Acute exacerbation in fibrotic interstitial lung disease: An International Working Group Report. Yet H Khor et al. American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine, 2026.
これまで特発性肺線維症(IPF)を中心に使われてきた急性増悪(AE)の考え方を、IPFと非IPFの両方を含む線維性間質性肺疾患(fILD) 全体へ拡張した国際ワーキンググループ報告です。
ポイントは、fILD患者の急な悪化をまず急性呼吸悪化(ARW)として捉え、そのなかからDADが推定される病態をAE-fILDとして分類する枠組みを提案したことです。
尚、当初ARWの範疇でもそれをトリガーとしたAEもありえるので注意が必要ですね。
今回は定義と診断基準に焦点をあてました。
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はじめに

IPFについては、2016年にAE-IPFの定義が提案されました。ただし、急性増悪を起こすのはIPFだけではなく、膠原病関連ILD、線維性過敏性肺炎、線維性NSIPなどでも、急性増悪が起こります。
しかし、非IPFのfILDには統一された急性増悪の定義がなく、研究ごとにAE-IPFの基準を流用している状況でした。
実臨床では、従来のAE-IPFの定義にある「IPF」や「UIP」という文言を、「ILD」や「背景の線維化所見」に置き換えて、非IPF-fILDにも準用していたことが多かったと思います。

そこで今回の国際ワーキンググループは、2016年のAE-IPF基準を土台に、対象をIPFと非IPFの両方を含むfILD全体へ拡張しました。
つまり、今回のAE-fILD診断基準は、非IPF-fILDだけの基準ではなく、IPFを含む、すべてのfILDに適用する共通の枠組みだと言えます。
抄録の和訳
急性増悪(AE)は、特発性肺線維症(IPF)患者だけでなく、非IPFの線維性間質性肺疾患(fILD)患者にも生じる。これらのイベントは高い罹患率および死亡率を伴うが、有効性が証明された治療介入は存在しない。
本文書の目的は、2016年のAE-IPF国際ワーキンググループ報告以降に得られた最新のエビデンスをまとめ、その対象をすべてのfILDへ拡張することである。
本稿では、AE-fILDの疫学、関連因子および危険因子、予後、管理について包括的な文献レビューを行った。
さらに、さまざまなfILDに広く適用できるようAEの定義および診断基準を改訂するとともに、AEに関連するものと関連しないものの双方を含む、多様な急性呼吸状態悪化を包括する概念として、急性呼吸悪化(acute respiratory worsening:ARW)の概念的枠組みを提案した。
これにより、臨床および研究の両場面において、構造化された評価が可能となる。
今回提案されたAE-fILDの改訂定義は、
- 既知または新たに診断されたfILD患者において、
- 呼吸器症状または呼吸器徴候の増悪を特徴とし、
- びまん性肺胞傷害(DAD)に合致する画像所見または病理組織学的所見を伴う
急性呼吸イベントである。DADには、器質化肺炎が重複する場合と重複しない場合の両方を含む。
一方、ARWとは、fILD患者において、肺水腫、気管支炎、肺炎など、DADに起因しない急性の症状増悪を来す不均一な臨床イベント群を指す。
ただし、重症肺炎がAE-fILDの誘因となることもある。
さらに本稿では、臨床試験の評価項目としてAEを採用する際の留意点を検討するとともに、病態機序、イベント発生予測、リスク層別化、薬物療法および支持療法の開発に関する知識を前進させるため、今後優先すべき研究課題について論じる。
今回の新しい全体像

