2023 American College of Rheumatology (ACR)/American College of Chest Physicians (CHEST) Guideline for the Treatment of Interstitial Lung Disease in People with Systemic Autoimmune Rheumatic Diseases. Arthritis Rheumatol. 2024.
- このガイドラインが策定された背景を簡単に説明すると、全身性自己免疫性リウマチ疾患に関連する間質性肺疾患(SARD-ILDまたはCTD-ILD、今回はSARD-ILDで統一)の治療に関しては、特に強皮症を除く多くの疾患でエビデンスレベルが低く、治療選択が手探り状態であったことが大きな課題でした。
- そのため、呼吸器内科医やリウマチ専門医が、根拠をもって治療方針を立てるための指針が求められていました。
- 今回のガイドラインでは、臨床で直面することの多い治療選択について、一定の方向性を示しており、医療従事者にとっては非常に助けになるものです。
- ただし、治療方針の実践には注意が必要です。特に、日本と海外では保険適用や患者の好み、医療体制に違いがあるため、ガイドラインをそのまま適用するのではなく、地域の実状に合わせた慎重な運用が重要です。
- この記事ではまず、このガイドラインの概要について学んでいきたいと思います。個別の疾患や具体的な状態については、別の記事で詳しく掘り下げる予定です。それでは、さっそく始めましょう!
目的
本ガイドラインは、全身性自己免疫性リウマチ疾患(SARDs)を有する成人における間質性肺疾患(ILD)の治療について、エビデンスに基づく推奨を提供するものである。
方法
- 臨床的に関連性の高い「患者群(Population)、介入(Intervention)、比較対象(Comparator)、および結果(Outcomes)」に関する質問を策定した。
- その後、系統的文献レビューを実施し、Grading of Recommendations, Assessment, Development, and Evaluation(GRADE)法を用いてエビデンスを評価した。
- 臨床医および患者のパネルが、推奨の方向性と強度について合意した。
結果
- SARD-ILDの一次治療、一次ILD治療にもかかわらず進行する場合の治療、および急速進行性ILDの治療に関して、35の推奨(うち2つは強い推奨)が作成された。
- 強い推奨は、全身性強皮症に伴うILD(SSc-ILD)の一次治療および進行後の治療において糖質コルチコイドの使用を反対するものである。
- それ以外のSARDにおいては、一次ILD治療に糖質コルチコイドを条件付きで推奨する。
結論
本臨床実践ガイドラインは、全身性自己免疫性リウマチ疾患に伴うILDの治療に関して、アメリカリウマチ学会(ACR)およびアメリカ胸部学会(CHEST)によって承認された初の推奨を提示するものである。
Recommendations for management of SARD-ILD: first ILD treatment
対象 | 推奨内容 | 推奨度 |
---|---|---|
SARD-ILD(SSc-ILD以外) | 糖質コルチコイドを初期治療として推奨。 | 条件付き推奨 |
SSc-ILD | 糖質コルチコイドを初期治療として使用することに反対。 | 強い反対 |
SARD-ILD | ミコフェノール酸、アザチオプリン、リツキシマブ、シクロホスファミドを初期治療として推奨。 | 条件付き推奨 |
SSc-ILDおよびMCTD-ILD | トシリズマブを初期治療として推奨。 | 条件付き推奨 |
SARD-ILD | レフルノミド、メトトレキサート、TNFi、アバタセプトを初期治療として使用することに反対。 | 条件付き反対 |
SSc-ILD | ニンテダニブを初期治療として推奨。 | 条件付き推奨 |
SjD-ILD、IIM-ILD、MCTD-ILD | ニンテダニブを初期治療として使用することに反対。 | 条件付き反対 |
RA-ILD | ニンテダニブを初期治療として推奨するかどうかについて合意に至らず。 | 合意なし |
SARD-ILD | ピルフェニドンを初期治療として使用することに反対。 | 条件付き反対 |
SARD-ILD(進行がない場合) | ミコフェノール酸にニンテダニブまたはピルフェニドンを追加することに反対。 | 条件付き反対 |
SARD-ILD | ニンテダニブまたはピルフェニドンをミコフェノール酸と併用することに反対。 | 条件付き反対 |
IIM-ILD | JAK阻害剤(JAKi)を初期治療として推奨。 | 条件付き推奨 |
SARD-ILD(IIM-ILD以外) | JAKiを初期治療として使用することに反対。 | 条件付き反対 |
IIM-ILD | カルシニューリン阻害剤(CNI)を初期治療として推奨。 | 条件付き推奨 |
SARD-ILD(IIM-ILD以外) | CNIを初期治療として使用することに反対。 | 条件付き反対 |
SARD-ILD | 免疫グロブリン静注(IVIG)または血漿交換を初期治療として使用することに反対。 | 条件付き反対 |
SARD-ILD | 幹細胞移植または肺移植より最適な薬物治療を初期治療として推奨。 | 条件付き推奨 |
Recommendations for management of SARD-ILD progression despite first-line ILD treatment
Progression of ILDは、INBUILD試験の基準(PF-ILD)に従う。
対象 | 推奨内容 | 推奨度 |
---|---|---|
SSc-ILD | 長期糖質コルチコイドの使用に反対。 | 強い反対 |
その他のSARD-ILD | 長期糖質コルチコイドの使用に反対。 | 条件付き反対 |
SARD-ILD | ミコフェノール酸、リツキシマブ、シクロホスファミド、ニンテダニブを治療オプションとして推奨。 | 条件付き推奨 |
