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論文紹介呼吸不全

急性呼吸窮迫症候群における吸入鎮静:SESAR試験2025

Inhaled Sedation in Acute Respiratory Distress Syndrome: The SESAR Randomized Clinical Trial. Jabaudon M, et al. JAMA. 2025.

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は集中治療室(ICU)における重篤な疾患の一つで、致死率は35〜46%にも達します。

ARDSの治療において人工呼吸管理は必須であり、患者の不快感や呼吸器との同期を改善するために鎮静が行われます。しかし、「ARDSにおける最適な鎮静薬の選択は何か?」という問いには、明確な答えがありません。

現在のガイドラインでは、ベンゾジアゼピンを避け、プロポフォールやデクスメデトミジンなどの非ベンゾジアゼピン系薬剤による軽度の鎮静が推奨されていますが、ARDSに特化した鎮静の推奨はほとんど示されていません。

一方、セボフルランなどの吸入麻酔薬は、抗炎症作用や肺保護効果の可能性が示唆されており、ARDSへの応用が期待されています。

そこで登場したのが、今回のSESAR試験です。この研究では、ARDS患者におけるセボフルラン吸入鎮静とプロポフォール静脈内鎮静の有効性と安全性を直接比較し、「吸入鎮静が人工呼吸器からの早期離脱や生存率の向上に貢献するのか?」という問いに挑みました。

重要性

吸入または静脈内鎮静の使用が、侵襲的人工呼吸管理を受けている急性呼吸窮迫症候群(ARDS)患者の転帰に異なる影響を与えるかどうかは不明である。

目的

ARDS患者において、吸入セボフルランと静脈内プロポフォールによる鎮静の有効性および安全性を比較すること。

研究デザイン、設定、対象

本研究は、第3相の無作為化、非盲検、評価者盲検の臨床試験であり、2020年5月から2023年10月にかけて実施され、90日間の追跡調査が行われた。

Pao₂/FiO₂比が150 mmHg未満で、呼気終末陽圧(PEEP)8 cmH₂O以上という基準を満たす早期の中等症から重症のARDSを有する成人患者が、フランス国内の37の集中治療室(ICU)で登録された。

介入

患者は、吸入セボフルランによる鎮静戦略(介入群)または静脈内プロポフォールによる鎮静戦略(対照群)に無作為に割り付けられ、最大7日間実施された。

主要アウトカムおよび評価指標

主要評価項目は、28日目までの人工呼吸器非依存日数(ventilator-free days)

主要副次評価項目は90日生存率

結果

登録された687例(平均年齢[標準偏差]:65[12]歳、女性30%)のうち、346例がセボフルラン群、341例がプロポフォール群に無作為に割り付けられた。

両群ともに鎮静の総期間の中央値は7日間(IQR:4~7)であった。

28日目までの人工呼吸器非依存日数の中央値は、

  • セボフルラン群で0.0日(IQR:0.0~11.9)
  • プロポフォール群で0.0日(IQR:0.0~18.7)

中央値の差は−2.1日(95%信頼区間[CI]:−3.6~−0.7)
標準化ハザード比は0.76(95%CI:0.50~0.97) 
※セボの方が非依存期間が短い、つまり依存期間が長いのでよくない

90日生存率は

  • セボフルラン群で47.1%
  • プロポフォール群で55.7%
  • ハザード比は1.31(95%CI:1.05~1.62)→セボの方が生存率低い

4つの副次評価項目のうち、セボフルラン群はプロポフォール群と比較して、
7日目時点での死亡率が高く(19.4% vs 13.5%、相対リスク1.44[95%CI:1.02~2.03])、
28日目までのICU非依存日数が少なかった(中央値:0.0日[IQR:0.0~6.0] vs 0.0日[IQR:0.0~15.0]、中央値の差−2.5日[95%CI:−3.7~−1.4])。

結論と意義

中等症から重症のARDS患者において、セボフルランによる吸入鎮静は、プロポフォールによる静脈内鎮静と比較して、28日目までの人工呼吸器非依存日数が少なく、90日生存率も低かった。

まとめと臨床への応用

この試験の結果、セボフルランによる吸入鎮静は、プロポフォールと比較して「人工呼吸器非依存日数の減少」および「90日生存率の低下」と関連していました。これにより、ARDS患者においてセボフルランを積極的に使用することには注意が必要であることが明らかとなりました。

つまり本研究は、

ARDSに対する吸入鎮静の使用を支持する根拠にはならず、現時点ではプロポフォールの方がより安全で効果的な選択肢である可能性が高い

という臨床的メッセージを示しています。

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