した類似体であり、肺および全身動脈血管床の直接的な血管拡張を促進し、血小板凝集を抑制します。1
また、吸入型トレプロストは、第1群肺高血圧症の患者において12週間の治療後に運動能力を改善することが示されています。2
これまでに行われたパイロット研究のデータによれば、吸入トレプロスチニルは第3群肺高血圧症の患者において血行動態および機能的能力を改善する可能性が示唆されています⁹⁻¹²。3 4 5

投与経路として、吸入経皮静脈注射経口などがあり、トレプロスト®吸入液は、肺動脈性肺高血圧症や間質性肺疾患に伴う肺高血圧症に保険適用となっています。

ILDに合併したPHへの適応拡大の根拠となったINCREASE試験を勉強したいと思います。

研究の背景

ILDを伴うPHの治療に現在承認された治療法はない。この状態の患者に対する吸入トレプロスチニルの安全性と有効性は不明である。

方法

  • ILD-PH患者(右心カテーテル検査により確認)を対象に、多施設共同、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照の16週間試験を実施した。
  • 患者は1:1の割合で、吸入トレプロスチニル(超音波パルス式ネブライザーを用い、最大12回の吸入で合計72μgを1日4回投与)を受ける群またはプラセボ群に割り付けられた。
  • 主要有効性評価項目は、ベースラインから16週目までのピーク6分間歩行距離の変化における両群間の差とした。
  • 副次評価項目には、16週目のNT-proBNPレベルの変化および臨床的悪化までの時間が含まれた。

主な結果

  • 合計326名の患者がランダム化され、163名が吸入トレプロスチニル群、163名がプラセボ群に割り付けられた。
  • ベースライン時の患者特性は両群で類似していた。
  • 主要評価項目:16週目における6分間歩行距離のベースラインからの変化について、吸入トレプロスチニル群とプラセボ群の最小二乗平均差は31.12メートル(95%信頼区間[CI]: 16.85~45.39; P<0.001)であった。
  • 吸入トレプロスチニルによりNT-proBNPレベルはベースラインから15%低下したのに対し、プラセボでは46%増加した(治療比: 0.58; 95% CI: 0.47~0.72; P<0.001
  • 臨床的悪化は、吸入トレプロスチニル群で37名(22.7%)、プラセボ群で54名(33.1%)に発生した(ハザード比: 0.61; 95% CI: 0.40~0.92; ログランク検定においてP=0.04)。
  • 最も頻繁に報告された有害事象は、咳、頭痛、呼吸困難、めまい、悪心、倦怠感、および下痢であった。

結論

ILDに起因するPHを有する患者において、吸入トレプロスチニルは、プラセボと比較して、運動耐用能(6分間歩行試験による評価)がベースラインから改善した。

主要評価項目の6分間歩行距離などの結果ですが、抄録のとおりです。

サブグループ解析では、年齢や性別、ベースの6分間歩行距離、DLCO、基礎疾患(IIPs、CPFE、膠原病、その他)など、さまざまなサブグループで同様の効果が得られたというフォレストプロットが示されています。

有害事象も吸入トレプロスチニルとプラセボで大きな違いはなかったようです。

吸入トレプロスチニルは、ILDに合併するPHの患者で運動能力を改善し、疾患の悪化リスクを低下させ、心臓への負担を軽減する効果がありそうということですね。プラセボとの有害事象にも大きな差がさそうというのもわかりました。

  1. Whittle BJ, Silverstein AM, Mottola DM, Clapp LH. Binding and activity of the prostacyclin receptor (IP) agonists, treprostinil and iloprost, at human prostanoid receptors: treprostinil is a potent DP1 and EP2 agonist. Biochem Pharmacol 2012;84:68-75. ↩︎
  2. McLaughlin VV, Benza RL, Rubin LJ, et al. Addition of inhaled treprostinil to oral therapy for pulmonary arterial hypertension: a randomized controlled clinical trial. J Am Coll Cardiol 2010;55:1915-1922. ↩︎
  3. Faria-Urbina M, Oliveira RKF, Agarwal M, Waxman AB. Inhaled treprostinil in pulmonary hypertension associated with lung disease. Lung 2018;196:139-146. ↩︎
  4. Bajwa AA, Shujaat A, Patel M, Thomas C, Rahaghi F, Burger CD. The safety and tolerability of inhaled treprostinil in patients with pulmonary hypertension and chronic obstructive pulmonary disease. Pulm Circ 2017;7:82-88. ↩︎
  5. Wang L, Jin Y-Z, Zhao Q-H, et al. Hemodynamic and gas exchange effects of inhaled iloprost in patients with COPD and pulmonary hypertension. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis 2017;12:3353-3360. ↩︎

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