日常診療で胸部CTを読んでいると、「肺嚢胞」という所見にしばしば出会いますよね。そのたびに、
「これ、フォローすべき? それとも経過観察でいいのかな?」
「壁が少し厚くなってるけど、がんのリスクってあるの?」
「粒状影や小結節が見えるけど、どこまで気にすべき?」
……と悩むこと、あると思います。
Risk of Malignancy in Cystic Lung Lesions in a Lung Cancer CT Screening Program. Suzanne C Byrne, et al. Radiology, 2025.
はじめに

実臨床で胸部CTを読影していると、嚢胞性の所見を目にする機会は少なくありません。
単純な嚢胞にとどまらず、時にその周囲に軽度の壁肥厚を伴ったり、小さな粒状影や結節、あるいは気管支拡張が見られることもあり、どのようにフォローアップすべきか判断に迷うケースもあると思います。

実はこういった嚢胞性肺病変の評価やフォローアップには、明確なガイドラインがなく、経験則に頼らざるを得ないことも多いのが現状です。
そんな中、今回紹介するのは、嚢胞性肺病変と肺がんとの関連性を明らかにした大規模な研究です。
「どんな嚢胞がリスクが高いのか」「安心して経過観察できるのはどのタイプか」といった疑問に、具体的なエビデンスをもって答えてくれる内容となっています。
背景
嚢胞性肺病変の悪性化リスクおよびその自然経過に関しては、現在明確なコンセンサスが得られていない。
目的
肺がんスクリーニングプログラムにおいて、嚢胞性肺病変の悪性化リスクと関連する画像所見の特徴を評価することを目的とした。
方法
本後ろ向き研究では、2015年1月から2023年7月までに大規模な医療ネットワークで実施されたすべてのCT肺がんスクリーニング検査を対象とした。
放射線レポートから嚢胞性病変を抽出し、初回のCT画像を確認して病変の形態的特徴および大きさを記録した。
全てのフォローアップCT画像について病変の変化を評価し、病変の増大やがん診断までのリスクをKaplan-Meier曲線を用いて解析した。
結果
15,762人の患者のうち、235人に嚢胞性肺病変が確認され、そのうち33人(14%)が嚢胞性病変から発生した肺がんと診断された。
がんのリスク増加は、結節性の壁肥厚(オッズ比 [OR]:11、P = 0.002)、実質性結節の存在(OR:5.3、P < 0.001)、およびすりガラス成分との併存(OR:24、P < 0.001)と関連していた。
一方、多房性(multilocularity)はがんリスクと関連がなかった(OR:1.7、P > 0.2)。
壁肥厚を伴わない単房性嚢胞病変(n = 46)では悪性例はなかった。
病変の増大または複雑化は悪性化リスクの上昇と有意に関連していた(P < 0.001)。
病変の増大までの中央値は636日、がん診断までの中央値は482日であり、がんと診断された28例(85%)はステージ0またはIであった。
結語
結節性の壁肥厚を伴う嚢胞性肺病変は悪性化リスクが高い。
一方、壁肥厚を伴わない単房性病変には実質的に悪性リスクがない。
悪性の嚢胞性肺病変の多くは進行が緩やかで、ゆっくりと成長し、早期(ステージ0またはI)に診断される傾向がある。

勉強してみます!
どんな嚢胞が“がんになりやすい”のか?
今回の研究では、約1万5千人の肺がんCT検診データを調べて、235人に嚢胞性病変があることが分かりました。そのうちの33人(約14%)が肺癌と診断されています。
では、どんな特徴があると「要注意」なのでしょうか?
🟡 要注意の嚢胞はコレ!
- 結節性の壁肥厚
- 実質性結節
- “すりガラス影”も混じっている
こういった特徴があると、がんの可能性がかなり高まることが分かりました。
たとえば、すりガラス影+実質性結節があると、がんのオッズ比24倍!
つまり、かなり要注意です。
逆に“ほぼ大丈夫”な嚢胞って?
- 壁肥厚のない単房性
このパターンでは、なんとがんに進行した例はゼロ。
つまり「見つかったけど心配ないタイプ」です。頻繁なCTフォローも不要かもしれません。
進行の速度は?
この研究でがんと診断された人たちも、ほとんどが早期発見(ステージ0やI)で、進行はかなりゆっくりでした。
- がんの診断まで平均482日(約1年4ヶ月)
つまり、「危ない嚢胞」でも急激に進行するわけではないので、経過観察をしていれば早期の対応が可能だと思います。
実臨床でどう活かす?
- 読影レポートに「嚢胞あり」と書かれていたら、まず形と中身をチェック!
- 単房?壁は厚い?結節はある?
- 高リスク所見があれば、CTフォロー

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