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その他論文紹介

妊娠中の喘息治療薬は本当に安全か?〜ICSとLABAの使用と胎児への影響を検証した大規模研究〜

The Association Between Use of Inhaled Corticosteroids and Long‐Acting Beta2‐Agonists During Pregnancy and Adverse Fetal Outcomes. Wu YC, et al. Respirology. 2025. 

This is an open access article under the terms of the Creative Commons Attribution License, which permits use, distribution and reproduction in any medium,
provided the original work is properly cited.

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はじめに

喘息は妊娠中に最も一般的な呼吸器疾患で、母児ともに影響を及ぼす可能性があります。

これまでの研究でも、妊娠中の喘息は

  • 低出生体重(LBW)、
  • 在胎週数に対して体重が小さい(SGA)、
  • 早産(PTB)、
  • 先天異常

といった不良転帰と関連することが報告されています。

ガイドラインでは、妊婦であっても喘息治療は継続すべきとされており、吸入ステロイド(ICS)を第一選択として、必要に応じてLABA(長時間作用型β2刺激薬)を追加するステップアップ療法が推奨されています。

ただし、ICSやLABAの胎児への安全性に関するヒトでのデータは古かったり、交絡因子の調整が不十分だったりする点が問題でした。

また、アジア圏でのデータが少ないことも不明点の一つでしたね。

この研究は、台湾の全国保健データを使って、

  • ICS+LABA併用の有無
  • ICS使用の有無
  • ICSの用量効果

と胎児の有害転帰との関連を評価したものです。

リアルワールドデータを用いた大規模研究で、非常に臨床応用性の高い内容ですね。

背景

喘息を有する女性は妊娠中も維持治療を継続すべきであるが、吸入ステロイド(ICS)および長時間作用型β2刺激薬(LABA)が胎児に与える影響についての現在のエビデンスは不明確である。

目的

本研究では、妊娠中の

  • ICS使用
  • ICSの用量反応効果
  • LABA使用

と胎児の有害転帰との関連を評価することを目的とした。

方法

本研究は、台湾の保健福祉データベース、出生証明申請データベース、母子健康データベースから得られた住民ベースの後ろ向きコホート研究である(2007年1月1日~2018年12月31日)。

喘息を有する妊婦が対象であり、主要な独立変数は妊娠中のICS使用、ICSの用量反応、およびLABA使用である。

有害な胎児転帰は、低出生体重(LBW)、在胎週数に対して小さい児(SGA)、早産、先天異常と定義された。

交絡因子(社会人口統計、併存症、併用薬、喘息重症度など)を調整するために傾向スコアマッチング(PSM)および治療逆確率重み付け(IPTW)を用いた。ロジスティック回帰により調整オッズ比(aOR)を算出した。

結果

4,538人の喘息合併妊婦が登録された。

交絡因子を調整後、ICS使用およびLABA使用は、いずれの胎児有害転帰とも有意な関連を示さなかった

しかしながら、ICS曝露者のうち、高用量ICS使用は分娩後1年以内に確認される先天異常のリスクと有意に関連していた(aOR: 3.87; 95%CI: 1.29–11.60)。

結語

妊娠中のICSまたはLABAの使用は、胎児の有害転帰のリスクとは関連しなかった。

妊娠中の喘息患者には維持治療の継続と、アレルゲンの回避によって高用量ICSの必要性を減らすことが推奨される。


勉強してみます。

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どういう結果だったの?

研究対象は4,538人の喘息合併妊婦で、以下のような結果が示されました。

● ICS使用 vs 非使用

  • 低出生体重(LBW):aOR 1.12(p=0.48)
  • 在胎週数に対して小さい児(SGA):aOR 1.06(p=0.65)
  • 早産:aOR 1.14(p=0.40)
  • 先天異常:aOR 1.17(p=0.30)

👉 結論:ICSの使用自体はどの転帰とも有意な関連なし

● ICS高用量(>800 μg)vs 低〜中用量(200–800 μg)

  • 先天異常:aOR 3.87(95%CI 1.29–11.60、p=0.02)
  • 他の転帰(LBW, SGA, PTB)は有意差なし

👉 結論:高用量ICSで先天異常リスクが有意に上昇

● ICS+LABA併用 vs ICS単独(PSM後 各457名)

  • 先天異常:aOR 1.22(p=0.78)
  • 他の転帰もすべて非有意

👉 結論:LABA併用はリスク増加なし。感度分析でわずかに有意差出たがCI広く、偶然の可能性もあり

考察|QOL全体への波及を見逃さない

この研究の最も重要な発見は、「ICSまたはLABAの通常使用は胎児への悪影響を増やさない」という点です。これはこれまでのメタアナリシスやRCT(START試験)と一致しています。

ただし、「高用量ICS(>800 μgブデソニド換算)」では、先天異常のリスクが有意に上昇していました。このことから、必要最小限の用量を心がけることが重要であると考えられます。


臨床にどう活かすか?

  • 通常用量のICSやICS+LABAは妊娠中も安心して継続可能
  • コントロール不良な喘息を放置するより、治療継続のほうが母子ともに安全
  • 高用量ICSが必要となる前に
    • アレルゲン回避
    • 吸入指導の徹底
    • 合併症(鼻炎、GERDなど)のコントロール
      を行って、用量を抑える工夫が重要。

💡:妊娠中期でICS中等量でも症状が出る患者にLABAを追加する場合、「胎児へのリスクは明確な増加はない」と説明し、使用継続を促す材料になりますね。

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