High-Flow Nasal Oxygen vs Noninvasive Ventilation in Patients With Acute Respiratory Failure: The RENOVATE Randomized Clinical Trial. RENOVATE Investigators and the BRICNet Authors. JAMA. 2024 Dec 10. doi: 10.1001/jama.2024.26244.
まず最初に結論からいうと
このランダム化比較試験の結果は、以下のとおりです。
- 7日以内の気管挿管または死亡率において、高流量鼻カニュラ(ネーザルハイフロー:HFNO)は非侵襲的人工呼吸(NIV)に対して非劣性
- 非免疫抑制患者、COPD急性増悪、急性心原性肺水腫、低酸素性COVID-19の患者ではHFNOが使用可能
- 特に急性心原性肺水腫では、HFNOがNIVよりも良好な可能性がある
- ただし、COPD急性増悪や急性心原性肺水腫は、NIVが必要になった場合は切り替え、あるいはNIVが必要な可能性あり。
- 免疫抑制患者ではNIVの方が適切(HFNOで不良転帰のリスク増)
- 患者の快適性はHFNO群の方が高く、食事や会話がしやすい
- 有害事象の発生率は両群で同等、安全性に大きな差なし
一部の病態を除き、臨床の現場では、HFNOを積極的に選択肢として考慮することが可能
HFNO vs. NIV
急性呼吸不全の患者に対して、どの酸素療法が最適なのでしょうか?
- HFNOは、酸素供給を行うだけでなく、死腔の減少、加湿、加温などの利点を持ち、COPD患者ではPaCO₂の低下、心不全患者では前負荷の軽減効果が期待されます。
- NIVは呼吸筋の負担軽減において優れていますが、装着時の不快感が問題となることがあります。
- ガイドラインでは、COPD急性増悪や急性心原性肺水腫にはNIVが推奨されていますが、これは主に低流量酸素療法との比較データに基づくものであり、HFNOとの直接比較のエビデンスは不足しています。
- また、低酸素性急性呼吸不全の治療にはHFNOが有効とされていますが、その効果はNIVと比較して不確実性が残る部分もあります。
- それでは、この論文を勉強していきます。
重要性
- HFNOとNIVは、急性呼吸不全(ARF)患者に対する一般的な呼吸補助療法である。
目的
- HFNOがNIVと比較して、5つのARF患者群における7日以内の気管挿管または死亡率に関して非劣性であるかを評価する。
研究デザイン、設定、および参加者
- このランダム化比較試験は、ブラジル国内の33病院において、2019年11月から2023年11月まで実施され、最終フォローアップは2024年4月26日に終了した。
- 対象は18歳以上の入院患者であり、以下の5つのARF患者群に分類された:
- 低酸素血症を有する非免疫抑制患者
- 低酸素血症を有する免疫抑制患者
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)増悪による呼吸性アシドーシス患者
- 急性心原性肺水腫(ACPE)患者
- 低酸素血症を伴うCOVID-19患者(2023年6月26日より追加)
介入
- HFNO群(n=883)とNIV群(n=883)に無作為に割り付けた。
主要アウトカムおよび評価方法
- 主要アウトカムは、7日以内の気管挿管または死亡率であり、ベイズ階層モデルを用いて各患者群間で動的にデータを借用して評価した。
- 非劣性の定義は、オッズ比(OR)が1.55未満であり、後方確率が0.992以上であることとした。
結果
- 合計1,800人の患者が登録され、1,766人が研究を完了した(平均年齢64歳、標準偏差17歳、女性40%)。
- 7日以内の気管挿管または死亡率は、HFNO群で39%(344/883)、NIV群で38%(336/883)であった。
- 免疫抑制患者群(低酸素血症あり): HFNO群 57.1%(16/28)、NIV群 36.4%(8/22)
→ 無益性のため登録中止(OR 1.07, 95% 信頼区間 0.81-1.39, 非劣性後方確率 0.989) - 非免疫抑制患者群(低酸素血症あり): HFNO群 32.5%(81/249)、NIV群 33.1%(78/236)
→ 非劣性達成(OR 1.02, 95% CrI 0.81-1.26, NPP 0.999) - 急性心原性肺水腫患者群: HFNO群 10.3%(14/136)、NIV群 21.3%(29/136)
→ 非劣性達成(OR 0.97, 95% CrI 0.73-1.23, NPP 0.997) - COVID-19低酸素血症患者群: HFNO群 51.3%(223/435)、NIV群 47.0%(210/447)
→ 非劣性達成(OR 1.13, 95% CrI 0.94-1.38, NPP 0.997) - COPD増悪(呼吸性アシドーシス)患者群: HFNO群 28.6%(10/35)、NIV群 26.2%(11/42)
