2024 Focused Update: Guidelines on Use of Corticosteroids in Sepsis, Acute Respiratory Distress Syndrome, and Community-Acquired Pneumonia.
肺炎に対するステロイド治療の知識:呼吸器内科医が押さえるべきポイント
- 市中肺炎(CAP)は、呼吸器内科医が日常的に扱う疾患の中でも特に頻度が高く、重症化すると人工呼吸器やICU管理を必要とするケースもあります。
- 2024年版の最新ガイドライン全体の概要については別の記事でまとめていますので、<そちら>をご覧いただければ全体像が掴みやすくなると思います。
- 今回の記事では、その中でも特に市中肺炎に対するステロイド治療の詳細と、臨床現場での活用方法に焦点を当てて勉強していきます。
- 今回のガイドラインでは、重症CAPと軽症CAPで分けた推奨が示されています。
- 重症かそうでないかの判断が、ステロイド使用を考慮するうえで重要になっています。
重要肺炎の定義
出典 | 定義 |
---|
アメリカ胸部学会/感染症学会 2007 1 | 以下のいずれかを満たす場合: – 主要基準: – 血管収縮薬が必要な敗血症性ショック – 人工呼吸器を必要とする呼吸不全 – 副次基準(3つ以上): – 呼吸数 ≥ 30回/分 – Pao2/Fio2比 ≤ 250 – 複数の葉での浸潤影 – 混乱/見当識障害 – 尿毒症(BUN ≥ 20 mg/dL) – 白血球減少(WBC < 4000 cells/µL) – 血小板減少(血小板数 < 100,000/µL) – 体温低下(コア体温 < 36℃) – 積極的な輸液蘇生が必要な低血圧 |
CAPE COD試験 2 | 以下のいずれか1つを満たす場合: – PEEPレベルが5 cm H2O以上の侵襲的または非侵襲的人工呼吸の開始 – Pao2/Fio2比が<300で、Fio2が50%以上の高流量鼻カニュラ酸素療法の実施 – マスクで推定Pao2/Fio2比<300 – 肺炎重症度指数スコア > 130 (グループV) ※ ICU入院が必要 |
リスク層別化スコア | – 肺炎重症度指数クラスIVまたはV 3 – CURB-65スコア ≥ 3: 混乱、尿素窒素、呼吸数、血圧 4 – CORBスコア ≥ 2: 混乱、酸素化、呼吸数、血圧 5 – SMART-COPスコア ≥ 3: 収縮期血圧、胸部X線、アルブミン、呼吸数、頻脈、混乱、酸素化、動脈pH 6 |
市中肺炎に対するステロイド治療
以下、前回の「その①概要編 2024 Focused Update:敗血症、ARDS、市中肺炎におけるコルチコステロイド使用ガイドライン」から肺炎の部分を引用しています。
疾患カテゴリー | 推奨事項(2024年) | 推奨の強さとエビデンスの質 | 2017年の推奨事項 |
---|---|---|---|
CAP | 3A. 重症の市中感染性細菌性肺炎で入院している成人患者にコルチコステロイド投与を「推奨」する | 強い推奨、エビデンスの確実性:中 | 入院患者に5〜7日間、1日400 mg未満のヒドロコルチゾン相当量の投与を提案していた(条件付き推奨、エビデンスの質:中)。 |
3B. 軽症の市中感染性細菌性肺炎で入院している成人患者にコルチコステロイド投与については「推奨しない」 | 推奨なし | なし |
備考:小児患者における敗血症および敗血症性ショック、急性呼吸窮迫症候群、市中感染性肺炎へのコルチコステロイド使用については、推奨事項は示されていません。<この文献の表3を引用改変>
病態 | 薬剤名 | 投与量 | 投与期間 | 備考 |
---|---|---|---|---|
CAP | HC | 初回200 mg IV 続いて10 mg/時間の持続注入 | 最大7日間 | 臨床的改善が見られた場合、8~14日間まで延長可能。 |
mPSL | 40 mg/日 IVをボーラス投与 1~7日目:40 mg/日 8~14日目:20 mg/日 15~17日目:12 mg/日 18~20日目:4 mg/日 | 最大20日間 | ICU退室後、経口またはIVでの投与に切り替え。 |
HC: ヒドロコルチゾン、mPSL: メチルプレドニゾロン <この文献の表4を引用改変>
さて、2024年版のガイドラインでCAPに対するコルチコステロイド使用の推奨について、2017年版とどう違うのか勉強してみました。
2017年版の特徴は以下のとおりです。
- 全体的にコルチコステロイドの使用を控えめに推奨していた。
- 具体的には、CAPに対してコルチコステロイドを使うことを「条件付き推奨」とし、重症度による具体的な区別はされていなかった。
2024年版の新しい推奨は以下のとおりです。
- 2024年版では、重症CAPと軽症CAPを明確に分けて推奨を示しています。
- 重症CAP:コルチコステロイド使用を「強く推奨」。
- 軽症CAP:コルチコステロイド使用については「推奨しない」。
この違いが生まれた背景は、以下のデータに基づいています。それでは見てみましょう。
肺炎に対するステロイドのエビデンスの概要リスト(この論文から引用)
重症CAPにおける効果
- 病院内死亡率の低下
- 相対リスク(RR): 0.62(95% CI 0.45–0.85, 中等度確実性)。
- 侵襲的人工呼吸器の必要性の減少
- 確実性:中等度。
- ICUおよび病院滞在期間の短縮の可能性
- 確実性:低い。
軽症CAPにおける効果
- 病院内死亡率への効果なし
- RR: 1.08(95% CI 0.83–1.42, 確実性:低い)。
CAP全体(重症および軽症)における効果
- 侵襲的人工呼吸器の必要性の減少
- 確実性:中等度。
- ICUおよび病院滞在期間の短縮の可能性
- 確実性:低い。
- 高血糖のリスク増加
- 確実性:中等度】。
- 二次感染のリスク増加の可能性
- 確実性:低い。
- 消化管出血への影響は不明
- 確実性:低い。
