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間質性肺疾患いろいろ解説その他

【必読】ANCA関連血管炎の診断基準と国際分類基準の意義~MPA・EGPA・GPAをわかりやすく解説~

日本における診断基準(厚生労働省診断基準)と、研究などで用いられる国際分類基準の意義について、ポイントを絞って見ていきましょう。

重要なことですが、実はANCA関連血管炎には実臨床にすぐに適用できる統一された国際診断基準はありません!!

参考:ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023

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厚生労働省診断基準の意義

なぜ日本独自の診断基準があるのか?

日本には独自の診断基準(厚生労働省診断基準)があります。これにはいくつかの理由があります。

  • 有病率の違い: 日本ではMPAが多く、欧米ではGPAが多いなど、国や地域によって病気の現れ方に違いがあるから。
  • 遺伝的な要因: 病気になりやすい遺伝子も、欧米やアジアなど、地域によって異なる可能性があるから。
  • 医療制度: 日本の医療制度の中で、特定の疾患に対する医療費助成を行うために、明確な診断基準が必要となるから。

つまり、日本の患者さんの実情に合わせて作られたのが、厚生労働省の診断基準なんですね。

厚生労働省診断基準の役割

厚生労働省の診断基準は、主に以下の2つの役割を持っています。

  1. 臨床診断: 個々の患者さんの病気を診断するためのツールとして使われます。
  2. 医療費助成: 特定疾患(難病)として国の医療費助成を受けるための基準となります。

病気の診断だけでなく、患者さんが経済的な支援を受けるためにも重要な基準なのです。

次に、日本の診断基準を列挙します。

辞書のかわりに使ってください。必要な方以外は、スルーして頂いてかまいません。

ANCA関連血管炎の診断基準(厚労省指定難病基準)

MPAの診断基準

項目分類内容
1. 主要症候①急速進行性糸球体腎炎
②肺出血又は間質性肺炎
③腎・肺以外の臓器症状:紫斑、皮下出血、消化管出血、多発性単神経炎など
2. 主要組織所見細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死、血管周囲の炎症性細胞浸潤
3. 主要検査所見①MPO-ANCA 陽性
②CRP 陽性
③蛋白尿・血尿、BUN、血清クレアチニン値の上昇
④胸部X線所見:浸潤陰影(肺胞出血)、間質性肺炎
4. 診断のカテゴリー①Definite
(a)主要症候の2項目以上を満たし、かつ組織所見が陽性の例
(b)主要症候の①及び②を含め2項目以上を満たし、MPO-ANCAが陽性の例
②Probable
(a)主要症候の3項目を満たす例
(b)主要症候の1項目とMPO-ANCA陽性の例
5. 鑑別診断①結節性多発動脈炎
②多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)
③好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎/チャーグ・ストラウス症候群)
④膠原病(全身性エリテマトーデス、関節リウマチなど)
⑤IgA血管炎(旧称:ヘノッホ・シェーライン紫斑病)
⑥抗糸球体基底膜腎炎(旧称:グッドパスチャー症候群)
6. 参考事項(1)主要症候の出現する1~2週間前に先行感染(多くは上気道感染)を認める例が多い。
(2)主要症候①、②は約半数例で同時に、その他の例ではいずれか一方が先行する。
(3)多くの例でMPO-ANCAの力価は疾患活動性と平行して変動する。
(4)治療を早期に中止すると、再発する例がある。
(5)鑑別診断の諸疾患は、特徴的な症候と検査所見・病理組織所見から鑑別できる。

MPA診断 ざっくりいうと

カギは、症状と組織とMPO-ANCAです。

  • 症状2つ以上+組織でOK → Definite(確定)
  • 症状2つ(うち腎+肺)+MPO-ANCA陽性 → Definite
  • 症状3つだけ or 症状1つ+MPO-ANCA陽性 → Probable(ほぼ確定)

EGPAの診断基準

項目分類内容
1. 主要臨床所見(1)気管支喘息あるいはアレルギー性鼻炎
(2)好酸球増加(末梢血白血球の10%以上、又は1500/μ L以上)
(3)血管炎による症状:
発熱(38℃以上、2週間以上)、
体重減少(6か月以内に6kg以上)、
多発性単神経炎、
消化管出血、
多関節痛(炎)、
筋肉痛(筋力低下)、
紫斑のいずれか1つ以上
2. 臨床経過の特徴主要臨床所見(1)、(2)が先行し、(3)が発症する
3. 主要組織所見(1) 周囲組織に著明な好酸球浸潤を伴う細小血管の肉芽腫性またはフィブリノイド壊死性血管炎の存在
(2) 血管外肉芽腫の存在
4. 診断カテゴリー(1)Definite
(a) 1.主要臨床所見3項目を満たし、かつ3.主要組織所見の1項目を満たす場合
(b) 1.主要臨床所見3項目を満たし、かつ2.臨床経過の特徴を示した場合
(2)Probable
(a) 1.主要臨床所見1項目を満たし、かつ3.主要組織所見の1項目を満たす場合
(b) 1.主要臨床所見を3項目満たすが、2.臨床経過の特徴を示さない場合
5. 参考となる所見(1)白血球増加(≧1万/µL)
(2)血小板増加(≧40万/µL)
(3)血清IgE増加(≧600 U/mL)
(4)MPO-ANCA陽性
(5)リウマトイド因子陽性
(6)(画像所見上の)肺浸潤陰影

EGPA診断ざっくりいうと

ぜんそく+好酸球+血管炎の症状」があるかをチェックします!

