感染症論文紹介

非重症インフルエンザ治療のための抗ウイルス薬:システマティックレビューおよびネットワークメタアナリシス(Ya Gao, et al. JAMA Intern Med. 2025)

Antiviral Medications for Treatment of Nonsevere Influenza: A Systematic Review and Network Meta-Analysis. Gao Y, et al. JAMA Intern Med. 2025. PMID: 39804622

  • インフルエンザの治療薬っていろいろありますが、日本では患者さんの状態や使いやすさによって薬の選択が分かれることが多いです。
  • 例えば、吸入が難しい小さいお子さんやお年寄りには経口薬のタミフル(オセルタミビル)やゾフルーザ(バロキサビル)が使われると思います。
  • 一方で、吸入が可能ならイナビル(ラニナミビル)を選ぶことも多いです。
  • 重症例や重症化リスクが高い場合には点滴で投与できるラピアクタ(ペラミビル)が頼りになります。

ゾフルーザは「ドラクエの呪文っぽい」って発売当初に話題になりましたね!!

ちなみにインフルエンザとステロイドに関する内容は別記事でまとめていますのでどうぞ!!

こちら

これまでの知見をざっくりと。

1. Peramivir(ラピアクタ)

  • 特性: 点滴静注で投与される1回投与型の抗ウイルス薬。
  • RCTの知見: Peramivirは、ウイルス排出期間を短縮し、症状の緩和に効果があるとされています。

2. Laninamivir(イナビル)

  • 特性: 吸入薬。1回の吸入で治療が完了することが特徴。
  • RCTの知見: 症状の緩和やウイルス排出期間の短縮において、オセルタミビルと同等の効果が示されていますが、特に高齢者や基礎疾患を持つ患者への効果についてはデータが不足しています。

3. Zanamivir(リレンザ)

  • 特性: 吸入型の薬剤。
  • RCTの知見: 症状の緩和やウイルス排出の短縮においてオセルタミビルと同等の効果があることが確認されています。

4. Oseltamivir(タミフルなど)

  • 特性: 最も広く使用される抗ウイルス薬で、経口投与が可能です。
  • RCTの知見: 症状緩和において、プラセボよりわずかに優れているとされていますが、死亡率や入院率に対する効果はほとんどありません。

5. Baloxavir(ゾフルーザ)

  • 特性: 新しい作用機序を持つ薬剤で、ウイルス排出期間の短縮に優れているとされています。
  • RCTの知見: 高リスク患者の入院リスク低減の可能性が示唆されていますが、耐性ウイルスの出現が懸念されています。また、症状の緩和においても効果があるとされています。

6. Umifenovir

  • 特性とエビデンス: 抗ウイルスおよび免疫調節効果を持つ薬剤で、主にロシアや中国で使用されています。
  • RCTの知見: ウイルス排出期間の短縮や症状の緩和効果が報告されていますが、エビデンスの質が低く、国際的には他の薬剤ほど広く採用されていません。

重要性

非重症インフルエンザの治療における最適な抗ウイルス薬は、依然として明確ではない。

目的

非重症インフルエンザの治療における抗ウイルス薬の効果を比較すること。

データソース

  • MEDLINE、Embase、CENTRAL、CINAHL、Global Health、Epistemonikos、およびClinicalTrials.govを、データベース設立時から2023年9月20日まで検索した。

研究選択基準

  • 非重症インフルエンザ患者に対し、直接作用型抗ウイルス薬をプラセボ、標準治療、または他の抗ウイルス薬と比較したランダム化臨床試験。

データ抽出と統合

  • ペアのレビュー担当者が独立してデータ抽出とバイアスリスク評価を実施した。
  •  Frequentist network meta-analysisを用いてエビデンスを要約し、エビデンスの確実性はGRADEアプローチを用いて評価した。

主要なアウトカムと測定項目

  • 死亡率
  • 入院
  • 集中治療室への入室
  • 入院期間
  • 症状の緩和までの時間
  • 耐性の発現
  • 治療に関連する有害事象。

結果

  • 全体で73件の試験が適格とされ、合計34,332人の参加者が含まれた。
  • 標準治療またはプラセボと比較すると、すべての抗ウイルス薬は低リスクおよび高リスク患者の死亡率にほとんど、または全く影響を与えなかった(すべて高い確実性)。
  • すべての抗ウイルス薬(ペラミビルとアマンタジンのデータはなし)は、低リスク患者の入院にほとんど、または全く影響を与えなかった(高い確実性)。
  • 高リスク患者の入院については、オセルタミビルはほとんど、または全く効果がなかった可能性が高い(リスク差[RD]、−0.4%;95%信頼区間[CI]、−1.0~0.4;高い確実性)。
  • 一方で、バロキサビルは入院リスクを減少させた可能性がある(RD、−1.6%;95% CI、−2.0~0.4;低い確実性)。
  • 他の薬剤はほとんど、または効果が不確実であった可能性がある。
  • 症状の緩和までの時間については、バロキサビルが症状の持続期間を短縮した可能性が高い(平均差[MD]、−1.02日;95% CI、−1.41~−0.63;中程度の確実性)。
  • ウミフェノビル(アルビドール)は症状の持続期間を短縮した可能性がある(MD、−1.10日;95% CI、−1.57~−0.63;低い確実性)。
  • オセルタミビルは、症状緩和までの時間に重要な影響を与えなかった可能性が高い(MD、−0.75日;95% CI、−0.93~−0.57;中程度の確実性)。
  • 治療に関連する有害事象については、バロキサビルは有害事象が少ないか、ほとんどなかった(RD、−3.2%;95% CI、−5.2~−0.6;高い確実性)。
  • 一方、オセルタミビルは有害事象を増加させた可能性が高い(RD、2.8%;95% CI、1.2~4.8;中程度の確実性)。

結論と意義

この系統的レビューおよびメタアナリシスでは、バロキサビルが非重症インフルエンザ患者において、高リスク患者の入院リスクを減少させ、症状緩和までの時間を短縮する可能性が高いことが示された。

また、治療に関連する有害事象を増加させないことも確認された。

他の抗ウイルス薬は、患者にとって重要なアウトカムにほとんど影響を与えないか、その効果が不確実である可能性が高いとされた。

  • どの薬にもメリットとデメリットがあって、患者さんの状態やリスクに応じて慎重に選ぶ必要があると改めて思いました。
  • 論文の結果を振り返ると、ほとんどのアウトカムで95%信頼区間が0をまたいでいて、いわゆる「統計学的に有意」と言える結果は少なかったですね。
  • ただ、それでも多くの薬剤で 症状改善までの日数が短縮されている 点や、死亡リスクに大きな影響を与えていない 点は、ある程度一貫していると感じました。
  • 気になる点を挙げるとすれば、ゾフルーザ(バロキサビル)とタミフル(オセルタミビル)の違いです。
  • ゾフルーザは副作用が少なく、使いやすい印象がありますが、やはり 耐性化の懸念 が課題ですね。
  • 一方で、タミフルは副作用が多いものの、長年の使用実績があり、一定の信頼感があります。このあたりは、現場での判断が本当に重要になってきますね。

結局のところ、どの薬を使うかは「患者さん一人ひとりの状態に合わせる」のが一番大切なんだな、と改めて感じました。今回の論文は、そんな治療の選択肢を整理するのにとても役立つ内容だったと思います!

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