- 今回のガイドラインでは、CAPに対するステロイドの使用について、重症例と軽症例で分けた推奨がされています。重症CAP患者では、ステロイドが病院内死亡率を大幅に低下させることが説明されています(RR 0.62)。
これは、特に重症患者を扱う呼吸器内科医にとって重要なポイントです。
加えて、侵襲的人工呼吸器の必要性を減らし、ICUや病院の滞在期間を短縮する可能性もあることから、治療全体の負担軽減が期待できるのではないかとも考えられます。 - 一方で、軽症CAP患者では明確な有益性が示されておらず、死亡率への効果も確認されていません。CAP全体で見ると、侵襲的人工呼吸器の必要性を減らす効果はありますが、軽症例ではこの効果が小さいため、パネルは軽症CAPに対するステロイドの推奨を行わない判断をしましたとのことです。
- 副作用として、高血糖や二次感染のリスク増加が挙げられますが、高血糖については短期的に管理可能であると考えられています。また、二次感染が増加しても、人工呼吸器の装着期間や病院滞在期間など、患者に直接影響を与える臨床アウトカムに悪影響は認められていません。
これについても、呼吸器内科医としても重要な知見だと思います。 - 重症CAPのエビデンスを強力に支持するものとして、CAPE COD試験が挙げられます。7この試験では、約35%の重症CAP患者を対象とし、ステロイドが死亡率を大幅に改善する結果を示しています。このデータは、重症CAPでのステロイド使用を支持する大きな根拠となっています。
- 治療コストの面でも、ステロイドは比較的安価で広く利用可能です。
- 個人的には、CAPは感染症としての性質を持つため、まずは適切な抗菌薬を使用することが治療の基本であり、最優先されるべきだと考えます。
特に、抗菌薬が十分に効果を発揮する可能性がある場合に、コルチコステロイドを安易に選択肢として挙げることは慎重であるべきだと思っています。
たしかにステロイドには抗炎症効果が期待できますが、一方で免疫抑制作用による二次感染や他の有害事象のリスクも伴います。したがって、コルチコステロイドの使用はあくまで補助的な治療として、慎重に適応を検討すべきだとも考えています。 - 一方で、患者が重症であり、敗血症<こちら>やARDS<こちら>に進行しつつあるケースでは、このガイドラインが示すエビデンスは、ステロイド治療に踏み切るための「背中の後押し」として非常に意義深いと感じます。
特に、重症CAPに対するコルチコステロイド治療が、死亡率を下げる可能性を示している点は重要です。現場での治療選択肢を広げ、医師が適切な判断を下すための根拠として、このようなガイドラインが果たす役割は大きいと言えるでしょう。 - 総じて、今回のガイドラインは、重症CAPにおける治療の方向性を示す重要な指針であり、エビデンスに基づいた判断を支える一助となるものです。ただし、抗菌薬治療が基本であるという点を忘れず、適応を適切に判断しながらステロイド治療を検討することが求められると感じました。
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- Mandell LA, Wunderink RG, Anzueto A, et al.; Infectious Diseases Society of America: Infectious Diseases Society of America/American Thoracic Society Consensus Guidelines on the management of community-acquired pneumonia in adults. Clin Infect Dis. 2007; 44:S27–S72 ↩︎
- Dequin P-F, Meziani F, Quenot J-P, et al.; CRICS-TriGGERSep Network: Hydrocortisone in severe community-acquired pneumonia. N Engl J Med. 2023; 388:1931–1941 ↩︎
- Fine MJ, Auble TE, Yealy DM, et al.: A prediction rule to identify low-risk patients with community-acquired pneumonia. N Engl J Med. 1997; 336:243–250 ↩︎
- Lim WS, Van Der Eerden MM, Laing R, et al.: Defining community acquired pneumonia severity on presentation to hospital: An international derivation and validation study. Thorax. 2003; 58:377–382 ↩︎
- Buising KL, Thursky KA, Black JF, et al.: Identifying severe community-acquired pneumonia in the emergency department: A simple clinical prediction tool. Emerg Med Australas. 2007; 19:418–426 ↩︎
- Charles P, Wolfe R, Whitby M, et al.: SMART-COP: A tool for predicting the need for intensive respiratory or vasopressor support in community-acquired pneumonia. Clin Infect Dis. 2008; 47:375–384 ↩︎
- Dequin P-F, Meziani F, Quenot J-P, et al.; CRICS-TriGGERSep Network: Hydrocortisone in severe community-acquired pneumonia. N Engl J Med. 2023; 388:1931–1941 ↩︎