競合イベント(Competing Events)は、研究で関心のあるイベントが発生する前に、他のイベント(競合イベント)が発生することで、興味あるイベントが発生不可能になる状況を指します。
例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の急性増悪に関心がある場合、患者が急性増悪を経験する前に死亡した場合、その患者では急性増悪の発生を評価できなくなります。これが競合イベントの典型的な例です。
なぜ競合イベントを考慮する必要があるのか?
競合イベントを考慮しないと、興味あるイベントの発生確率が過大評価される可能性があります。たとえば、死亡を無視した解析では、「全員が生存している」と仮定するため、実際の臨床現場で観察される確率とかけ離れた結果になります。
具体例と競合イベントになる理由
COPD患者の急性増悪の累積発症率
- 興味あるイベント: 急性増悪の発生
- 競合イベント: 死亡
- 理由: 死亡した患者は急性増悪を経験することができないため、興味あるイベントが発生不可能になる。
IPF患者の肺癌発生の累積発症率
- 興味あるイベント: 肺癌の発生
- 競合イベント: 死亡
- 理由: 死亡すると肺癌の発生を確認する機会が失われるため。
肺癌患者の化学療法中の新たな転移巣発生
- 興味あるイベント: 新たな転移巣の発生
- 競合イベント: 死亡
- 理由: 死亡すると新たな転移巣が発生するかどうかを追跡できなくなるため。
肺癌患者の一次化学療法における新たな転移巣発生
- 興味あるイベント: 新たな転移巣の発生
- 競合イベント: 死亡や、二次治療への移行
- 理由: 死亡すると新たな転移巣が発生するかどうかを追跡できなくなるため。また、二次治療に移行すると、その結果が一次治療の影響かどうかがわからなくなるため
臨床研究の場合だと、死亡リスクが高い疾患(IPFや肺癌など)における、死亡以外のイベント(急性増悪、疾患の進行、有害事象の発生など)を興味あるイベントとした場合に、死亡イベントが競合イベントになることが多いです。しかし、死亡リスクが低い疾患では、そうとは限りません。
競合イベントへの対応方法
累積発生率:Gray法を使う
特徴: 競合イベントを考慮して興味あるイベントの累積発生率を計算。
統計手法:
- Gray法を使用して累積発生率の差を検定。
- カプランマイヤー法やログランク検定との違い:
- カプランマイヤー法は競合イベントを無視するため、累積発生率が過大評価される可能性がある。
- Gray法は競合イベントを適切に考慮して、より現実的な解析が可能。
Fine-Grayモデルを使う
特徴: Fine-Grayモデル<詳しい説明はこちら>は、競合イベントを考慮しながら、興味あるイベントのリスク因子の影響を解析するモデルです。Cox比例ハザードモデル<詳しい説明はこちら>のかわりに使います。
統計手法:
- Fine-Grayモデルは「サブハザード比」を計算し、競合イベントを考慮した解析を行う。
- Cox比例ハザードモデルとの違い:
- Coxモデルは競合イベントを単なる「打ち切り」として扱うため、競合イベントを無視する。
- Fine-Grayモデルは競合イベントを考慮するため、より現実的なリスク評価が可能。
複合アウトカムとして扱う
手法: 新しい転移巣または死亡を複合アウトカムとして解析。
特徴:
- 競合イベントを「別の興味あるイベント」として組み込み、競合イベントの影響を回避。
- 注意点: この方法では解析結果が「新しい転移巣または死亡のいずれかが発生するリスク」を示すため、「新しい転移巣発生のみ」のリスクとは解釈が異なる。
その他の方法
感度分析: 複数のシナリオ(例: 競合イベントを無視した場合、考慮した場合)を比較。
遷移確率モデル: 個別のイベント間の遷移を解析。
まとめ
競合イベントの定義: 興味あるイベントが発生不可能になる状況。
重要性: 競合イベントを考慮しないと誤った結論に至る可能性がある。
対応方法:
複合アウトカムで競合イベントを回避する方法も有効。
Gray法やFine-Grayモデルで競合イベントを考慮。
競合イベントを考慮することで、解析結果が現実に即した信頼性の高いものとなります。
統計初心者の方も、研究設計の段階から競合イベントの存在を意識し、適切な手法を選ぶことを心がけましょう。
競合イベントを適切に扱うことで、研究の信頼性と実用性が大きく向上します。
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