感染症論文紹介

オミクロン株以降のCOVID-19死亡率はどう変わった? ~インフルエンザと比較~

Outcomes of COVID-19 in the Omicron-predominant wave: large-scale real-world data analysis with a comparison to influenza. Miyashita K, Hozumi H, Furuhashi K, Nakatani E, Inoue Y, Yasui H, Suzuki Y, Karayama M, Enomoto N, Fujisawa T, Inui N, Ojima T, Suda T. Pneumonia (Nathan). 2025 Feb 5;17(1):3.

まず最初に結論からいうと

以下のとおりです

日本全国ほぼ全員を網羅する医療ビッグデータ(NDB)を用いたリアルワールド研究。
COVID-19患者2740万人、インフルエンザ患者850万人を比較。

【衝撃】オミクロン期、実はCOVID-19死亡者が“激増”していた!

🔵 週当たり平均死亡者数
野生株169人 → アルファ397人 → デルタ195人 → オミクロン1623人!!

え?でも重症化率も死亡率も下がってたはずでは…?

🔵 実は、重症化率・死亡率は大幅に低下!
〈死亡率〉野生株2.7% → オミクロン0.4%
〈人工呼吸器〉野生株1.6% → オミクロン0.06%
〈ECMO〉野生株0.08% → オミクロン0.001%

🔵 それでも死亡者が増えた理由は…
感染者数がケタ違いだったから!
週当たり感染者数:野生株6312人 → オミクロン37万8848人!!

🔵 亡くなった方の大半は高齢者
〈80歳以上 週当たり死亡者数〉デルタ101人 → オミクロン1212人

🔵 一方、若年層(0~39歳)では死亡率や死亡者数はかなり低水準。
むしろインフルエンザの方が死亡率が高かった!

👉 ポイント
高齢者 → COVID-19に注意
若年層 → むしろインフルエンザが侮れない

感染拡大=死亡者増。
流行期は世代に応じた感染対策を!

  • 今回は「オミクロン株流行期以降における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の実態」について、大規模データに基づいた興味深い研究を紹介します。
  • ご存じのとおり、COVID-19はSARS-CoV-2というウイルスによって引き起こされ、2020年3月にWHOがパンデミックを宣言しました。その後、ウイルスは何度も変異を繰り返し、「懸念される変異株(VOC)」が次々に現れました。
  • 中でも2021年11月に確認されたオミクロン株は、5番目のVOCとして注目されました。
  • オミクロン株が広がった頃には、ワクチンの普及や治療法の進歩が進んでいたため、それ以前のアルファ株やデルタ株に比べると重症化しにくいことがわかっていました。
  • しかし、感染力が非常に強かったため、患者数は一気に増加したのです。
  • これまでCOVID-19の重症度や死亡率については、主に入院患者や救急外来を受診した患者を対象とした研究が多く行われてきました。
  • しかし、実際にはCOVID-19患者の多くは外来診療を受けているため、より現場に即した「全体像」を把握するには、外来患者と入院患者を含めた大規模データに基づく検討が必要です。
  • そこで本研究では日本全国の診療データを網羅した「NDBデータベース」を用いて、オミクロン株流行期におけるCOVID-19患者の転帰を調べ、過去の流行期(野生株・アルファ株・デルタ株)やインフルエンザ患者と比較することで、オミクロン期以降のCOVID-19の現状を明らかにすることを目指しました。
  • 日本全国1億数千万人の中でCOVID-19に罹患した2700万人以上のデータを使っています。すごいですね!

「NDB(National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan)」は、日本全国の医療データを集めた超巨大データベースです。これがどんなものか、そして「すごいところ」と「弱点」をまとめます。

✅ NDBの特徴
本全国のほぼすべての医療機関(病院・診療所・クリニックなど)の診療データが集約されている。
診療報酬明細書(レセプト)と、特定健診データが含まれる。
日本国民の99%以上をカバーしている。
入院も外来も含まれており、現場に近い「リアルな患者情報」がわかる。

⭐ NDBの「すごいところ」
1. とにかくデータ量が桁違いに多い!
 → 数千万人規模のデータ。今回のCOVID-19の研究では2700万人以上、インフルエンザも800万人以上が対象。
2. 日本全国を網羅している「リアルワールドデータ」
 → 「特定の病院だけ」「重症患者だけ」ではなく、普段の診療所やクリニックに通う軽症患者も含めて、広く全体像をつかめる。
3. 長期間・継続的にデータを追える
 → COVID-19の「野生株→アルファ株→デルタ株→オミクロン株」といった流行の変遷も、同じ基準で一貫して比較できる。

