間質性肺疾患論文紹介

ポリミキシンB固定化繊維カラム(PMX)を用いた直接血液灌流療法による特発性肺線維症急性増悪の治療:前向き多施設コホート研究(Abe S, et al.Respir Investig. 2024)

東京医科大学、神奈川県立循環器呼吸器病センター、日本医科大学からの重要な報告です。
Direct hemoperfusion with polymyxin B immobilized fiber column (PMX) treatment for acute exacerbation of idiopathic pulmonary fibrosis: A prospective multicenter cohort study

特発性肺線維症の急性増悪(AE-IPF)は、急性発症・進行性の呼吸不全を引き起こす、きわめて致命的な病態です 。1
急性増悪の年間発症率は約10%とされており、本邦の北海道StudyではAE-IPFはIPF患者の主要な死因として報告されています。2
その予後は極めて不良であり、文献によりさまざまですが、3ヶ月生存率が30~70%と言われています。

AE-IPFに対しては、高用量コルチコステロイドを主とする薬物治療が一般的に使用されていますが、有効な治療法は確立されていません。

AE-IPFに対するステロイド治療に関する記事はこちらをご覧ください。

本邦の「特発性肺線維症の治療ガイドライン2023」では、免疫抑制剤やポリミキシンB固定化カラムを用いた血液直接灌流法(PMX-DHP)が「一部の患者には合理的な選択肢である可能性がある」と記載されていますが、まだ決してエビデンスレベルは高くありません。

PMX-DHPとは?

  1. 目的: PMX-DHPは、体内の血液から特定の有害物質、特にエンドトキシンを除去することを目的としています。
  2. 方法: 透析のように血液を体外に取り出し、ポリミキシンBという抗菌性のある薬剤が固定化された特殊な繊維カラム(フィルター)に通します。このカラムがエンドトキシンなどの有害物質や炎症性サイトカインを吸着します。
  3. 治療対象: 元々は敗血症性ショックの治療に使用されてきましたが、近年ではAE-IPFやARDSなどの炎症性疾患にも有効性が期待されています。

2006年以降の報告では、PMX治療がAE-IPF患者の肺酸素化や生存率に有益な効果をもたらす可能性が示唆されています。3 4 5 6 7 8 9しかし、これらの結果は小規模な後ろ向き研究に基づいております。

今回の研究は、日本医科大学附属病院と神奈川県立循環器呼吸器病センターで実施され、
PaO₂/FiO₂比(P/F比)が300 mmHg未満のAE-IPF患者さん20が対象となっています。

この論文を通じてAE-IPF治療の現状を勉強してみました。

背景

特発性肺線維症の急性増悪(AE-IPF)の予後は極めて不良である。

しかし、最近の臨床報告では、ポリミキシンB固定化繊維カラム(PMX)を用いた直接血液灌流療法(PMX治療)がAE-IPF患者に有益な効果をもたらす可能性が示唆されている。

本多施設前向き研究の目的は、AE-IPFにおけるPMX治療の有効性と安全性を検証することである。

方法

  • 日本国内の2施設において、PMX治療を受けたAE-IPF患者を対象に前向き研究を実施した。
  • 各患者は6~24時間を目標とするPMX治療を2~3回受けた。
  • 主要評価項目はPMX治療後28日目の生存率とした。

結果

  • PMX治療後28日目の患者の生存率は65%[95%信頼区間(CI):40.3~81.5%]であった。
  • 本研究の95%CIの下限値は、従来の治療を受けたAE-IPF患者の生存率の上限である40%(過去の報告による)を上回っていた
  • PMX治療後12週間の生存率は50%(95% CI:27.1~69.2%)であった。
  • 肺胞酸素分圧と動脈酸素分圧の差および動脈血酸素分圧/吸入酸素分画(PaO₂/FiO₂比)の改善は、PMX治療回数が増加するにつれて見られ、第2回PMX治療終了時点で有意な改善が観察された。
  • PMX治療の安全性は臨床的に許容範囲内であった。