◆ポイントはこの3つ!

  1. ぜんそく or アレルギー性鼻炎があるか?
  2. 血液中の好酸球が多いか?
     → 白血球の10%以上、または1500/μL以上!
  3. 血管炎のサインがあるか?
     → 発熱、体重減少、神経のしびれ、皮膚の紫斑など

この3つがそろってたら、かなりEGPAっぽい!

「ぜんそくや好酸球増加が先にあって → 血管炎の症状があとから出てきた」なら、診断にグッと近づきます。

組織を調べて、好酸球が血管の周りにびっしり集まってたら確定です!

GPAの診断基準

項目分類内容
1. 主要症状(1)上気道(E)の症状
鼻(膿性鼻漏、出血、鞍鼻)、
眼(眼痛、視力低下、眼球突出)、
耳(中耳炎)、
口腔・咽頭痛(潰瘍、嗄声、気道閉塞)
(2)肺(L)の症状
血痰、
咳嗽、
呼吸困難
(3)腎(K)の症状
血尿、
蛋白尿、
急速に進行する腎不全、
浮腫、
高血圧
(4)血管炎による症状
①全身症状:発熱(38℃以上、2週間以上)、体重減少(6か月以内に6㎏以上)
②臓器症状:紫斑、多関節炎(痛)、上強膜炎、多発性単神経炎、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)、消化管出血(吐血・下血)、胸膜炎
2. 主要組織所見①E、L、Kの巨細胞を伴う壊死性肉芽腫性炎
②免疫グロブリン沈着を伴わない壊死性半月体形成腎炎
③小・細動脈の壊死性肉芽腫性血管炎
3. 主要検査所見Proteinase 3-ANCA(PR3-ANCA)(蛍光抗体法でcytoplasmic pattern,C-ANCA)が高率に陽性を示す。
4. 診断のカテゴリー(1) Definite
(a)上気道(E)、肺(L)、腎(K)のそれぞれ1臓器症状を含め主要症状の3項目以上を示す例
(b)上気道(E)、肺(L)、腎(K)、血管炎による主要症状の2項目以上及び、組織所見①、②、③の1項目 以上を示す例
(c)上気道(E)、肺(L)、腎(K)、血管炎による主要症状の1項目以上と組織所見①、②、③の1項目以上 及びC(PR-3) ANCA 陽性の例
(2)Probable
(a)上気道(E)、肺(L)、腎(K)、血管炎による主要症状のうち2項目以上の症状を示す例
(b)上気道(E)、肺(L)、腎(K)、血管炎による主要症状の1項目及び、組織所見①、②、③の1項目以上を示す例
(c)上気道(E)、肺(L)、腎(K)、血管炎による主要症状のいずれか1項目とC(PR-3)ANCA 陽性を示す例
5. 参考となる検査所見①白血球、CRPの上昇
②BUN、血清クレアチニンの上昇
6. 鑑別診断①E、Lの他の原因による肉芽腫性疾患(サルコイドーシスなど)
②他の血管炎症候群 (顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(チャーグ・ストラウス症候群)、結節性多発動脈炎、抗糸球体基底膜腎炎(グッドパスチャー症候群)など)
7. 参考事項①    上気道(E)、肺(L)、腎(K)の全てが揃っている例は全身型、上気道(E)、下気道(L)のうち単数又は2つの臓器にとどまる例を限局型と呼ぶ。
② 全身型はE、L、Kの順に症状が発現することが多い。
③ 発症後しばらくすると、E、Lの病変に黄色ぶどう球菌を主とする感染症を合併しやすい。
④ E、Lの肉芽腫による占拠性病変の診断にCT、MRIが有用である。
⑤ PR3- ANCAの力価は疾患活動性と平行しやすい。日本では多発血管炎性肉芽腫症の患者の半数はMPO-ANCA陽性である。

GPA診断 ざっくいうと

「耳・鼻・肺・腎+PR3-ANCA(C-ANCA)」がカギ!

  1. 上気道(E)症状
     → 鼻血、副鼻腔炎、中耳炎、鞍鼻、目の痛みなど
  2. 肺(L)症状
     → 咳、血痰、息切れ、レントゲンで影が出ることも
  3. 腎(K)症状
     → 血尿・たんぱく尿、腎機能の悪化など
  4. その他の血管炎症状
     → 発熱、体重減少、紫斑、神経障害、多関節痛など
  5. 血液検査でPR3-ANCA(C-ANCA)陽性
  6. 組織検査で壊死性肉芽腫や血管炎の証拠が出たら確定に近づく!

