2024 Focused Update: Guidelines on Use of Corticosteroids in Sepsis, Acute Respiratory Distress Syndrome, and Community-Acquired Pneumonia.
- その後、新たなエビデンスが蓄積され、特に敗血症、ARDS、CAPといった臨床現場で頻繁に遭遇する重症疾患において再評価が必要とされました。
そのため、これらの状態に焦点を絞り、最新のエビデンスを反映した形で今回のガイドラインが策定されています。
- 呼吸器内科では、呼吸器内科医自身が敗血症、ARDS、重症肺炎を直接診療することが多いですよね。
特にARDSに関しては、他科の患者さんが基礎疾患をきっかけにARDSを発症した場合に、コンサルトを受けることも少なくありません。
そのため、今回のガイドラインの内容を改めてしっかり理解しておくことが重要だと思い、勉強してみました。 - このガイドラインでは、敗血症やARDS、市中肺炎といった、臨床現場でよく遭遇する重症疾患に焦点を当てて、最新のエビデンスを基にコルチコステロイドの使用について具体的な推奨が示されています。
呼吸器内科として患者さんの治療に役立つ知識だと思いますし、コンサルトを受けた際にも的確なアドバイスができるようになると思います。
背景
敗血症、ARDS、およびCAPにおけるコルチコステロイド使用に関する新たなエビデンスが得られており、2017年版の重症疾患関連コルチコステロイド不足症に関するガイドラインのフォーカスアップデートが必要となった。
目的
敗血症、ARDS、およびCAPを有する入院中の成人および小児患者に対するコルチコステロイド使用に関するエビデンスに基づく推奨事項を策定すること。
パネル設計
- 22名のパネルメンバーには、成人および小児の集中治療専門医、呼吸器専門医、内分泌専門医、看護師、薬剤師、エビデンスに基づく臨床診療ガイドラインの策定に関する専門家である臨床方法論者など、多様な分野の代表が含まれた。
- タスクフォースの選定および投票を含むすべてのガイドライン策定プロセスにおいて、重症患者管理学会(SCCM)の利益相反ポリシーに従った。
方法
- 対象、介入、比較、およびアウトカム(PICO)の5つの主要な質問を策定後、それぞれの質問に対応する最良のエビデンスを特定するための系統的レビューを実施した。
- エビデンスの確実性評価にはGRADEアプローチ(Grading of Recommendations Assessment, Development, and Evaluation)を使用し、エビデンスから意思決定への枠組みを用いて推奨事項を策定した。
結果
5つのPICO質問に基づき、パネルは敗血症、ARDS、CAP患者におけるコルチコステロイド使用に関する4つの推奨事項を発表した。これには以下が含まれる:
- 敗血症性ショック患者およびARDSを有する重症患者に対するコルチコステロイド投与の条件付き推奨
- 重症CAPを有する入院患者に対するコルチコステロイド使用の強い推奨
- 敗血症性ショック患者における高用量/短期間のコルチコステロイド投与を推奨しないこと
ARDSにおけるコルチコステロイドの種類、用量、治療期間に関する最終的なPICO質問については、現在のエビデンスに基づき具体的な推奨を行うことができなかった。
結論
パネルは、敗血症、ARDS、およびCAPにおけるコルチコステロイド使用に関する最新のエビデンスに基づき、臨床医、患者、その他の関係者に情報を提供するための更新された推奨事項を提示した。
疾患 | 推奨事項(2024年) | 推奨の強さとエビデンスの質 | 2017年の推奨事項 |
---|---|---|---|
敗血症および 敗血症性ショック | 1A. 成人の敗血症性ショック患者にコルチコステロイド投与を「提案」する | 条件付き推奨、エビデンスの確実性:低 | ショックを伴わない敗血症では投与を推奨しない(条件付き推奨、エビデンスの質:中)。 |
1B. 成人の敗血症性ショック患者に高用量・短期間(>400 mg/日未満のヒドロコルチゾン3日以内)のコルチコステロイド投与を「推奨しない」 | 強い推奨、エビデンスの確実性:中 | 液体補充や中〜高用量の血管収縮薬治療に反応しない場合、コルチコステロイド投与を提案していた(条件付き推奨、エビデンスの質:低)。 | |
ARDS | 2A. 成人入院患者のARDSにコルチコステロイド投与を「提案」する | 条件付き推奨、エビデンスの確実性:中 | 発症14日以内でPao2/Fio2比が200未満の中等度〜重度ARDS患者への使用を提案していた(条件付き推奨、エビデンスの質:中)。 |
CAP | 3A. 重症の市中感染性細菌性肺炎で入院している成人患者にコルチコステロイド投与を「推奨」する | 強い推奨、エビデンスの確実性:中 | 入院患者に5〜7日間、1日400 mg未満のヒドロコルチゾン相当量の投与を提案していた(条件付き推奨、エビデンスの質:中)。 |
3B. 軽症の市中感染性細菌性肺炎で入院している成人患者にコルチコステロイド投与については「推奨しない」 | 推奨なし | なし |
