膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針2025 日本呼吸器学会・日本リウマチ学会合同 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針2025 作成委員会
今回は、間質性肺疾患(ILD)に遭遇した際の診断アプローチについて、特に膠原病に焦点を当てて解説します。
以下、まずは、過去の記事の復習になります。
※詳細は、過去の記事「間質性肺疾患(ILD)の診断の流れ」参照
まず最初に確認すべきこと!
🔴 患者さんが「急性の呼吸不全」や「急速進行性の病態」ではないかを評価
→ これらのケースでは迅速な精査と治療が必要です!
急性増悪の可能性も考慮し、低酸素血症や短期間での呼吸状態や画像の悪化傾向があれば入院での精査加療が望ましいです。
原因検索!二次性か、特発性か?
次に重要なのは、「このILDに明らかな原因があるか?」 という点です。
✅ 原因がある場合(=二次性ILD)
→ 薬剤性、膠原病関連、過敏性肺炎(HP)、放射線性肺臓炎、血管炎などを考える。
✅ 原因がない場合(=特発性間質性肺炎:IIP)
→ 胸部HRCTや病理検査に基づいてさらに詳細な分類を行う。
ここで重要なのは、問診・身体診察・血清学的検査をしっかり行い、原因検索を徹底すること

主な鑑別疾患:日常診療でよく遭遇するもの
詳細は図のリストを参照してください。以下に遭遇しやすい疾患を列挙します。

診断の流れ:IPFの診断アルゴリズムを応用!
特に、呼吸器外症状や膠原病関連自己抗体の評価 を行い、二次性ILDの可能性を精査することが重要。

呼吸器外症状の評価 では、以下の専門科へのコンサルトが不可欠です。
- 膠原病内科(膠原病・血管炎の全般)
- 皮膚科(皮膚筋炎、強皮症、血管炎、サルコイドーシス などを考慮した場合)
- 耳鼻科(顕微鏡的多発血管炎 などを考慮した場合)
- 眼科(サルコイドーシス などを考慮した場合)
もし膠原病内科がない場合は、皮膚科の先生に相談するのも有用 です。その際、診てもらいたいポイントをリスト化しておき、紹介状作成時に活用するとスムーズ でしょう。
また、膠原病・血管炎関連の特異的抗体や鳥関連抗体の評価 も、症状や病歴に応じて検討が必要です。
💡 電子カルテに検査セットを事前に登録しておくと、オーダーが効率的に進められます。
じゃあ、膠原病を考える所見とは?
第一歩は、呼吸器領域以外の身体所見の「目利き」から始まります。
関節痛や皮疹、手指の変化などは、疾患のヒントを秘めています。
膠原病全般でみられる主な身体所見
発熱や倦怠感、疲労感、体重減少、リンパ節腫脹なども見られますが、これらは膠原病以外でも見られるような非特異的所見なので、まずは以下の所見を参考にするとよいでしょう。
◆ 関節痛・関節炎
- 多くの膠原病で認める共通の症状
関節リウマチ(RA)、シェーグレン(SjS)、多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)、全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性硬化症(SSc)、顕微鏡的多発血管炎(MPA)などなど - 基本的だが、重要な症状なので、しっかり確認しましょう。
◆ 手指のこわばり・腫脹
- 朝のこわばりはRAや全身性硬化症(SSc)・混合性結合組織病(MCTD)で代表的
- 指がパンパンに腫れている「ソーセージ様変形」はMCTDなどでみられる
◆ レイノー現象
- 寒冷・ストレスで指が白→紫→赤と変化
- SScやMCTD、SLE、PM/DM(抗ARS抗体陽性例など)、SjSでみられる。
- 特にSScやMCTDに高頻度。
- 日中の診察室ではお目にかかれないことがあるので、
スマートフォンなどを利用して患者さんに写真や動画を撮ってもらうとよい。
◆ 爪郭毛細血管異常
- 眼で見て分かる毛細血管の拡張・出血・消失
- 特にSSc、MCTD、PM/DMで診断のヒントに
◆ 爪周囲紅斑
- 爪の周りの発赤(炎症性・末梢循環不全)
- 皮膚筋炎、多発性筋炎、SLEなどでしばしば観察される
ここまで見てきたように、
まず「手(爪)」と「関節」をしっかり診ることが、基本と言えるでしょう。
各疾患の特徴
● 関節リウマチ(RA)
主に関節症状をみるとよいでしょう。
- 対称性の関節炎(特に手関節・PIP・MCP)→関節の変形、腫脹、疼痛
- 朝のこわばり(1時間以上)
- リウマトイド結節(皮下結節):肘の伸側前腕部に多い。
● シェーグレン症候群(SjS)
主に乾燥症状をみるとよいでしょう。
- 口腔乾燥、眼乾燥が主症状、つまり、ドライマウス・ドライアイ
