間質性肺疾患論文紹介

特発性肺線維症患者におけるベクソテグラスト:INTEGRIS-IPF臨床試験(Lancaster L, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2024)

Bexotegrast in Patients with Idiopathic Pulmonary Fibrosis: The INTEGRIS-IPF Clinical Trial.

  • 特発性肺線維症(IPF)は、原因が不明の間質性肺疾患であり、非常に予後が厳しいことが特徴です。
  • 現在、治療薬としてはニンテダニブやピルフェニドンが承認されていて、これらは呼吸機能の悪化を遅らせる効果があります。ただ、残念ながら、生存期間を大きく改善するような治療法はまだ確立されていません。
  • このため、QOLを保ちながらIPFの進行を抑え、さらに生存期間を延長させる新しい治療法の開発が急務となっています。
  • 呼吸器疾患の分野では、この領域の研究がこれからさらに進んでいくと期待されています。呼吸器内科に興味のある皆さんにとっても、非常にやりがいを感じられるテーマではないでしょうか?
  • IPFの進行に関しては、TGF-βの活性化が重要な役割を果たしています。このTGF-βは、αvβ6やαvβ1といったインテグリンによって活性化されます。1 2 3 これらのインテグリンは、特にIPF患者さんの肺の上皮細胞や線維芽細胞、筋線維芽細胞での高発現していることが報告されています。また、循環中のインテグリンαvβ6の濃度が高い患者さんでは、生存率が低下していることが示されています。4 5
  • こうした背景から開発されているのが、新しい経口薬のベクソテグラスト(PLN-74809)です。この薬は、TGF-βがαvβ6およびαvβ1に結合するのを防ぎ、結果的にTGF-βの活性化や線維化促進に繋がるシグナル伝達を阻害します。
  • ちなみに、これらのインテグリンは、IPF患者の肺組織で過剰に発現しており、線維化促進性シグナル伝達の主なドライバーとなっていますが、健常者ではこれらのインテグリンの活性化がほとんど見られないため、ベクソテグラストが作用しにくく、副作用が発生しにくいと考えられます。
  • INTEGRIS-IPF試験は、IPF患者さんを対象にした第2a相の多施設共同臨床試験で、ベクソテグラストの安全性、耐容性、薬物動態を評価しています。この試験では、ピルフェニドンやニンテダニブと併用した場合も含めて、努力性肺活量(FVC)、定量的肺線維症(QLF)、線維症関連バイオマーカーに基づく有効性も探索的に検討されています。

というわけで、この論文を勉強してみました。

背景

IPFは稀な進行性の疾患であり、進行性の咳、労作時呼吸困難、生活の質の低下、そして死を引き起こす。

目的

Bexotegrast(PLN-74809)は、IPFの治療を目的に開発中の経口1日1回投与の試験薬である。

方法

  • この第2a相多施設共同臨床試験では、IPF患者をランダムに割り付け、40 mg、80 mg、160 mg、または320 mgのベクソテグラスト、もしくはプラセボを、IPF治療薬(ピルフェニドンまたはニンテダニブ)の有無にかかわらず、1日1回経口投与した。
  • 各ベクソテグラスト投与群において、投与比率は約3:1とした。
  • 治療期間は少なくとも12週間とし、主要評価項目は治療中に発生した有害事象(Treatment-Emergent Adverse Events, TEAEs)の発生率とした。
  • 探索的有効性評価項目には、FVCのベースラインからの変化、定量的肺線維症(QLF)の範囲(%)、および線維症関連バイオマーカーのベースラインからの変化が含まれた。

結果

  • ベクソテグラストは良好な耐容性を示し、ベクソテグラスト群(全投与群を統合)とプラセボ群のTEAEs発生率は、それぞれ62/89(69.7%)および21/31(67.7%)で類似していた。
  • 有害事象として最も多かったのは下痢であり、下痢を経験した参加者の多くはニンテダニブを併用していた。
  • プラセボを投与された参加者と比較して、ベクソテグラストを投与された参加者は、背景治療の有無にかかわらず、12週間のFVC低下が抑制された。
  • また、QLFイメージングでは用量依存的な抗線維化効果が認められ、ベクソテグラスト群はプラセボ群と比較して線維症関連バイオマーカーの減少が観察された。

結論

ベクソテグラストは、12週間にわたる投与において、安全性および耐容性が良好であることが確認された。

探索的解析では、FVC、QLFイメージング、循環線維症バイオマーカーのレベルに基づく抗線維化効果が示唆された。

本試験はwww.clinicaltrials.govに登録されている(NCT04396756)。

  • 今回のINTEGRIS-IPF試験では、ベクソテグラストが最大12週間の治療期間で良好な安全性と忍容性を示したことが確認されました。
  • 4つの用量(40、80、160、320 mg)を投与したところ、有害事象の発生率に用量依存性の傾向は見られず、最も多かった副作用は下痢でした。
  • ただし、これは主に背景治療としてニンテダニブを使用している患者で発生しており、ベクソテグラスト自体の影響ではない可能性があります。
  • 特に、FVCやQLF、さらにはバイオマーカーを通じて線維化に作用する効果が確認された点は重要です。また、安全性と忍容性の面でも、背景治療(ピルフェニドンやニンテダニブ)との併用時に追加の毒性が認められなかったことも興味深いですね。
  • 今後の方向性として、現在進行中の52週間のBEACON-IPF試験(NCT06097260)が挙げられます。この試験では、ベクソテグラストの長期的な抗線維化効果や安全性がさらに評価される予定です。
  • この研究によって、FVCの安定化や症状の悪化抑制といった、より具体的な臨床的利益が明らかになることが期待されています。

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  1. Decaris ML, Schaub JR, Chen C, Cha J, Lee GG, Rexhepaj M, et al. Dual inhibition of αvβ6 and αvβ1 reduces fibrogenesis in lung tissue explants from patients with IPF. Respir Res . 2021;22:265. ↩︎
  2. John AE, Graves RH, Pun KT, Vitulli G, Forty EJ, Mercer PF, et al. Translational pharmacology of an inhaled small molecule αvβ6 integrin inhibitor for idiopathic pulmonary fibrosis. Nat Commun . 2020;11:4659. ↩︎
  3. Saini G, Porte J, Weinreb PH, Violette SM, Wallace WA, McKeever TM, et al. αvβ6 integrin may be a potential prognostic biomarker in interstitial lung disease. Eur Respir J . 2015;46:486–494. ↩︎
  4. Bowman WS, Newton CA, Linderholm AL, Neely ML, Pugashetti JV, Kaul B, et al. Proteomic biomarkers of progressive fibrosing interstitial lung disease: a multicentre cohort analysis. Lancet Respir Med . 2022;10:593–602. ↩︎
  5. Oldham J, Huang Y, Ma SF, Lee CT, Kim J, Pugashetti JV, et al. Proteomic determinants of idiopathic pulmonary fibrosis survival. Am J Respir Crit Care Med . 2024;209:1111–1120. ↩︎

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