備考:小児患者における敗血症および敗血症性ショック、急性呼吸窮迫症候群、市中感染性肺炎へのコルチコステロイド使用については、推奨事項は示されていません。<この文献の表3を引用改変>
病態 | 薬剤 | 投与量 | 投与期間 | 備考 |
---|---|---|---|---|
敗血症性ショック | HC | 200 mg/日 IV(持続注入または6時間ごとの分割投与) 必要に応じてフルドロコルチゾン50 µg/日(経口)を併用 | 最大7日間またはICU退室まで | 使用期間は患者の臨床状態により調整される場合があります。 |
ARDS | Dex | 初期ARDS(発症24時間以内): 20 mg/日 IV(5日間) その後10 mg/日 IV(5日間) | 最大10日間 | 他の選択肢としてmPSLも使用可(詳細は別記事で解説)。 |
mPSL | 初期ARDS(発症72時間以内): 1 mg/kg IVをボーラス投与、その後持続注入で以下のスケジュールを実施 1~14日目:1 mg/kg/日 15~21日目:0.5 mg/kg/日 22~25日目:0.25 mg/kg/日 26~28日目:0.125 mg/kg/日 | 最大28日間 | Extubation(抜管)のタイミングに応じて調整される場合があります。 | |
mPSL | Unresolving ARDS(7~21日目): 2 mg/kg IVをボーラス投与、その後分割投与で以下を実施 1~14日目:2 mg/kg/日 15~21日目:1 mg/kg/日 22~28日目:0.5 mg/kg/日 29~30日目:0.25 mg/kg/日 31~32日目:0.125 mg/kg/日 | 最大32日間 | 抜管が早期に行われた場合には、レジメンを短縮して調整。 | |
CAP | HC | 初回200 mg IV 続いて10 mg/時間の持続注入 | 最大7日間 | 臨床的改善が見られた場合、8~14日間まで延長可能。 |
mPSL | 40 mg/日 IVをボーラス投与 1~7日目:40 mg/日 8~14日目:20 mg/日 15~17日目:12 mg/日 18~20日目:4 mg/日 | 最大20日間 | ICU退室後、経口またはIVでの投与に切り替え。 |
HC: ヒドロコルチゾン、Dex: デキサメサゾン、mPSL: メチルプレドニゾロン <この文献の表4を引用改変>
- これまで、敗血症やARDS、CAPにおけるコルチコステロイド使用は、有益性と副作用のバランスに対して疑問が多かった分野です。
しかし、今回のガイドラインでは過去よりもステロイド使用の推奨・提案のレベルが上がっており、治療の選択肢としてより明確になったことに驚きました。 - 特に、敗血症性ショックや重症肺炎への適応が実践的になり、これらの病態を扱う呼吸器内科医にとって有益な内容だと感じます。一方で、長期的な副作用や小児への適応については、さらなる研究が必要だと思いました。
- 敗血症、ARDS、市中肺炎におけるさらなる研究や解釈が求められる点については、
別の記事で深掘りして勉強したいと思います。 - 個人的には、重症肺炎やそれに伴うARDSに対しては、培養検査で起炎菌が同定されていて、なおかつ感受性のある抗菌薬が使用できる状況であれば、ステロイドの使用を考慮してもよいのかなと思っています。
ただ、こういった点についてはさまざまな意見があると思いますし、必ずしも一つの正解があるわけではないとも感じますね。 - このガイドラインは治療の指針として非常に有用ですが、あくまでこれは私の感想であり、読者の皆さんにもそれぞれの意見があると思います。
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- Annane D, Pastores SM, Rochwerg B, et al.: Guidelines for the diagnosis and management of Critical Illness-Related Corticosteroid Insufficiency (CIRCI) in critically ill patients (part I). Crit Care Med. 2017; 45:2078–2088 ↩︎
- Pastores SM, Annane D, Rochwerg B; Corticosteroid Guideline Task Force of SCCM and ESICM: Guidelines for the diagnosis and management of Critical Illness-Related Corticosteroid Insufficiency (CIRCI) in critically ill patients (part II): Society of Critical Care Medicine (SCCM) and European Society of Intensive Care Medicine (ESICM) 2017. Crit Care Med. 2018; 46:146–148 ↩︎