→ 非劣性達成(OR 1.05, 95% CrI 0.79-1.36, NPP 0.992)
- 事後解析では、動的データ借用を行わない解析において、COPD患者、免疫抑制患者、およびACPE患者で結果が異なる傾向が示された。有害事象の発生率はHFNO群9.4%、NIV群9.9%であり、有意な差は認められなかった。
結論および臨床的意義
- NIVと比較し、HFNOは5つのARF患者群のうち4群において、7日以内の気管挿管または死亡率の非劣性基準を満たした。
- ただし、一部の患者群におけるサンプルサイズの小ささや、解析モデルの選択による影響を考慮すると、COPD患者、免疫抑制患者、および急性心原性肺水腫患者に関してはさらなる研究が必要である。
もうすこし具体的に基準を確認
以下に各患者群の定義を示します。
免疫抑制患者は、概ね、膠原病内科や血液内科、がんの化学療法を受けている患者さんですね。
免疫抑制患者の定義:
- 3か月以上の免疫抑制薬または高用量コルチコステロイド(0.5 mg/kg/日超)の使用
- 固形臓器移植後、過去5年以内の化学療法治療歴のある固形腫瘍、または過去5年以内に治療歴のある血液悪性腫瘍
- AIDSまたは原発性免疫不全症の診断
COPD急性増悪による呼吸性アシドーシスの定義:
- COPDの既往または臨床的に強く疑われる
- 呼吸回数25回/分超、副呼吸筋の使用、奇異呼吸、胸腹逆運動
- 動脈血pH < 7.35、PaCO₂ > 45 mmHg
急性心原性肺水腫の定義:
- 突然の呼吸困難と広範なラ音(±Ⅲ音)
- 吸引、感染、肺線維症の病歴なし
- 急性心原性肺水腫が最も可能性の高い診断
- 胸部X線で両側肺胞性浸潤を認め、呼吸数25回/分超、SpO₂ 95%未満
次に介入内容を示します。
HFNO群:
- Fisher & Paykel社のAirvo-2装置を使用
- COPD群:流量30 L/分で開始、最大60 L/分まで漸増
- その他の群:流量45 L/分で開始、最大60 L/分まで漸増
- FIO₂ 50%で開始し、酸素飽和度(COPD群:88-92%、その他の群:92-98%)を維持するよう調整
NIV群:
- フェイスマスクを使用し、主に非侵襲的陽圧換気(NPPV)またはICU用人工呼吸器を用いる
- COPD群:IPAP 12-16 cmH₂O、EPAP 4 cmH₂O
- その他の群:IPAP 12-14 cmH₂O、EPAP 8 cmH₂O
- COPD群はSpO₂ 88-92%、その他の群はSpO₂ 92-98%を維持するようFIO₂を調整
臨床での実践的なポイント
HFNOとNIVの効果・快適性・安全性
- HFNOとNIVの効果は非劣性であり概ね同等。
- HFNO群の方が患者の快適性スコアがNIV群よりも高く、食事や会話がしやすいというメリットがあり。
- 有害事象の発生率はHFNO群(9.4%)とNIV群(9.9%)で差がなく、安全性も同等であることが確認。
この試験結果をもとに、急性呼吸不全に対する酸素療法の選択肢を整理すると以下のようになります。
HFNOを考慮すべき患者
🔹 COPD急性増悪(ただしNIVが必要になった場合は切り替え)
🔹 急性心原性肺水腫(ただし重症患者にはNIVが必要な可能性)
🔹 低酸素性COVID-19
🔹 免疫抑制のない呼吸不全
ポイント:
- 患者の満足度が高い(食事や会話がしやすい)。
- これらの患者群では、HFNOの使用がNIVと同等の効果を持つと考えられ、第一選択として検討できる。
- 特に、急性心原性肺水腫の患者ではHFNOの方がNIVよりも良好な転帰を示す可能性あり。
NIVを推奨すべき患者
🔹 免疫抑制患者(長期のステロイドや免疫抑制剤使用、がん、臓器移植、AIDSなど)
🔹 重症の急性心原性肺水腫患者(すでにNIVが必要な場合)
ポイント: HFNOよりもNIVの方が良好な転帰を示したため、免疫抑制患者にはNIVが適切。
まとめ
- 今回の試験で、HFNOは多くの急性呼吸不全患者に対してNIVと同等の効果を持つことが示されました。
- 特に、非免疫抑制患者、COPD急性増悪、急性心原性肺水腫、低酸素性COVID-19の患者には、第一選択としてHFNOを検討することができる可能性があります。
- しかし、免疫抑制患者やより重症のCOPDや急性心原性肺水腫患者においては、NIVの方が適している可能性があるため、慎重な治療選択が求められます。
- 私だったら、この論文の内容を踏まえ、膠原病内科や血液内科、化学療法中の患者のコンサルトを受けた場合には、HFNOではなくNIVを第一選択として提案する方針をとります。
- 循環器内科から肺水腫のコンサルトを受けた場合には、まずHFNOを第一選択とし、より重症であればNIVへの移行を検討します。ただし、「より重症」の基準が明確でないため、臨床判断に応じて柔軟に対応する必要がありますね。
- COPDについても同様に、HFNOを第一選択としながらも、病態の進行や患者の反応を見極めつつ、NIVへの移行を適切なタイミングで判断することが求められます。
しかし、この試験の内容に少し気になるところがあるので、時間があればまたリライトしたいと思います。