今回の報告では、fILD患者の急性の悪化を、いきなり「急性増悪」と呼びません。まず、より広い概念である急性呼吸悪化:ARWとして捉えます。
fILD患者は、しばしば免疫抑制薬などによる治療を受けているため、感染症や薬剤性肺障害のリスクを抱えています。さらに、基礎疾患に伴う心・胸膜・神経筋病変などの併存症が、呼吸状態の悪化に関与することもあります。
こうした多様な病態を包括し、速やかな鑑別診断と体系的な評価を促すため、より広い概念としてARWが提案されたのです。
以下に簡単な流れを。
fILD患者の急性呼吸悪化
│
└─ ARW:acute respiratory worsening
│
├─ AE-fILD
│ DADが確定または推定される病態
│
└─ 非AEのARW
肺水腫、気胸、肺塞栓、
気道感染、胸水、呼吸筋力低下など
また、当初は非AEのARWとして発症していても、その病態や侵襲を契機にDADが誘発され、結果としてAE-fILDへ進展することもあり得ます。
急性呼吸悪化:ARWの定義
fILD患者に生じる、呼吸器症状または呼吸器徴候の増悪を特徴とする急性呼吸イベント。
AEに関連するイベントと、AEに関連しないイベントの双方を含む。
そして、ARWとして、論文中に挙げられている病態を整理すると以下のようになります。
| 大分類 | 具体的な病態・疾患 | 補足 |
|---|---|---|
| AE-fILD | 特発性AE-fILD | 明らかな誘因が同定されないAE |
| 誘因のあるAE-fILD | 感染、誤嚥、薬剤、手術・処置などを契機としてDADを来した場合 | |
| 感染症 | 細菌性 | 気管支炎・肺炎など |
| ウイルス性呼吸器感染症 | インフルエンザ・COVID-19など | |
| 日和見感染症 | Pneumocystis jirovecii、抗酸菌、真菌感染など | |
| 気道疾患 | COPD増悪 | COPDまたはCPFE合併例 |
| 心血管系 | 心不全 | 肺門周囲GGO、胸水、心不全所見など |
| 肺血栓塞栓症 | 胸痛、片側下肢腫脹などが手掛かり | |
| 胸膜・肺実質外病変 | 気胸 | 呼吸音の左右差を認め得る |
| 胸水 | 大量の場合は呼吸状態悪化の原因になる | |
| 治療・医原性 | 薬剤性肺障害 | 新規薬剤や肺毒性を有する薬剤に注意 |
| 放射線肺臓炎 | 通常は照射野に一致するが、まれに両側性GGO | |
| 手技関連肺障害 | BAL、肺生検、クライオバイオプシーなど | |
| 術後呼吸状態悪化 | 胸部手術などの術後 | |
| 誤嚥関連 | 誤嚥 | 嘔吐、むせ込み、意識障害などが手掛かり |
| 出血性病態 | びまん性肺胞出血 | 上肺野優位GGO、貧血などが手掛かり。血管炎背景。 |
| 基礎疾患関連 | CTDの活動性増悪 | 関節痛、筋痛、皮疹などを伴うことがある |
| 呼吸筋力低下 | 横隔膜筋力低下、奇異性呼吸など | |
| 貧血 | CTDの全身病態として呼吸困難を来し得る | |
| 曝露関連 | 過敏性肺炎の再曝露 | 環境・職業曝露の再確認が重要 |
なお、背景に線維化性ILDがない急速進行性ILDはARWと区別して考える病態です。特に抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎などでは、数週から数か月で進行し、初発ILDとして発症することがあります。これは、既存のfILDに生じる急性イベントとしてのARWとは別枠にされています。
ARWのポイントは、
まず「fILD患者の呼吸状態が急に悪化した」時点では、ARWとして捉える。
そして、AE-fILDか、それ以外の原因による悪化かを鑑別することです。
AE-fILDの提案定義
既知または新たに診断されたfILD患者に生じる、呼吸器症状または呼吸器徴候の増悪を特徴とした急性呼吸イベントであり、DADに合致する画像所見または病理組織学的所見を伴うもの。
DADには、器質化肺炎の重複を伴う場合と伴わない場合を含む。
臨床的には、次の要素から判断します。
| 項目 | 提案された内容 |
|---|---|
| 背景疾患 | 既知または新規診断のfILD |
| 発症期間 | 通常1か月未満 |
| 臨床所見 | 新規・増悪する呼吸困難、運動耐容能低下、酸素化悪化 |
| CT | 背景のfILDに重複する、新規または増悪した両側性GGO。浸潤影を伴ってもよい |
| 除外・評価 | 心不全・体液過剰のみでは説明できない。感染、肺水腫、肺塞栓などを並行評価 |
| 病理 | DAD±OP。診断のための肺生検は通常行わない |
- 咳嗽を基準に含めることも検討されたが、鑑別が広く、単独では特異性が低いため、診断を規定する所見には採用されず。
- 心不全や体液過剰だけで画像所見が説明できる場合には、AE-fILDとは考えない。これは2016のAE-IPFと同じですね。
- 感染や誤嚥、薬剤、手術などの誘因があるかないかで、以下のように分類。これも2016のAE-IPFの基準と同じですね。
- 誘因あり:triggered AE-fILD
- 誘因不明:idiopathic AE-fILD
2016年AE-IPF基準との違い
| 変更点 | 2016年 | 今回2026 |
|---|---|---|
| 対象 | IPFのみ | fILD全体 |
| 背景肺 | UIPパターン | あらゆるfILDらしい所見 |
| 臨床所見 | 主に呼吸困難 | 呼吸困難+運動耐容能低下+酸素化悪化 |
| 病態 | 新たな広範な肺胞異常 | DAD±OPを明示 |
さらに、前述のように今回はARWという上位概念が定義されました。

