間質性肺疾患論文紹介

肺線維症におけるLPA1拮抗薬Admilparantの有効性と安全性:第2相ランダム化臨床試験(Am J Respir Crit Care Med 2025)

Efficacy and Safety of Admilparant, an LPA(1) Antagonist, in Pulmonary Fibrosis: A Phase 2 Randomized Clinical Trial. Corte TJ, Behr J, Cottin V, Glassberg MK, Kreuter M, Martinez FJ, Ogura T, Suda T, Wijsenbeek M, Berkowitz E, Elpers B, Kim S, Watanabe H, Fischer A, Maher TM. Am J Respir Crit Care Med. 2025 Feb;211(2):230-238. doi: 10.1164/rccm.202405-0977OC.

まず最初に結論からいうと

以下のとおりです。

  • 今回の試験は、特発性肺線維症(IPF)や進行性肺線維症(PPF)に対するLPA1拮抗薬アドミルパラントの有効性や安全性、最適な投与量を評価する第2相試験。
  • この試験では、IPFやPPFに対して、概ね、肺機能の低下を抑える傾向と安全性が確認された。
    1. IPF:60 mg群 vs. プラセボの治療差:+1.4%(95%CI, -0.1~3.0)
    2. PPF:60 mg群 vs. プラセボの治療差:+3.2%(95%CI, 0.7~5.7)
  • 60 mgの用量が最適であることが示され、安全性にも大きな問題はありませんでした。
  • この結果をもとに、第3相試験でさらに多くの患者さんを対象に評価が進められる予定。
  • IPFやPPFは、肺の線維化が進行し、呼吸機能が低下していく疾患です。
  • PPFとは独立した疾患ではなく、主にIPF以外の間質性肺疾患において線維化が進行する病態の包括的概念といえます。
  • 現在、抗線維化薬としてピルフェニドンやニンテダニブが使われていますが、病気の進行を完全に止めることは難しく、新たな治療法が求められています。
  • そんな中、ブリストル・マイヤーズ スクイブ社が開発中の「アドミルパラント(BMS-986278)」は、新しいメカニズムを持つLPA1拮抗薬として期待されています。
  • 今回は、LPA1という分子の働きや、この薬がどのようにIPF・PPFの治療に役立つのかを、できるだけわかりやすくお伝えしたいと思います。

ちなみに、本薬剤以外にも、現在いくつかのIPFやPPFを対象とした臨床試験があり、有望な結果を示しています。

  • 第2相試験:選択的αvβ6/αvβ1インテグリン阻害剤であるベクソテグラスト(Bexotegrast)
    INTEGRIS-IPF臨床試験の結果は<こちら>、
  • 第3相試験:ホスホジエステラーゼ4B(PDE4B)阻害剤であるネランドミラスト(Nerandomilast)
    FIBRONEER試験の結果は<こちら

LPA1とは?線維化にどんな影響があるの?

まず、LPA(リゾホスファチジン酸) という分子について簡単に説明します。LPAは、細胞膜から作られる生理活性脂質で、細胞の増殖や炎症に関わっています。このLPAが結合する受容体のひとつがLPA1(リゾホスファチジン酸受容体1) です。LPA1は特に線維化の進展に関与することが知られており、線維芽細胞や上皮細胞、免疫細胞に発現しています。

LPA1が活性化すると、肺の線維化が進行することが知られています。具体的には、次のような影響があります。

  • 線維芽細胞が過剰に活性化し、異常に増えてしまう
  • コラーゲンの産生が増え、肺組織が硬くなってしまう
  • 炎症が長引き、線維化を加速させる
  • 血管の透過性が上がり、炎症細胞が肺に浸潤しやすくなる

つまり、LPA1は肺の線維化を悪化させる重要なターゲット なのです。

LPA1拮抗薬「アドミルパラント」の働きとは?

LPA1の働きがわかったところで、LPA1拮抗薬である「アドミルパラント」 がどのように作用するのかを見てみましょう。

アドミルパラントは、LPA1の働きをブロックすることで、線維化の進行を抑える ことを目的としています。具体的には、次のような効果が期待されています。

線維芽細胞の異常な活性化を抑える → 線維化の進行を遅らせる
コラーゲンの過剰産生を防ぐ → 肺が硬くなるのを防ぐ
炎症を抑える → IL-6やTGF-βなどの線維化促進因子の分泌を減らす
血管透過性を正常化する → 炎症細胞の過剰な浸潤を防ぐ

このように、LPA1拮抗薬は、肺の線維化の悪循環を断ち切る新しい治療法 として期待されているのです。

以上の背景でもって、論文の内容を勉強してみましょう。

研究の背景

  • IPFおよびPPFは罹患率および死亡率が高いため、新たな治療法の開発が求められている。

目的

  • 経口リゾホスファチジン酸受容体1拮抗薬であるアドミルパラント(BMS-986278)のIPFおよびPPF患者に対する有効性および安全性を評価する。

方法

  • 本試験は、第2相無作為化二重盲検プラセボ対照試験であり、IPF患者(無作為化278例、治療実施276例)およびPPF患者(無作為化125例、治療実施123例)の並行コホートを含む。
  • 被験者はアドミルパラント30 mg群、60 mg群、またはプラセボ群(1:1:1)に割り付けられ、1日2回、26週間投与を受けた。
  • 背景治療として、IPFおよびPPFの両コホートにおいて抗線維化薬の使用が、PPFコホートでは免疫抑制薬の使用も許可された。