E+L+Kの3つがそろえば「Definite」確定!
E/L/K+PR3-ANCA陽性や組織所見でもOK!
症状が2つ以上あれば「Probable」ほぼ確実!

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国際分類基準の理解

国際分類基準って何?

主にアメリカリウマチ学会(ACR)や欧州リウマチ学会連合(EULAR)といった国際的な学会が作った基準です。

国際分類基準の目的

その主な目的は、

  • 研究対象の標準化: 臨床試験や疫学研究などで、世界中の研究者が同じような患者さんを対象に研究できるようにすること。
  • 研究結果の比較: 異なる研究機関や国での研究結果を比べやすくすること。

つまり、研究のための「共通言語」のようなものですね。2022年には、MPA、EGPA、GPAの新しい国際分類基準が発表されています。

つまり、診断の参考にしてもよいですが、診断基準ではないのです。

診断は最終的に専門医の総合判断

国際的には、臨床症状、画像所見、血液検査、病理所見、ANCAなど、あらゆる情報を総合して、リウマチ内科医などの専門医が最終的に判断します。

次に、分類基準を列挙します。

辞書のかわりに使ってください。必要な方以外は、スルーして頂いてかまいません。

ACR/EULARによる分類基準2022

MPA、EGPA、GPAに共通してまず大事なのは、「血管炎っぽく見えるけど実は違う病気」をしっかり除外することです。

というのも、これから紹介する分類基準は、すでに“小血管”または“中血管”の血管炎と診断された人を対象に、それがMPAなのか、EGPAなのか、GPAなのかを見分けるためのものなんです。

つまり、「血管炎かどうか」を決めるためのものではなく、「どのタイプの血管炎か」を分類するための道具、というわけですね。
この点は、けっこう大事なポイントなので注意が必要です。

ちなみに、「どうやって小〜中血管炎と診断するの?」という部分については、2022年に発表されたACR/EULARの分類基準の中では詳しく触れられていません。
なので、そこは医師の診察や検査結果、臨床判断などを総合して決めることになります。

MPAの分類基準

分類所見内容点数
臨床所見鼻症状または徴候:出血、潰瘍、痂皮形成、うっ血、閉塞、鼻中隔欠損・穿孔-3点
血液検査所見P-ANCAまたはMPO-ANCA陽性+6点
C-ANCAまたはPR3-ANCA陽性-1点
好酸球数 1×10⁹/L 以上-4点
胸部画像所見肺線維症または間質性肺疾患+3点
腎生検所見微量免疫型糸球体腎炎(pauci-immune糸球体腎炎)※+3点

※微量免疫型糸球体腎炎:蛍光抗体法による糸球体染色で、免疫グロブリンや補体の沈着が陰性またはごくわずかな糸球体腎炎。

分類基準:6項目の累積スコアが、5点以上 の場合、MPAと分類。

EGPAの分類基準

分類所見内容点数
臨床所見閉塞性気道病変(例:喘息など)+3点
鼻茸+3点
多発性単神経炎+1点
検査・生検所見好酸球数 1×10⁹/L 以上+5点
生検で血管外好酸球主体の炎症+2点
C-ANCA または PR3-ANCA 陽性-3点
血尿-1点

分類基準:7項目の累積スコアが 6点以上 の場合、EGPAと分類。

GPAの分類基準

分類所見内容点数
臨床所見鼻腔病変(血性鼻漏、潰瘍、痂皮形成、鼻閉、鼻中隔欠損・穿孔)+3点
軟骨病変(耳・鼻軟骨炎、嗄声・喘鳴、気管支内病変、鞍鼻)+2点
伝音性・感音性難聴+1点
検査・画像・生検所見C-ANCAまたはPR3-ANCA陽性+5点
肺画像上の肺結節、肺腫瘤、空洞+2点
生検による肉芽腫、血管外肉芽腫性炎症、巨細胞+2点
画像上の鼻・副鼻腔炎症、浸潤影、滲出、乳様突起炎+1点
腎生検による微量免疫型(pauci-immune)糸球体腎炎+1点
P-ANCAまたはMPO-ANCA陽性-1点
好酸球数 1×10⁹/L 以上-4点

分類基準:10項目の累積スコアが 5点以上 の場合、GPAと分類。

まとめ

日常の診療では、厚生労働省の診断基準をメインに使いましょう。

特に、医療費助成の申請にはこの基準が必須です。

一方、国際分類基準は、主に研究目的で活用します。

日本の患者さんのデータを国際的な研究と比較する際に、対象となる患者さんを同じ基準で選ぶことができるからです。

ただし、診断が難しい症例などでは、両方の基準を参考にしながら、慎重に判断することが大切です。



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