外来
外来、53歳女性。
咳、労作時呼吸困難、胸部異常陰影。
指導医「ん~、間質性肺炎か?
B先生、ファーストタッチ頼んだぞ!」
研修医B「は、はいっ!」
── 10分後 ──
研修医B「せ、先生っ!!大変です!
皮膚筋炎かもです!う~ん、MDA5?」
指導医「え~?MDA5?いきなりなんで?」
B「なんかぁ…指にけっこう潰瘍あってぇ、
しもやけにしてはひどすぎんか?
って思ってぇ…。
でぇ…指の腹に血豆っぽいのもあってぇ…
まさか鉄棒でもやったんですか??
って聞いたらぁ…
『いやいや、さすがに53歳で鉄棒はやりませんよ』って言われて、ハッと思い出してぇ…。
そういえば、これ、
去年ローテした膠原病内科の回診で一回見たぞ!
抗MDA5抗体陽性例に特有の
逆ゴットロン徴候じゃね?って気づいてぇ…
抗MDA5抗体陽性の皮膚筋炎は、
急速進行性の間質性肺炎を発症することがあるから、早期診断・早期治療が必要!っていうの思い出してぇ…」
(ドキドキ)
── そして精査後 ──
抗MDA5抗体:陽性‼️
指導医「写輪眼かよ!」
────

解説1
間質性肺疾患(ILD:間質性肺炎とも呼ばれます)を疑った際に重要なのは、その時点での重症度評価と原因の鑑別です(スライド)。

診断の第一歩として、
それが原因不明の特発性間質性肺炎(IIP)なのか、あるいは膠原病、環境因子、薬剤などに関連した二次性ILDなのかを見極める必要があります。
本症例では、B先生が診察時に手指の特徴的な皮膚所見に気づいたことをきっかけに、皮膚筋炎などの膠原病に伴うILDが疑われ、確定診断に向けた精査へと進みました。
炎症性筋疾患とは?
皮膚筋炎(DM)は膠原病の一種であり、炎症性筋疾患(IIM)と総称される疾患群に含まれます。
IIMは主に皮膚や筋肉を病変の主座とし、特徴的な皮疹や筋力低下・筋痛を呈します。
IIMは臨床像により、『筋病変のみを主体とする多発性筋炎(PM)』、『皮膚と筋の両方に病変を有する皮膚筋炎(DM)』、『皮膚病変はあるが明らかな筋症状を欠く無筋症性皮膚筋炎(CADM)』に分類されます(スライド)。

IIMとILDの関係は?
IIMでは皮膚や筋病変だけでなく、ILDを高頻度に合併することが重要な特徴です。
そのため、IIMを診たらILDを疑う、逆にILDを診たらIIMを鑑別に挙げるという関係性があります。
自己抗体と予後への影響は?
自己抗体の存在は非常に重要です。
血液検査で同定される自己抗体によって、IIMに合併するILDの重症度、進行の速さ、生命予後、治療方針が大きく異なります。
ILDと関連する代表的な自己抗体として、抗ARS抗体と抗MDA5抗体があります。
特に抗MDA5抗体陽性例では、
急速進行性ILDを合併することが多く、生命予後不良となりやすいため、早期診断・早期治療が極めて重要です。
解説2
皮膚所見に注目したB先生の視点

今回の症例では、
まだ明らかな筋症状には触れられていませんが、B先生は手指の皮膚所見に注目しました。
通常、DM/CADMでは、
・眼瞼の浮腫性紅斑
→ヘリオトロープ疹
・手指や肘/膝の伸側のがさがさ
→ゴットロン丘疹/徴候
…などがよく知られています。
逆ゴットロンとは?
一方で、一部のDM/CADMでは、手指の伸側(背側)ではなく屈側(指腹側)に、血豆様の皮疹を認めることがあります。
これはゴットロンとは反対側に出現することから、逆ゴットロン徴候と呼ばれます。
この逆ゴットロン徴候は、抗MDA5抗体陽性例に特徴的な皮膚所見のひとつとして知られています。
B先生は、この血豆様の皮疹が「まるで鉄棒をやったあとのよう」に見えたため、思わず患者さんに尋ねてしまいました。
早期発見の意義?
B先生は、昨年ローテーションした膠原病内科で経験した所見を記憶しており、今回の外来診察で患者さんの手を見てそれを想起し、指導医に報告しました。
抗MDA5抗体陽性例では、逆ゴットロン徴候以外にも、重度のしもやけ様皮疹や皮膚潰瘍を伴うことがあります。
また、早期には筋症状が目立たず、皮膚症状が主体のCADMとして発症することも少なくありません。
そのため診断が遅れると、気づいた時にはILDが進行し、生命予後に大きな影響を及ぼすことがあります。
このような背景を踏まえると、皮膚所見から抗MDA5抗体陽性例を疑い、早期診断につなげたB先生の着眼点は非常に見事だったと言えるでしょう。
まさに一度見ただけで覚えている臨床眼。
写輪眼の開眼、あるいは黄金聖闘士クラスです。
本症例は、若手医療者に「手指を中心とした身体所見」「いくつかの診療科のローテーション」の重要性を伝えることを目的としております。
また、今回のエピソードも過去の実例を基に再現したものです。掲載している画像は、下記より引用しています。「膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針2025」


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