A Pragmatic Trial of Glucocorticoids for Community-Acquired Pneumonia. Ruth K. Lucinde et al. The New England Journal of Medicine, 2025.
今回は上記の論文から引用します。
はじめに

市中肺炎(CAP)は世界中で依然として主要な死因の一つです。
特にサブサハラ・アフリカのような低リソース環境では、高所得国に比べて3〜5倍の死亡率が報告されており、若年患者が多いにも関わらず深刻な転帰が多いのが現状です。

グルココルチコイドはその免疫調整作用により、CAP治療への補助的使用が注目されてきました
近年の研究ではICUレベルの重症CAPで有効性が示されていますが、低リソース環境での実臨床での有効性や安全性は不明でした。
本試験は、診断・重症度評価が限られる現場で、一般病棟入院CAPに対して低用量グルココルチコイドの有効性と安全性を検証した点が大きな特徴です。
背景
先進国において重症市中肺炎(CAP)患者に対する補助的グルココルチコイド療法は、死亡率の低下に寄与する可能性がある。
しかし、診断・治療設備が限られる低リソース環境において同様の利益が得られるかは明らかではない。
方法
ケニア国内18の公立病院で、実用的なオープンラベルのランダム化比較試験を実施した。
CAPと診断され、グルココルチコイドの明確な適応がない成人患者を、
- 標準治療群と
- 低用量経口グルココルチコイド10日間投与+標準治療群
に割り付けた。
主要評価項目は登録後30日以内の全死亡率とした。
結果
合計2180名がランダム化され、グルココルチコイド群1089名、標準治療群1091名であった。
中央値年齢は53歳、女性は46%。
30日後の死亡は530名(24.3%)であり、
- グルココルチコイド群では246名(22.6%)、
- 標準治療群では284名(26.0%)
であった(ハザード比 0.84、95%CI 0.73–0.97、P = 0.02)。
有害事象および重篤な有害事象の頻度は両群で同程度であり、グルココルチコイドに関連した重篤な有害事象は5例(0.5%)のみであった。
結語
CAP患者において、補助的なグルココルチコイド投与は標準治療単独に比べて死亡リスクを低下させた。

勉強してみます。
組み入れ基準・除外基準は?
組み入れ基準
- 年齢:18歳以上
- 市中肺炎と診断(以下の2項目以上):
- 咳嗽、発熱、呼吸困難、喀血、胸痛、ラ音
- 発症から14日以内
- 入院48時間以内
除外基準
- 妊娠・授乳中
- ステロイドが適応の疾患あり(例:喘息、COVID-19)
- ステロイド禁忌
- 院内肺炎
- 同意が得られなかった場合
💡 注目ポイント:
- P/F比、PSI、CURB-65などの重症度スコアは使われていません!
- 理由は、画像検査や血液検査ができない病院が大半だったためです。
- まさに「リアルな現場」向けの設計ですね。
結果のまとめ
主要アウトカム:30日死亡率
| グループ | 死亡率(%) | ハザード比(HR) |
|---|---|---|
| ステロイド群 | 22.6% | HR 0.84(95%CI: 0.73–0.97, p=0.02) |
| 標準治療群 | 26.0% | ― |
➡ 有意に死亡率が低下
副次アウトカム
- 入院中死亡: 18.0%(ステロイド群) vs 20.4%(標準群)
- 退院後死亡: 4.6% vs 5.6%
- 副作用:
- 全体の16.9%に有害事象
- 肺結核、高血糖が多かったが、重篤な副作用は0.5%のみ
サブグループ解析の見どころ
どの患者により効果がありそうか?
- 女性で効果が高め(HR 0.75)
- HIV陽性者でも死亡率減少(HR 0.75)
- SpO₂<90%(低酸素群)で有効(HR 0.77)
🌟 HIV感染や低酸素症例でも効果がありそうなのは、現場的にとても実用的ですね。
著者らの強調点
- 実用的な試験設計: ICUなし、画像なしでも可能な「現場ベースの介入」
- 重症度スコア不要で選定可能な治療
- ステロイドは低コストかつ経口投与可 → 地域実装しやすい
- 限界点:
- 診断の不確実性(結核やPCP混入の可能性)
- ステロイドの種類ごとの差は評価されていない
- グルココルチコイド開始時刻が不明
臨床的にどう使える?
「ステロイドをむやみに使うのは危ないのでは?」
「中等症の肺炎にステロイドって必要?」
という疑問は、当然の感覚ですし、実際に本研究でも非重症例にまで一律に勧めるものではないことに注意が必要です。
- 本研究はあくまで「ベースラインの重症度評価が困難な状況でも、ステロイドで救命できる可能性がある」という補強的エビデンスと位置付けるのが適切だと個人的には思います。
- 日本では、画像検査や血液検査が使えるので、病原体・重症度の精査が可能です。
→ よって、「すでに重症」または「重症化しそうな患者」に絞って投与するかどうかを検討することが望ましいですね。一律投与は個人的には考えていません。 - 今までの研究で示唆されていた「重症CAPにおけるステロイド有効性」を、一部、本研究がリアルワールドで再確認したと捉えています。
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