Increase試験を勉強したので二次解析の論文もピックアップしてみました。Inhaled treprostinil and forced vital capacity in patients with interstitial lung disease and associated pulmonary hypertension: a post-hoc analysis of the INCREASE study.
INCREASE試験については別の記事で取り上げていますが、ILD+PH患者を対象に吸入トレプロスチニルの安全性および有効性を評価したランダム化臨床試験です。1
この試験では、吸入トレプロスチニルの16週目における6分間歩行距離の改善という主要評価項目を達成しました。
もともとその試験では、吸入トレプロスチニルが既存ILD患者の呼吸機能に悪影響を及ぼさないかどうか安全性評価の観点で肺機能検査が行われています。
しかし、予想外の結果として、吸入トレプロスチニルが16週間にわたる治療期間中に努力性肺活量(FVC)の改善と関連していることを示しました。
トレプロストニルは、プロスタサイクリンの安定した類似体であり、肺および全身動脈血管床の直接的な血管拡張を促進し、血小板凝集を抑制します。2
吸入トレプロスチニルは、本邦ではPHやILD-PHの治療薬として承認されています(ただし、WHOの1群での有効性・安全性は確立していないとされています。)
トレプロスチニルには抗線維化作用があることを示唆するデータもあります。
トレプロスチニルが血管リモデリング部位へのFibrocyteの集積を減少させるほか、線維芽細胞の線維化促進活性やコラーゲンおよびフィブロネクチンの合成・沈着を抑制することで、細胞外マトリックスのリモデリングや線維化に影響を及ぼすことがマウスモデルで示されています¹⁰,¹¹。3 4
吸入トレプロスチニルのFVCへの影響を調査した、INCREASE試験の事後解析の論文を勉強したいと思います。
研究の背景
INCREASE試験は、間質性肺疾患(ILD)および関連する肺高血圧症(PH)を有する患者における吸入トレプロスチニルを評価したランダム化プラセボ対照第3相試験である。吸入トレプロスチニルは、プラセボと比較して6分間歩行試験により評価された16週目までの運動能力の改善を示した。また、努力性肺活量(FVC)の改善も報告された。
目的
本事後解析の目的は、全体の試験集団およびさまざまなサブグループにおいて、吸入トレプロスチニルがFVCに与える影響をさらに特性化することである。
方法
- 本事後解析では、背景疾患またはベースライン臨床パラメータによって定義されたさまざまなサブグループおよび全体の試験集団におけるFVCの変化を評価した。
- 試験集団には、ランダム割り付けの6か月前までに胸部CTでびまん性肺疾患の所見が確認され、ILDと診断された18歳以上の患者が含まれた(中央判定なし)。
- すべての解析は、少なくとも1回の試験薬投与を受けたランダム割り付けされた患者(意図的治療集団)を対象に実施された。
- INCREASE試験はClinicalTrials.govに登録されている(NCT02630316)。
主な結果
- 試験期間中(2017年2月3日~2019年8月30日)、INCREASE試験には326名が登録された。
- 吸入トレプロスチニルは、FVCにおいて以下のプラセボ補正された最小二乗平均法で改善を示した:
- 8週目: 28.5 mL(SE 30.1; 95% CI −30.8~87.7; P=0.35)。
- 16週目: 44.4 mL(SE 35.4; 95% CI −25.2~114.0; P=0.21)。
- FVC予測値の改善率は、それぞれ1.8%(SE 0.7; 95% CI 0.4~3.2; P=0.014)および1.8%(SE 0.8; 95% CI 0.2~3.4; P=0.028)であった。
- サブグループ解析
- IIPs:
- 8週目: 46.5 mL(SE 39.9; 95% CI −32.5~125.5; P=0.25)。
- 16週目: 108.2 mL(SE 46.9; 95% CI 15.3~201.1; P=0.023)。
- IPF:
- 8週目: 84.5 mL(SE 52.7; 95% CI −20.4~189.5; P=0.11)。
- 16週目: 168.5 mL(SE 64.5; 95% CI 40.1~297.0; P=0.011)。
- IIPs:
- 有害事象:最も多かった有害事象は以下の通り
- 咳、頭痛、息切れ、めまい、吐き気、倦怠感、下痢。
結論(解釈)
- ILD関連PHを有する患者において、吸入トレプロスチニルは16週目時点でFVCの改善と関連していた。
- IIPs、特にIPFの患者でその効果が顕著であった。
- 吸入トレプロスチニルは、IPFに対する有望な治療法としてさらなる前向きランダム化プラセボ対照試験による調査が求められる。
なぜ吸入トレプロスチニルがFVCを改善させたかはよくわかりませんが、
一つには仮説に挙げられた抗線維化作用が関係している可能性もありますね。
あと、吸入トレプロスチニル使用による右心室機能や心拍出量が改善、肺血管の柔軟性や血流の改善によるが拘束性呼吸器障害の改善などが影響したという可能性も挙げられるでしょうか?
一般的に肺の線維化が肺高血圧の進行に繋がると考えられていますが、逆に肺高血圧症の進行も肺の線維化を悪化させる要因であり、肺高血圧のコントロールが肺線維化進行を抑制に繋がるのかもという面白い仮説も挙げられますでしょうか・・・
あくまでも仮説です。
この研究は、吸入トレプロスチニルがILD-PH患者さんの運動耐用能や肺機能を改善する可能性を示しているようにみえます。特に、IPFを含むIIPs患者さんでその効果が有意でした。
本研究は短期的な評価に基づいているので、この薬剤の長期試験の結果がわかるといいですね。
続報を追ってみたいと思います!!
- Waxman, A ∙ Restrepo-Jaramillo, R ∙ Thenappan, T ∙ et al. Inhaled treprostinil in pulmonary hypertension due to interstitial lung disease. N Engl J Med. 2021; 384:325-334 ↩︎
- Whittle BJ, Silverstein AM, Mottola DM, Clapp LH. Binding and activity of the prostacyclin receptor (IP) agonists, treprostinil and iloprost, at human prostanoid receptors: treprostinil is a potent DP1 and EP2 agonist. Biochem Pharmacol 2012;84:68-75. ↩︎
- Lambers C, Roth M, Jaksch P, et al. Treprostinil inhibits proliferation and extracellular matrix deposition by fibroblasts through cAMP activation. Sci Rep 2018; 8: 1087. ↩︎
- Nikitopoulou I, Manitsopoulos N, Kotanidou A, et al. Orotracheal treprostinil administration attenuates bleomycin-induced lung injury, vascular remodeling, and fibrosis in mice. Pulm Circ 2019; 9: 2045894019881954. ↩︎
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