主な結果

  • 26週間における予測FVC変化率は以下のとおり。
    1. IPFコホートではプラセボ群が-2.7%、アドミルパラント30 mg群が-2.8%、60 mg群が-1.2%。
    2. PPFコホートではプラセボ群が-4.3%、30 mg群が-2.9%、60 mg群が-1.1%。
  • 60 mgアドミルパラント群とプラセボ群の治療差は、IPFにおいて1.4%(95%信頼区間 -0.1~3.0)PPFにおいて3.2%(95%信頼区間 0.7~5.7)であった。
  • 両コホートにおいて、背景抗線維化薬の使用の有無にかかわらず治療効果が認められた。
  • アドミルパラント群とプラセボ群で下痢の発生頻度は同程度であった。
  • 全コホートにおいて、投与1日目の血圧一過性低下が観察されたが、アドミルパラント群でより顕著であった。
  • 有害事象による治療中止率は、IPFコホートでは各群で同程度であり、PPFコホートではアドミルパラント30 mg群で2.5%、60 mg群で0%、プラセボ群で17.1%であった。

結論

  • 本試験は、IPFおよびPPFの並行コホートにおいて抗線維化治療を評価した初の第2相試験である。
  • 60 mgアドミルパラントは肺機能低下を抑制し、安全性および忍容性が確認された。
  • この結果は、今後の第3相試験でのさらなる評価を支持するものである。
  • 臨床試験登録: clinicaltrials.gov(NCT04308681)。

アドミルパラントの第2相臨床試験(NCT04308681)では、IPFとPPFの患者さんを対象に、1日2回、30 mgまたは60 mgを26週間投与する試験が行われました。その結果、以下のようなFVCの変化が見られました。

IPFコホート(26週間)

  • プラセボ:-2.7%
  • アドミルパラント30 mg:-2.8%
  • アドミルパラント60 mg:-1.2%
  • 60 mg群 vs. プラセボの治療差:+1.4%(95%CI, -0.1~3.0) 
    ※95%CIが0をまたいでおり、有意とは言い難いが、良い傾向はある。

PPFコホート(26週間)

  • プラセボ:-4.3%
  • アドミルパラント30 mg:-2.9%
  • アドミルパラント60 mg:-1.1%
  • 60 mg群 vs. プラセボの治療差:+3.2%(95%CI, 0.7~5.7)
    ※95%CIが0をまたいでおらず、有意といえる。
  • つまり、60 mgのアドミルパラントを使用した場合、IPFとPPFのどちらの患者さんでも肺機能の低下を抑える傾向が見られた ということになります。
  • また、安全性についても以下のような結果が得られました。
  • 下痢の発生率はプラセボと同程度
  • 投与初日に一過性の血圧低下が見られたが、重大な問題にはならなかった
  • PPFコホートでは、有害事象による治療中止率がアドミルパラント群で低かった(60 mg群:0%、プラセボ群:17.1%)

これらの結果から、アドミルパラントは肺機能の低下を抑えつつ、安全性も確保できる可能性が高い ことが示唆されました。

  • ちなみに、これは第2相試験です。
  • 一般的に、新しい薬が臨床で使用されるまでには、第1相→第2相→第3相→(承認後の第4相)といった複数の段階を経る必要があります。
  • 特に、第2相試験は「薬の有効性(効果)の傾向と安全性を評価する」という重要なステップです。
  • 鋭い読者の中には、「あれ? IPFではプラセボ群と60 mg群で有意差がついていないのでは?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
  • しかし、第2相試験の目的はこの段階で明確な有効性を証明することではなく、有効性の”傾向”を評価し、安全性を確認することにあります。
  • この結果をもとに、さらなる検証を行うための第3相試験へと進む準備段階と位置付けられるのです。。

まとめです。

  • LPA1は肺線維症の進行に関与する重要なターゲット です。
  • LPA1拮抗薬「アドミルパラント」は、線維化の進行を抑え、肺機能低下を軽減する可能性があります
  • 第2相試験の結果は有望で、安全性も問題ない範囲でした。
  • 既存の抗線維化薬との併用療法→ ピルフェニドンやニンテダニブと組み合わせて使う可能性があるかもしれません。
  • 今後の第3相試験の結果次第で、新たな治療オプションとなることが期待されます!
  • IPF・PPFの治療はまだ進化の途中ですが、LPA1拮抗薬の登場は、線維化の進行を食い止める新たな選択肢 になるかもしれません。今後の研究の進展に、引き続き注目していきたいですね。

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