RA-ILD | ピルフェニドンを治療オプションとして追加することを推奨。 | 条件付き推奨 |
RA-ILD以外のSARD-ILD | ピルフェニドンを治療オプションとして追加することに反対。 | 条件付き反対 |
SSc-ILD、MCTD-ILD、RA-ILD | トシリズマブを治療オプションとして推奨。 | 条件付き推奨 |
SjD-ILDおよびIIM-ILD | トシリズマブを治療オプションとして使用することに反対。 | 条件付き反対 |
IIM-ILD | CNIを治療オプションとして推奨。 | 条件付き推奨 |
IIM-ILD以外のSARD-ILD | CNIを治療オプションとして使用することに反対。 | 条件付き反対 |
IIM-ILD | JAKiを治療オプションとして推奨。 | 条件付き推奨 |
IIM-ILDおよびMCTD-ILD | IVIGを治療オプションとして追加することを推奨。 | 条件付き推奨 |
SARD-ILD | 血漿交換を治療オプションとして使用することに反対。 | 条件付き反対 |
SSc-ILD | 幹細胞移植または肺移植への紹介を推奨。 | 条件付き推奨 |
Recommendations for management of SARD with RP-ILD
急速進行性の間質性肺疾患(RP-ILD)は、「数日から数週間」の間に、患者が通常の酸素吸入や基準となる酸素必要量から、高酸素必要量や挿管が必要な状態に急速に進行するサブタイプの間質性肺疾患を指す。
感染症や心不全など、他の原因が確認されない場合に診断されうる。急性間質性肺炎で発症するの一部でもこうしたケースが見られることがある。
進行性肺線維症(PPF)および進行性線維化間質性肺疾患(PF-ILD)はRP-ILDとは異なり、これらの用語は互換的に使用することはできない。→「PPF」と「PF-ILD」と「RP-ILD」を間違えないように。
対象 | 推奨内容 | 推奨度 |
---|---|---|
SARD-ILD | メチルプレドニゾロンパルス療法を初期治療として推奨。 | 条件付き推奨 |
SARD-ILD | リツキシマブ、シクロホスファミド、IVIG、ミコフェノール酸、CNI、JAKiを初期治療として推奨。 | 条件付き推奨 |
SARD-ILD | メトトレキサート、レフルノミド、アザチオプリン、TNFi(腫瘍壊死因子阻害剤)、アバタセプト、トシリズマブ、ニンテダニブ、ピルフェニドン、血漿交換の使用に反対。 | 条件付き反対 |
RP-ILD全般 | MDA-5が確認または疑われる場合:3剤併用療法、疑われない場合:2剤または3剤併用療法を単剤療法より優先して推奨。 | 条件付き推奨 |
SARD-ILD | 幹細胞移植への紹介よりも最適な薬物治療を初期治療として推奨。 | 条件付き反対 |
SARD-ILD | 最適な薬物治療で進行後の遅れた移植紹介よりも、早期の肺移植紹介を推奨。 | 条件付き推奨 |
CNI, calcineurin inhibitor; IIM, idiopathic inflammatory myopathies; ILD, interstitial lung disease; IVIG, intravenous immunoglobulin; JAKi, JAKinhibitor; MCTD, mixed connective tissue disease; MDA-5, melanoma differentiation-associated protein 5; RA, rheumatoid arthritis; RP, rapidlyprogressive; SARD, systemic autoimmune rheumatic disease; SjD, Sjögren disease; SSc, systemic sclerosis; TNFi, tumor necrosis factor inhibitor
<この文献の表1を引用改変>
推奨内容の概要です。
- ほぼすべてのSARD-ILDにおけるステロイドの扱い
ステロイドは、多くのSARD-ILD(強皮症を除く)で初期治療として条件付きで推奨されています。ただし、強皮症-ILD(SSc-ILD)ではステロイドの使用は強く推奨されていません。理由は、腎クリーゼ(scleroderma renal crisis)のリスクがあるためです。 - RA-ILDにおける治療
RAのPF-ILDに対するピルフェニドンの追加が条件付きで推奨されています。しかし、本邦では保険収載されておりません。タクロリムスなどのCNIが推奨されていないというのが意外な点です。 - PF-ILDの対応
治療の切り替えや追加が検討されます。例えば、ミコフェノール酸やリツキシマブ、シクロホスファミド、場合によってはニンテダニブなどが挙げられています。また、強皮症-ILDやMCTD-ILDではトシリズマブが条件付きで推奨されており、炎症が強い病態では効果が期待されるようです。 - 急速進行性ILD(RP-ILD)への対応
RP-ILDに対しては、ステロイドパルス療法やリツキシマブ、シクロホスファミド、CNI、JAKiなどが条件付きで推奨されています。また、特定の病態(例えば抗MDA-5抗体陽性のIIM-ILD)では、ステロイド+2種の免疫抑制剤が考慮されています。
- このガイドラインを読んで一番印象的だったのは、やはりステロイドの扱いですね。ほぼすべてのSARD-ILDでステロイドが初期治療として推奨されている一方で、強皮症ではこれまでどおり推奨されていないという点。強皮症特有のリスクを考慮した結果ですが、やはり慎重な対応が求められます。
- それと、少し驚いたのが、RA-ILDにCNIがあまり推奨されていないことです。日本の実臨床ではRA-ILDにCNIを使うこともよく見られるように思いますが、ガイドラインではあまり触れられていないんですよね。これって、国や地域ごとの違いなのでしょうか?気になるところです。
- なお、個別の病態や疾患ごとの詳しい解説は別の記事でさらに掘り下げていく予定ですので、そちらもお楽しみに!
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