Carbocisteine or Hypertonic Saline for Acute Respiratory Failure. Connolly B, et al. The New England Journal of Medicine, 2026
壮大なネガティブスタディだが、臨床的には意味ある情報。
はじめに

人工呼吸中の患者さんでは、気道の線毛クリアランスが障害され、分泌物の量や粘稠度などの性状も変化します。その結果、痰がたまりやすくなります。
臨床現場では「痰が硬い」「吸引しても引けない」「気道分泌物が多い」といった場面で、カルボシステインや高張食塩水を使いたくなることがありますよね。
論文でも、粘液調整薬はICUの80%以上で使われ、侵襲的人工呼吸患者の約20~30%で使用されていると述べられています。

ただし、2020年のシステマティックレビューでは、急性呼吸不全患者に対する粘液調整薬のエビデンスは限られており、カルボシステインについては支持も否定もできるデータがなく、高張食塩水についても結果が一貫せず質が低いとされていました。
つまり、「なんとなく良さそう」で使われてきた治療を、ちゃんと大規模RCTで検証したのがこのMARCH試験です。
研究デザインを一言でいうと、「人工呼吸中で痰が取りにくい急性呼吸不全患者に、カルボシステインまたは高張食塩水を追加すると、人工呼吸器から早く離脱できるのか?」を調べた試験です。
背景
粘液調整薬は、有効性または安全性に関するエビデンスが限られているにもかかわらず、急性呼吸不全患者に広く使用されている。
方法
多施設共同、非盲検、ランダム化、2×2要因デザイン試験。
対象は、急性呼吸不全を有し、除去困難な気道分泌物を伴う、16歳以上の重症かつ機械換気中の患者。
すべての参加者は通常治療を受け、加えて、カルボシステイン(750 mgを1日3回経腸投与)、6%または7%のネブライザー高張食塩水(4 mLを1日4回)、両介入、または通常治療単独のいずれかを最大28日間受けた。
主要評価項目は機械換気期間であり、無作為化から最初に成功した補助なし呼吸までの時間とした。
主要比較は、「カルボシステインあり」と「カルボシステインなし」、および「HTSあり」と「HTSなし」の比較であり、各比較は2つの治療群から構成された。
結果
合計1956例が無作為化された。
486例がカルボシステイン群、485例がHTS群、492例が両治療群、493例が通常治療単独群に割り付けられた。
主要解析には、それぞれ472例、474例、479例、478例が含まれた。
治療間相互作用の証拠は認められなかった(ハザード比 1.01、95%信頼区間[CI]0.83~1.22、P=0.91)。
機械換気期間の中央値は、
- カルボシステインありで186.1時間(95% CI 168.3~196.6)
- カルボシステインなしで172.7時間(95% CI 165.2~190.4)
→(調整ハザード比 0.96、95% CI 0.87~1.05、P=0.34)。 - HTSありでは184.5時間(95% CI 165.6~194.1)
HTSなしでは174.3時間(95% CI 166.9~192.7)
→(調整ハザード比 1.00、95% CI 0.91~1.10、P=0.98)。
臨床的に重要な上部消化管出血は、カルボシステインなしよりもカルボシステインありで有意に多かった(965例中13例[1.4%]対966例中2例[0.2%];リスク比 6.51、95% CI 1.47~28.76、P=0.01)。
気管支拡張薬使用に至る気管支収縮は、HTSなしよりもHTSありで有意に多く(967例中23例[2.4%]対964例中4例[0.4%];リスク比 5.73、95% CI 1.99~16.52、P=0.001)、
ネブライザー中の低酸素血症もHTSありで有意に多かった(967例中40例[4.1%]対964例中3例[0.3%];リスク比 13.29、95% CI 4.12~42.83、P<0.001)。
重篤な副作用は併用群で1件報告された。
結語
急性呼吸不全を有する重症患者において、カルボシステインもHTSも機械換気期間を有意には短縮せず、いずれも有害事象と関連していた。

感想です。
どんな結果だったか?
主要評価項目:機械換気期間
| 比較 | 機械換気期間中央値 | 効果量 | P値 |
|---|---|---|---|
| カルボシステインあり | 186.1時間 | 調整HR 0.96 | 0.34 |
| カルボシステインなし | 172.7時間 | 95%CI 0.87–1.05 | |
| 高張食塩水あり | 184.5時間 | 調整HR 1.00 | 0.98 |
| 高張食塩水なし | 174.3時間 | 95%CI 0.91–1.10 |
見ての通り、どちらも人工呼吸期間を短縮していません。
むしろ中央値だけ見ると、カルボシステインあり、高張食塩水ありのほうが長く見えます。ただし、統計学的には有意差なしです。

副次評価項目

副次評価項目でも、抜管までの時間、再挿管、呼吸理学療法の実施、抗菌薬使用期間、ICU在室期間、入院期間、死亡について、明確な有効性は示されていません。28日死亡は、カルボシステインあり22.8%、なし23.7%、高張食塩水あり22.3%、なし24.2%でした。
安全性:ここが臨床的に重要
| 有害事象 | 比較 | 発生率 | リスク比 | P値 |
|---|---|---|---|---|
| 臨床的に重要な上部消化管出血 | カルボシステインあり vs なし | 1.4% vs 0.2% | 6.51(95%CI 1.47–28.76) | 0.01 |
| 気管支拡張薬使用に至る気管支収縮 | 高張食塩水あり vs なし | 2.4% vs 0.4% | 5.73(95%CI 1.99–16.52) | 0.001 |
| ネブライザー中の低酸素血症 | 高張食塩水あり vs なし | 4.1% vs 0.3% | 13.29(95%CI 4.12–42.83) | <0.001 |
……….有害事象が増えとるやんけ。
結果をどう解釈するか?
急性呼吸不全の重症患者において、通常治療にカルボシステインまたは高張食塩水を追加しても利益は示されない。
さらに、両薬剤はいずれも害と関連したため、臨床での使用には注意が必要。
注意点
- 非盲検試験だった。
- 「除去困難な分泌物」の定義は標準化されていなかった。臨床チームの判断で登録されており、医師間・施設間のばらつきがあり得るかも。
- 無作為化前に粘液調整薬を受けていた患者の割合が不明。
- 呼吸理学療法のプロトコール化や個別患者ごとの詳細な記録なし。
- 高張食塩水について、投与前のテストドーズ評価や、投与前気管支拡張薬使用のプロトコールなし。
- 割付上は粘液調整薬を含まない群の一部患者にも、プロトコール外で粘液調整薬が投与ありえた。
まとめ
「人工呼吸中で痰が多いから、とりあえずカルボシステイン」
「痰が硬そうだから、とりあえず高張食塩水ネブライザー」
これらの治療は、機械換気時間の短縮に寄与せず、むしろ消化管出血や気管支攣縮といった有害事象と関連する。
積極的に使う理由なし。

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