❌ NDBの「弱点」(限界)
1. 病気の重症度や検査結果がわからない
 → レセプトデータには血液検査の数値やCT画像の所見、酸素飽和度など臨床情報が含まれない。
2. ワクチン接種歴や喫煙歴がわからない
 → 「この人がワクチンを打っていたか」や「喫煙者かどうか」などの情報は含まれない。
3. 死亡原因が不明
 → 死亡が記録されていてもCOVID-19で亡くなったのか他の病気で亡くなったのかは区別できない。
4. 軽症者や無症状者が含まれない可能性
 → 例えば、熱だけで病院に行かなかった軽症の人や無症状だった人は、データに出てこない。

目的

  • オミクロン株流行期におけるCOVID-19死亡率に関する研究は、主に入院患者や救急外来受診者に焦点を当てたものが大半であり、入院患者と外来患者の双方を含むリアルワールドデータは不足している状況である。

方法

  • 日本全国の保険請求データを用いて、2020年1月から2023年4月までにCOVID-19(27,440,148例)と診断された患者とインフルエンザ(8,179,641例)と診断された患者を特定した。
  • オミクロン株流行期におけるCOVID-19患者について、過去の流行期のCOVID-19患者と比較を行った。
  • さらにオミクロン株流行期の一部期間(2022年5月~2023年4月)において、COVID-19患者をインフルエンザ患者と比較した。

結果

  • COVID-19の死亡率(週当たりの死亡者数/患者数の平均)は、流行期が進むにつれて低下した。
    1. 野生株流行期:2.7%(169/6,312)
    2. アルファ株流行期:2.1%(397/18,754)
    3. デルタ株流行期:0.7%(195/28,273)
    4. オミクロン株流行期:0.4%(1,613/378,848)
  • しかし、オミクロン株流行期には患者数が急増したことにより、特に高齢者で死亡者数が大幅に増加した。
  • 例えば、デルタ株流行期およびオミクロン株流行期における0~19歳患者では、週当たりの死亡者数/患者数の平均はそれぞれ1人未満/5,527人(0.01%未満)、4人/105,763人(0.01%未満)であったが、80歳以上では、それぞれ101人/925人(10.9%)、1,212人/20,771人(5.8%)であった。
  • 39歳以下ではインフルエンザ患者の死亡率の方が高く、40歳以上ではCOVID-19患者の方が高かった。

結語

  • オミクロン株流行期において、COVID-19の死亡率は低下したものの、患者数の増加により死亡者数は大幅に増加し、特に高齢者で顕著であった。
  • COVID-19の死亡率は若年層ではインフルエンザより低かったが、高齢者ではインフルエンザよりも高く、年齢に応じた対策が必要であることが示唆される。

週当たり平均COVID-19患者数とインフルエンザ患者数の推移。文献より引用。

COVID-19の年齢階層毎の週当たり平均患者数、死亡率、週当たり死亡者数。文献より引用。

  • オミクロン期以降では、どの年齢階層も爆発的に感染者数は増加した。
  • どの時期でも若年者の死亡率は極めて低く、高齢者では死亡率が高い。
  • オミクロン期では、以前と比較して、特に高齢者で死亡率はかなり低下した。
  • しかし、感染者数が大幅に増加したため、高齢者の死亡者絶対数は大幅に増加した。

年齢階層毎のCOVID-19とインフルエンザの死亡リスクの比較。39歳以下では、インフルエンザの方が死亡リスクが高く、40歳以上ではCOVID-19の方が死亡リスクが高い。文献より引用。

もう少し詳しく

🔵 実は驚き!! オミクロン期の週当たり平均の死亡者数は ”ケタ違い” に増加していました!!

  • 野生株169人→アルファ397人→デルタ195人→オミクロン 1623人!

🔵 しかし、実際は、COVID-19全体では重症化率や死亡率いずれも低下していたのです。

  • ネーザルハイフロー患者:
    野生株0.8%→アルファ1.6%→デルタ1.0%→オミクロン0.04%
  • 人工呼吸器患者:
    野生株1.6%→アルファ1.4%→デルタ0.7%→オミクロン0.06%
  • ECMO患者:
    野生株0.08%→アルファ0.07%→デルタ0.05%→オミクロン0.001%
  • 死亡率:
    野生株2.7%→アルファ2.1%→デルタ0.7%→オミクロン0.4%

🔵 なぜ週当たり平均死亡者数が増えたかと言うと、感染者数が圧倒的に増加したからです。

  • 週当たり感染者数:
    野生株 6312人→アルファ18,754人→デルタ28,273人→オミクロン 378,848人!