結論

本多施設前向き研究は、PMX治療がAE-IPF患者に対して安全であり、酸素化および予後を改善する可能性を示唆している。

この研究は、PMX治療だけを行った患者さんの観察研究なんですね。
結果として、PMX治療後の4週間生存率が65%、12週間生存率が50%と報告されています。
これが、過去に報告された従来治療の4週間生存率(10%~40%)と比べて高い数字だったという点が注目されています。特に、「95%信頼区間」という統計的な範囲で見たとき、PMX治療群の4週間生存率の下限値が従来治療の上限値(40%)を上回っていることが、PMX治療が有効である可能性を示唆しているんです。

ただし、ここで気をつけたいのは、この研究が「PMX治療を受けた人たちだけ」を対象にしている点です。従来の治療を受けた患者さんと直接比較しているわけではありません。
つまり、「PMX治療が本当に優れているのか?」ということを厳密に検証するには、PMX治療群と従来治療群、あるいはプラセボ群をランダムに分けて比較する「ランダム化比較試験」が必要なんですね。

この結果は、PMX治療がAE-IPFに有効かもしれない、という「可能性」を示している段階なので、過信せず、慎重に解釈することが大事です。次のステップとしては、もっと多くの患者さんを対象にしたランダム化比較試験が期待されるところですね。

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  1. H.R. Collard, C.J. Ryerson, T.J. Corte, G. Jenkins, Y. Kondoh, D.J. Lederer, et al. Acute exacerbation of idiopathic pulmonary fibrosis. An international working group report. Am J Respir Crit Care Med, 194 (2016), pp. 265-275 ↩︎
  2. M. Natsuizaka, H. Chiba, K. Kuronuma, M. Otsuka, K. Kudo, M. Mori, et al. Epidemiologic survey of Japanese patients with idiopathic pulmonary fibrosis and investigation of ethnic differences. Am J Respir Crit Care Med, 190 (2014), pp. 773-779 ↩︎
  3. Y. Seo, S. Abe, M. Kurahara, D. Okada, Y. Saito, J. Usuki, et al.
    Beneficial effect of polymyxin B-immobilized fiber column (PMX) hemoperfusion treatment on acute exacerbation of idiopathic pulmonary fibrosis
    Intern Med, 45 (2006), pp. 1033-1038 ↩︎
  4. S. Abe, H. Hayashi, Y. Seo, K. Matsuda, K. Kamio, Y. Saito, et al.
    Reduction in serum high mobility group box-1 level by polymyxin B-immobilized fiber column in patients with idiopathic pulmonary fibrosis with acute exacerbation ↩︎
  5. M. Kono, T. Suda, N. Enomoto, Y. Nakamura, Y. Kaida, D. Hashimoto, et al.
    Evaluation of different perfusion durations in direct hemoperfusion with polymyxin B-immobilized fiber column therapy for acute exacerbation of interstitial pneumonias
    Blood Purif, 32 (2011), pp. 75-81 ↩︎
  6. K. Oishi, Y. Mimura-Kimura, T. Miyasho, K. Aoe, Y. Ogata, H. Katayama, et al.
    Association between cytokine removal by polymyxin B hemoperfusion and improved pulmonary oxygenation in patients with acute exacerbation of idiopathic pulmonary fibrosis ↩︎
  7. N. Enomoto, M. Mikamo, Y. Oyama, M. Kono, D. Hashimoto, T. Fujisawa, et al.
    Treatment of acute exacerbation of idiopathic pulmonary fibrosis with direct hemoperfusion using a polymyxin B-immobilized fiber column improves survival
    BMC Pulm Med, 15 (2015), p. 15 ↩︎
  8. K. Oishi, K. Aoe, Y. Mimura, Y. Murata, K. Sakamoto, W. Koutoku, et al.
    Survival from an acute exacerbation of idiopathic pulmonary fibrosis with or without direct hemoperfusion with a polymyxin B-immobilized fiber column: a retrospective analysis
    Intern Med, 55 (2016), pp. 3551-3559 ↩︎
  9. S. Abe, A. Azuma, H. Mukae, T. Ogura, H. Taniguchi, M. Bando, et al.
    Polymyxin B-immobilized fiber column (PMX) treatment for idiopathic pulmonary fibrosis with acute exacerbation: a multicenter retrospective analysis
    Intern Med, 51 (2012), pp. 1487-1491 ↩︎

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