- 女性では膣の乾燥(性交痛など。ちょっと問診では聞きにくいですけども・・・)
- 関節痛
- 多彩な皮疹(環状紅斑、凍瘡状紅斑、じんましん様の血管炎、結節性紅斑、多形紅斑、網状皮斑)
● 多発性筋炎(PM) / 皮膚筋炎(DM)
皮膚所見と筋症状に注意してみるとよいしょう。
筋症状:
- 近位筋優位の筋力低下(上腕・大腿など)
→ひどいと階段が昇れない、スクワットできない、重いものを持ち上げられなくなった・・・など
→MMTで評価してみよう。 - 筋痛
皮疹系:
- ヘリオトロープ疹:上眼瞼(まぶた)の浮腫性紅斑。赤褐~紫紅色。
- ゴットロン(Gottron)徴候:手指関節背側、肘、膝など関節伸側にみられる落屑を伴う角化性紅斑。
ガサガサした感じのもの。 - ゴットロン(Gottron)丘疹:上記の中で、手指関節背側の丘疹のこと。
- 逆ゴットロン徴候:鉄棒をやったときにできるマメができるような皮疹のこと。
(鉄棒まめ様皮疹ともいう。抗MDA5抗体陽性例に多い。) - 機械工の手(Mechanic’s hand):母指の尺側や示指の橈側にできるガサガサな角化性紅斑。
(抗ARS抗体陽性例に多い。) - ショール徴候:首・項部から肩のショールがかかる領域の紅斑
- V徴候:前胸部のシャツのVネックのところにできる紅斑
- 皮膚潰瘍:抗MDA5抗体陽性例に多い
- 爪郭毛細血管異常、爪周囲紅斑にも注目
<重要>皮疹はケブネル現象によって生じるため、
日光にさらされやすい露光部位や、関節の伸展刺激が加わる伸側、さらには機械的刺激を受けやすい部位に多い。
皮疹は多彩なので、電子カルテ上でリスト化しておくとよいです。
● 全身性エリテマトーデス(SLE)
主に、皮膚・粘膜所見を見るとよいでしょう。
- 典型的な蝶形紅斑・光線過敏
- 脱毛
- 口腔内潰瘍など
- 多彩な皮疹
- レイノー
- 関節炎
● 全身性硬化症(SSc)
主に、皮膚所見からみるとよいでしょう。
- 皮膚硬化(顔面・手指・前腕・体幹)
→指の皮膚をつまんでみよう。つまめなければ皮膚硬化ありかも。 - 爪郭毛細血管所見
- 手指腫脹
- 指尖部の陥凹性瘢痕・潰瘍
- レイノー現象
● 混合性結合組織病(MCTD)
- RA・SLE・SScの合併症様な所見が特徴
- レイノー現象、手指の腫脹、毛細血管所見など多彩
つぎはどんな自己抗体を検査したらよい?
✅ 膠原病や自己免疫疾患の診断に役立つ反面、陽性=病気とは限らない
✅ 健常者でも陽性になることがあり、あくまで“症状や所見ありき”で使うべき
なので、むやみに検査せず、「疑わしい所見があるときに、必要なものを選んで測る」ことが基本です。
例外もある!ILDから始まる“膠原病”に注意
ただし例外があります。それが、“ILD先行型の膠原病や血管炎”です。
これらは、関節痛も皮疹もレイノー現象もないのに、肺病変から始まるタイプ。
診断のヒントは、自己抗体が先に陽性になること。
特に次のような抗体が、初発のILDで見つかることがあります:
- 抗CCP抗体(関節症状が出る前のRA関連)
- 抗ARS抗体(筋炎関連ILD)
- MPO-ANCA(血管炎性ILD)
このような背景から、呼吸器内科では、症状の有無にかかわらず、ILDを見たら広めに自己抗体を測定するというスタイルも一般的です。
特に、臨床背景が若年~中年・女性の場合、さらに画像パターンがNSIP、OP、NSIP+OPの場合には膠原病背景がちらつきますね。
ただし、
- 保険適用(レセプト)の制約
- 検査コストの増加
などの現実的な制限もあるため、アカデミックセンターや研究施設、症例数の多い病院で主に実践される傾向があります。
「ANA(抗核抗体)」
最初に測る自己抗体といえば、やはりANA。
これは自己免疫疾患のスクリーニングとして広く使われています。
- SLEでは95%以上が陽性という高い感度
- しかし、特異度は低く、健常者でも1割前後で陽性になることも
なので、ANAが陽性でも過信は禁物です!
👉 ポイントは「パターン」と「抗体価」
たとえば:
- homogeneous(均一型) → SLEや薬剤誘発性
- speckled(斑点型) → SLE、MCTD、SjS など
- Cytoplasmic(細胞質)→抗ARS抗体 PM/DM
※厳密にいうて核ではないので、抗核抗体陰性として扱われることもある。 - Nucleorar →Th/To抗体など強皮症
- Discrete →セントロメア抗体など強皮症
これらの結果や症状・所見に合わせて絞っていきます。
なお、ANCAなど、ANAに分類されない自己抗体もあるので、ANA陰性でも自己免疫性疾患を否定することはできません。
では、ILDを見たとき、どの抗体を測る?
