救急外来。
52歳男性、苦しそう(受け答え鈍い?)
SpO₂ 90%(酸素15L投与中)
指導医「B先生、ファーストタッチ頼んだぞ!」
研修医B「は、はい!」
—— 10分後 ——
研修医B「せ、先生っ!大変です! 神経原性肺水腫かもです!クモ膜下出血の!」
指導医「え?なんで??クモ膜下出血?」
研修医B 「なんかぁ…レントゲンで肺水腫っぽくてぇ
心不全かぁ~って思ったんですけどぉ…
心エコーであんま異常なくてぇ..
でぇ…患者さん、なんか受け答え鈍くてぇ…
神経所見みたら瞳孔に左右差があってぇ…
おや?って思ってぇ…
でぇ…奥さんに聞いたらぁ…苦しくなる前に
突然頭痛がして吐いたらしくてぇ…
こ、これが救急マニュアル本に書いてあった
神経原性肺水腫かぁ~って思い出してぇ…」
(ドキドキ)
—— そして頭部CT——
指導医「……伸び代が怖いわ。」
解説
神経原性肺水腫は、脳など中枢神経系に対する急激な障害を契機として発症する非心原性肺水腫です。
本症例のようなくも膜下出血に限らず、脳内出血、重症頭部外傷、てんかん重積などの直後に、突然の呼吸不全として出現することがあります。
発症メカニズムは、
脳障害に伴う急激な交感神経活動の亢進です。頭部への強い刺激により大量のカテコラミンが放出され、全身および肺血管の著明な血管収縮が生じます。その結果、肺循環圧が急上昇し、さらに肺毛細血管の透過性が亢進することで、血管内の液体成分が肺胞内へ漏出し、肺水腫を形成します。
臨床的には、
神経イベント発症後数分から数時間以内に、急激な低酸素血症や呼吸困難を認めます。胸部画像では、心不全による肺水腫と同様に両側性のびまん性浸潤影を呈しますが、心拡大や明らかな心不全所見を欠く点が特徴です。そのため、心エコーでは大きな異常を示さないことが多いです。
ただし、くも膜下出血後にたこつぼ心筋症を合併し、心不全を呈することもあり、この場合は鑑別が必要です。
治療の基本は、
原因となる中枢神経疾患への対応と支持療法です。酸素投与や人工呼吸管理による呼吸サポート、循環動態の安定化が中心となります。
神経原性肺水腫は、適切に対応すれば比較的速やかに改善することもありますが、重症例では致死的となることもあります。中枢神経障害後に急な呼吸状態の悪化を認めた場合には、本疾患を鑑別に挙げることが重要です。
逆に、肺水腫の視点でいえば、心臓の評価だけでなく、本疾患も鑑別に挙げて頭部の評価を行う必要があります。また、ARDS、再膨張性肺水腫、低アルブミン血症、吸入肺障害、薬剤性肺障害など、その他の非心原性肺水腫も併せて鑑別が必要ですね。
画像:
胸部X線写真は、患者さんがこちら側(読影者)を向いて撮影された正面像です。そのため、「画像の左側=患者さんの右肺」、「画像の右側=患者さんの左肺」になります。
胸部レントゲン:
心拡大は明らかではありませんが、肺門部を中心に、まるで蝶が羽を広げたように広がる陰影、いわゆるバタフライシャドウが認められます(緑の丸で示した浸潤影)。肺水腫を示唆する所見です。
頭部CT:
周囲を縁取る白く厚みのある構造が頭蓋骨で、その内側に脳実質があります。その中に、赤い矢印で示すような高吸収域が認められ、これが今回のくも膜下出血です。
B先生は、画像や臨床所見から肺水腫を疑いましたが、心エコーで明らかな異常を認めなかったため、その他の鑑別を検討しました。
その過程で患者さんの反応が鈍いことに気づき、意識障害ありと判断します。
さらに脳神経所見の異常を認め、くも膜下出血や脳卒中を鑑別に挙げました。
そこで奥さんに発症の経緯を確認し、「突然の頭痛と嘔吐」というキーワードから、くも膜下出血を想起したわけです。お手柄ですね。
(なお、実臨床では、意識障害を認めた場合、必要に応じて血糖、電解質、薬物の評価に加え、頭部CTを撮影することが多いと思われます。)
今回のエピソードも過去の実例を基に再現したものです。掲載している匿名画像は、Radiopediaより引用しています。
本症例では、くも膜下出血という脳神経外科領域の疾患に加え、心臓・肺の領域とリンクする病態を扱っております。脳神経外科の先生方からのご意見やご指摘も、ぜひお寄せいただければ幸いです。

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