🔵 その詳細を次に述べていきます。

若年者(〜39歳)では死亡はまれ、むしろインフルエンザの方が致死率が高かった

  • 0〜19歳では、COVID-19死亡者はほとんどいない一方で、インフルエンザによる死亡者数の方が多い結果でした。
    • 例)0〜9歳:COVID-19死亡率0.004%、インフルエンザ死亡率0.018%
  • 20〜39歳でもCOVID-19死亡率は低く、インフルエンザより低かったです。
  • 若年者ではCOVID-19の死亡率や死亡者数は一貫して低水準でした。つまり、必要以上に恐れる必要はなく、むしろインフルエンザも含めた感染症全般へのバランスの取れた対応が重要といえます。

40歳以上ではCOVID-19の死亡率がインフルエンザを上回り、特に高齢者では顕著だった

  • 40歳以上になると、COVID-19死亡率がインフルエンザより高くなることが明確になっています。
  • 60〜79歳でも、COVID-19死亡率はインフルエンザの約2倍以上でした。
  • 高齢者ではオミクロン株になってもCOVID-19は依然として油断ならない疾患であり、ワクチン接種や早期治療介入の重要性が再確認されます。

感染者数が膨大だったため、絶対的な死亡者数は高齢者中心に大幅増加

  • オミクロン株流行期は感染者数が過去流行期より桁違いに多く、結果として高齢者を中心に死亡者数も大幅に増加しました。
    • 80歳以上の死亡者数:デルタ株流行期 1週間あたり101人 → オミクロン株流行期 1,212人
  • 致死率は下がっても、感染者数が爆発的に増えれば、高齢者では命を落とす人も増える現実が示されています。

つまり、オミクロン期における死亡者数の大幅な増加は、感染者数の急増に伴う高齢者の死亡者数増加が主な要因であったことが明らかになりました。




まとめ

  • 今回の研究では、日本全国の大規模データ(NDB)を用いて、オミクロン株流行期におけるCOVID-19の実態が明らかになりました。
  • 致死率は低下していたものの、感染者数の急増により、特に高齢者では死亡者数が増加していたことがわかりました。
  • 高齢者ではCOVID-19の死亡率がインフルエンザを上回っており、若年層とは全く異なるリスクがあることが改めて確認されました。
  • 一方で、若年層(~39歳)では、COVID-19での死亡率・死亡者数は極めて低く、インフルエンザの方が死亡率が高かったことも明らかになりました。
  • これらの結果から、COVID-19とインフルエンザを一括りに考えるのではなく、年齢層ごとに異なるリスクを踏まえて対策を講じる必要性が明らかになりました。高齢者ではCOVID-19を、若年者ではインフルエンザへの注力が必要かもしれません。
  • 感染者数が増えると死亡者数が増えるため、流行期には感染対策が不可欠でしょう。
  • このビッグデータの結果をみてあなたならどのように対策・行動をしますか?

おまけ:若年層ではCOVIDよりもインフルエンザの死亡率が高かったことに関する考察

本研究では、オミクロン株流行期において、若年層ではCOVID-19よりもインフルエンザの死亡率が高かったことが明らかになりました。
この結果について、現在考えられる背景を踏まえ、以下のように考察いたします。


COVID-19は若年層においてもともと低致死性であった

  • COVID-19は、当初から若年者では重症化・死亡率が極めて低い疾患であることが知られていました。多くの疫学データでも、若年層におけるCOVID-19の感染致死率は非常に低値であることが示されています。
  • また、オミクロン株以降、ワクチン接種率の上昇およびウイルス自体の病原性低下により、さらに若年層でのCOVID-19関連死亡リスクは低減したと考えられます。

パンデミック期間中の公衆衛生対策によるインフルエンザ免疫獲得機会の減少

  • 2020年以降、マスク着用・ソーシャルディスタンス・学校閉鎖などの感染対策により、インフルエンザ流行は著しく抑え込まれました。
  • その結果、小児を中心にインフルエンザに対する自然感染による免疫獲得機会が失われた可能性があります。
  • 低年齢層では初感染時に重症化しやすいことが知られており、2023年以降の感染再拡大時に、免疫不十分な小児で重症化例が増加した可能性が考えられます。

感染対策緩和後の免疫脆弱集団への流行拡大

  • 2023年以降、公衆衛生対策が緩和され、社会全体でインフルエンザが再流行し始めた時期と、免疫獲得機会を逃した小児・若年層の脆弱性が重なったと推測されます。
  • 結果として、免疫を十分に持たない集団にインフルエンザが直撃し、重症化・死亡率が上昇したと考えられます。
  • 特に、RSウイルスやヒトメタニューモウイルスなど、他の小児呼吸器感染症でも同様の現象が報告されており、COVID-19パンデミック後の「免疫ギャップ」が小児・若年層で問題視されるかもしれません。

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