ここからが本題です。
臨床症状や身体所見に基づいて、あるいは「ILDから自己免疫疾患を拾い上げたい」という目的で、測定すべき自己抗体を検討していきます。
以下に、ILDを引き起こしうる膠原病・血管炎に関連した代表的な自己抗体を示します。
中には保険適用外のものや、ILDとの関連性が低い抗体も含まれていますが、私は実臨床で特に重要と考える項目を太字で強調しています。
診療スタイルや施設の方針に応じて、適切に選択・活用してください。
疾患 | 自己抗体名 | 保険適用 | 抗核抗体のパターン |
---|---|---|---|
SLE | LE因子 | Homo | |
抗dsDNA抗体 | ○ | Homo | |
抗Sm抗体 | ○ | Speckled | |
抗リボソームP抗体 | Cytoplasmic または (-) | ||
抗PCNA抗体 | Multi pattern *1 | ||
SSc | 抗Scl-70抗体 | ○ | Homo, Speckled |
抗セントロメア抗体 | ○ | discrete Speckled | |
抗RNAポリメラーゼⅢ抗体 | 〇 | Speckled, ときに Nucleolar | |
抗U3RNP抗体 | Nucleolar | ||
抗Th/To抗体 | Nucleolar | ||
PM/DM | 抗ARS抗体 | ○ | Cytoplasmic |
Jo-1 | ○*3 | ||
PL-7 | ○*3 | ||
PL-12 | ○*3 | ||
EJ | ○*3 | ||
OJ | *4 | ||
KS | ○*3 | ||
抗MDA5抗体 | ○ | Cytoplasmic | |
抗TIF1-γ抗体 | ○ | Speckled, ときに陰性 | |
抗Mi-2抗体 | ○ | Homo, Speckled | |
抗NXP2抗体 | ○ | Speckled *2 | |
抗SAE抗体 | Speckled, nuclear dots | ||
抗SRP抗体 | Cytoplasmic | ||
抗HMGCR抗体 | |||
抗Ro-52抗体 | Homo, Speckled, cytoplasmic | ||
MCTD | 抗U1RNP抗体 | ○ | Speckled |
抗SMN抗体 | nuclear dots pattern | ||
抗U2RNP抗体 | Speckled | ||
抗Ku抗体 | Speckled | ||
抗PM-Scl抗体 | Nucleolar | ||
SjS | 抗SS-A/Ro抗体 | ○ | Speckled, cytoplasmic |
抗SS-B/La抗体 | ○ | Speckled | |
RA | RF(リウマトイド因子) | ○ | (-) |
ACPA(抗CCP抗体) | ○ | (-) | |
血管炎症候群 | MPO-ANCA | ○ | |
PR3-ANCA | ○ |
※備考
*1:複数のパターンを示す場合あり
*2:一部でSpeckled、または陰性の場合あり
*3:抗ARS抗体群の一部として扱われる(Jo-1、PL-7、PL-12、EJ、OJなど)
*4:OJは、MBL社の抗ARS抗体の測定項目に含まれていない。
まとめ:まず「肺外症状」と「自己抗体」をチェックしよう!
まず「手」と「顔」を中心に、次に「四肢関節や皮膚」へと広げてチェックし、
必要な自己抗体を選択していく流れが実践的。
Step 1:まずは「手」を診る
- 関節の腫脹・変形
- ソーセージ様腫脹
- レイノー現象(
- ゴットロン徴候・逆ゴットロン徴候
- メカニクスハンド
- 爪周囲紅斑、毛細血管拡張
- 指の皮膚をつまんでみて硬さを確認(皮膚硬化)
- 指先の潰瘍や瘢痕の有無も確認
Step 2:顔や粘膜の症状も見逃さずに
- ヘリオトロープ疹(まぶたの紫紅色)
- 蝶形紅斑や日光過敏性の皮疹
- 顔や前額部の皮膚硬化、色素沈着
- ドライアイ/ドライマウスの問診も重要(SjSの示唆)
Step 3:四肢の関節・皮膚のチェックも忘れずに
- 肘・膝・足関節などに変形、腫脹、圧痛
- 関節の伸側(肘・膝など)にゴットロン徴候がないか
- 上腕や下腿の皮膚硬化、色素変化、皮疹がないか
- 筋力低下や筋肉痛があれば皮膚筋炎や多発性筋炎も念頭に
Step 4:自己抗体を測定して診断のヒントに
- ANAを入り口に、症状・所見に応じて自己抗体を選択
- 特にILDと関連が深い抗体(抗CCP、抗ARS、MPO-ANCAなど)に注目
- 若年~中年女性、ILDのパターンが典型的な場合は積極的に検討
- 症状がなくても、ILD先行型の可能性を念頭に置く
- 陰性でも膠原病を完全に否定できるわけではないので、臨床症状との総合判断が大切
最後:専門家にコンサルト!
- 疑いがあれば、膠原病内科、皮膚科、眼科などにコンサルトします。
- その際に、あらかじめ、診てもらいたい所見や関連疾患のチェックリストを作成しておきましょう。
- それをもとにした診察依頼書のテンプレート(ひな形)を電子カルテに登録しておくと、必要時にすぐ使えて便利です。

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