肺癌論文紹介

がん診断後に実施された早期介入型禁煙治療の生存率への影響(Cinciripini PM, et al. JAMA Oncol. 2024)

Survival Outcomes of an Early Intervention Smoking Cessation Treatment After a Cancer Diagnosis. JAMA Oncol. 2024 Dec 1;10(12):1689-1696.

がんと診断された患者さんへの禁煙のメリットの論文です。
ちなみに、がん全般の話でして・・・、肺がんに特化した論文ではございませんのでご注意を・・・・

禁煙が生存率にどう影響するのか?

2014年の報告では、「がん診断後も喫煙を続けると、全死亡率が中央値で50%、がん関連死亡率が61%増加する」とされています。1
これはかなり大きな数字で、喫煙ががんの予後を著しく悪化させる可能性を示しています。
また、喫煙はがん治療そのものの効果も減弱させることがあるため、治療の観点からも喫煙をやめることは重要と考えられております。2 3

最近のメタ解析によれば、肺がんや頭頸部がんの患者さんにおいて禁煙が生存率を大きく向上させる可能性が明らかになっています。
禁煙することで治療がより効果的に働き、再発や二次がんのリスクも下げられる可能性があるとのことです。4 5

過去の研究の限界

しかし、それらの研究には以下のような課題が指摘されていました:

  1. 禁煙データの一貫性の欠如
    禁煙状態の記録が不十分だったり、一時的なデータに基づいていたりしました。そのため、禁煙の持続性やその影響を正確に評価することが困難だった。
  2. 前向きデータの不足
    多くの研究が後ろ向きデザインに基づいており、正確なタイミングや禁煙開始の影響を評価することが難しかった。
  3. 診断から禁煙治療までのタイミングの不明確さ
    診断後、どのタイミングで禁煙治療を開始することが最も効果的なのかについてはほとんど検討されていなかった。

過去の研究の限界に対処したうえで、禁煙がどれほどがん患者さんの生存率に影響を与えるのか」ということを研究した論文が最近でましたので、勉強してみました。それでは!

重要性

がん診断後の喫煙は、死亡率を高め、第2のがんのリスクを増加させる。

目的

がん診断後に禁煙介入を開始した時期と生存率の関連性を明らかにすること。

デザイン、設定、および参加者 

  • 前向きコホート研究デザインを用い、喫煙しているがん患者で禁煙治療を受けた者を対象に、禁煙治療開始後3カ月、6カ月、9カ月時点で評価を行った。
  • MDアンダーソンがんセンターのタバコ研究・治療プログラムに参加した患者の生存率を測定し、比較した。
  • 治療は2006年1月1日から2022年3月3日までの間に実施された。
  • 禁煙治療が終了する前に死亡した患者、禁煙治療開始後6カ月を超えて診断を受けた患者、または病期の情報がない患者は除外された。
  • データ解析は2023年9月から2024年5月に行われた。

介入

  • 禁煙治療は、6~8回の個別カウンセリングと10~12週間の薬物療法で構成された。
  • 治療セッションの95%以上は遠隔医療で実施された。

主な成果と指標

  • 主な成果は、MDアンダーソンがんセンター腫瘍登録簿に記録された生存率と、各フォローアップ時の7日間の時点有病率禁煙状態であった。

結果

  • がん診断を受け禁煙治療を受けた現在喫煙中の患者4526人(女性2254人[49.8%]、中央値[四分位範囲]年齢55歳[47-62歳])で構成された。
  • 15年間の生存率は、以下の時点で禁煙した場合に増加した。
    • 禁煙治療開始後3カ月(調整ハザード比[aHR] 0.75[95% CI, 0.67-0.83])
    • 禁煙治療開始後6カ月(aHR 0.79[95% CI, 0.71-0.88])
    • 禁煙治療開始後9カ月(aHR 0.85[95% CI, 0.76-0.95])
  • 最適な生存率は、がん診断後6カ月以内に禁煙治療を受けた患者で確認された。このグループでは、生存期間は非禁煙者の中央値2.1年(95% CI, 1.8-2.4年)から禁煙者の3.9年(95% CI, 3.2-4.6年)に増加した。
  • 診断後6カ月から5年以内に禁煙治療を開始した場合でも、類似するがやや効果が低い結果が得られた。
  • 非禁煙者の中央値生存期間は4.8年(95% CI, 4.3-5.3年)であったのに対し、禁煙者では6.0年(95% CI, 5.1-7.2年)であった。

結論と意義

この前向きコホート研究の結果は、がん診断後6カ月以内にエビデンスに基づいた禁煙治療を受けることで、生存率の最大の利益が得られることを示唆している。

この研究は、がん診断後の早期臨床介入としての禁煙治療の重要性を支持している。

この研究は、過去の研究で指摘されていた以下の限界を克服しているようです。

  • 後ろ向きデータや喫煙状況の不確実性
  • 診断後の禁煙開始時期が考慮されていないこと

特に、診断直後から禁煙治療を行うことで、がん治療の効果を最大化し、患者さんの生存期間を延ばせることが示されています。
禁煙治療をがん治療の標準的な一環として組み込むべきというメッセージが強調されていますね。

一方で、この研究には以下のような限界もあるようですね・・・

  • 非がん疾患との相互作用についてのデータ不足
  • 喫煙関連がん以外の患者さんが十分に代表されていない可能性

私の感想です。

  • このような大規模な研究で、がん患者さんの禁煙時期が早いほど生存の恩恵を得るという結果が得られたことにとても驚きました。
  • 私も日常診療では、喫煙しているがん患者さんを診断したときには(というか通院している患者さんすべてに・・・)、禁煙するように指導していますが、今回の研究の結果を伝えて早期に禁煙できるように促したいと思います。
  • また、がんの診断後にクリニカルパスのように禁煙プログラムをルーティン化することで、より多くの患者さんに利益をもたらせるのではないかと考えています。
  1. National Center for Chronic Disease Prevention and Health Promotion (US) Office on Smoking and Health.  The Health Consequences of Smoking—50 Years of Progress: A Report of the Surgeon General. Centers for Disease Control and Prevention; 2014. ↩︎
  2. Warren  GW, Cartmell  KB, Garrett-Mayer  E, Salloum  RG, Cummings  KM.  Attributable failure of first-line cancer treatment and incremental costs associated with smoking by patients with cancer.   JAMA Netw Open. 2019;2(4):e191703. ↩︎
  3. US Department of Health and Human Services. Smoking cessation: a report of the Surgeon General. 2020. Accessed March 22, 2022. ↩︎
  4. Caini  S, Del Riccio  M, Vettori  V,  et al.  Quitting smoking at or around diagnosis improves the overall survival of lung cancer patients: a systematic review and meta-analysis.   J Thorac Oncol. 2022;17(5):623-636. ↩︎
  5. Caini  S, Del Riccio  M, Vettori  V,  et al.  Post-diagnosis smoking cessation and survival of patients with head and neck cancer: a systematic review and meta-analysis.   Br J Cancer. 2022;127(11):1907-1915. ↩︎
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