DADが中心だが、生検はしなくてもよい
今回の定義では、AE-fILDに想定される病態はDADです。
しかし、AE-fILDの患者にDADを確認する目的で肺生検を行う、という意味ではありません。
AE-fILDは重篤な状態であり、外科的肺生検や経気管支肺生検はリスクが高く、結果が治療方針を変えないことも少なくありません。
したがって実臨床では、臨床経過+CT所見からDADを推定することになります。
DADを病態の中心として想定しながらも、それを直接証明するのは難しいため、割り切りを要する定義ではありますが、現状ではやむを得ないところですな。
しかし、非IPFでは鑑別が難しい
非IPF-fILDでは、膠原病関連ILDや過敏性肺炎、顕微鏡的多発血管炎などの血管炎が背景疾患となることがあります。
そのため、両側性GGOの原因としては、免疫抑制療法に伴う日和見感染や薬剤性肺障害、基礎疾患に伴う肺胞出血なども挙げられます。以下ざっくり列挙。
- 細菌・ウイルス・日和見感染
- 薬剤性肺炎
- 肺水腫
- 肺胞出血
- OP
- 放射線肺臓炎
- 医原性の手技に関連した肺傷害
- 嚥下筋力低下→誤嚥
以上より、非IPF-fILDでは、両側性GGOが出現しても、その所見のDADに対する特異性はIPFより低いと考えられます。
そのため、感染症や薬剤性肺障害、基礎疾患の活動性などを含め、より慎重な鑑別、たくさんの情報収集と検査、診断的治療が必要ということですね。
注意点
- この基準は、前向き研究で感度・特異度が検証済みの診断基準ではない。
- 文献レビューと専門家合意に基づく提案。
- 採用研究の多くは後ろ向き。
- エビデンスの多くは依然としてAE-IPFに由来し、適用範囲はfILD全体に広がったが、非IPF-fILDに関するデータはIPFほど十分ではない
まとめ
今回のポイントは3つです。
① AEの対象をIPFからfILD全体へ拡張
② まずARWとして急性悪化を捉える
③ その中でDADが推定される病態をAE-fILDと定義する
fILD患者が急に悪化したら、すぐに「急性増悪」と決めつけるのではなく、ARWとして幅広く評価し、鑑別しながらAE-fILDと診断するという考え方が重要になります。
また別の機会に診断の流れや治療などほかのパートも掘り下げたいと思います。
ではまた。

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