Dental health and lung cancer risk in the Golestan Cohort Study. Yano Y, et al. BMC Cancer. 2024 Jan 13;24(1):74.
- 若干ニッチな話です。
- 口腔衛生の不良が、がんを含むさまざまな疾患と関連しているという研究が数多く発表されています。特に、歯周病や歯の欠損が糖尿病や心血管疾患だけでなく、がん、特に肺がんとも関連している可能性が示唆されているのをご存知でしょうか?1 2 3 4
- 上記には、以下のようなメカニズムが想定されています。
- 口腔内細菌が産生するアセトアルデヒドやニトロソアミンといった発がん性物質が細胞のDNAを損傷し、がんの発生に寄与する可能性。
- 歯周病などの口腔疾患が引き起こす慢性炎症が全身に広がり、組織の損傷やがんリスクの上昇につながる可能性。
- 特定の歯周病原菌と宿主免疫系の相互作用が、異常な免疫反応や炎症を誘発する可能性。
- この大規模な前向き研究では、歯の欠損や虫歯の総数(DMFTスコア)と肺がんリスクの関連性を評価しています。
- 特に、喫煙やアヘン使用といった他のリスク因子を考慮しつつ、口腔衛生がどの程度肺がんリスクに影響を与えるのかを探っています。
- アヘン使用というのは日本ではなかなかあり得ない状況だと思いますが・・・・
背景
- 口腔衛生の不良は、さまざまな全身疾患、特に複数のがんの種類と関連があることが示唆されている。
- しかし、肺がんとの関連については結論が出ていない。
方法
- 本研究では、イラン北東部に位置するゴレスタン地域の50,045人の成人を対象とした大規模前向きコホート研究であるゴレスタンコホート研究において、歯の健康状態と肺がん発生率および死亡率との関連を調査した。」
- Cox比例ハザードモデルを使用して、3つの歯科健康指標(欠損歯数、虫歯・欠損歯・充填歯の合計(DMFTスコア)、歯磨き頻度)と肺がんの発生または死亡との関連について推定した。
- これらの関連性について、潜在的交絡因子(喫煙やアヘン使用など)を調整した上で、ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。
- 年齢と性別ごとにローレス補正した予測値を基準に、欠損歯数またはDMFTスコアの過剰分を3分位に分類し、基準値以下の被験者を参照群とした。
結果
- 中央値14年間の追跡期間中に、肺がんの新規症例は119件、肺がんによる死亡は98件記録された。
- DMFTスコアが高いほど、肺がんリスクが段階的に増加することが確認された(linear trend、p = 0.011)。
- 基準値以下のDMFTスコアを持つ個人と比較して、DMFTスコアの第1から第3分位に属する被験者のHRは、それぞれ1.27(95% CI: 0.73, 2.22)、2.15(95% CI: 1.34, 3.43)、および1.52(95% CI: 0.81, 2.84)だった。
- また、欠損歯数が最も多い第3分位群では、基準値以下の個人と比較して肺がんリスクが1.68倍(95% CI: 1.04, 2.70)増加した(linear trend、p = 0.043)。
- これらの結果は肺がん死亡率についても同様であり、喫煙やアヘンを使用しない被験者に限定しても結果は大きく変わらなかった。
- 一方で、歯磨き頻度と肺がん発生率または死亡率との間には関連は認められなかった。
結論と意義
- この中東農村地域の集団において、歯磨き不足ではなくて、欠損歯数やDMFTスコアで示される歯科健康の不良が、肺がんの発生率および死亡率の増加と関連していることが明らかになった。
- 今回の研究は、口腔衛生が肺がんリスクに与える影響を明確に示した重要なものであり、欠損歯や高いDMFTスコアがリスクの上昇と関連していることが確認されました。
- この結果は、過去の研究とも一致し、歯周病や慢性炎症、口腔内細菌叢の変化が発がんに寄与する可能性を支持しているように思います。
- 一方で、歯磨き頻度との明確な関連が見られなかった点があり、臨床的には「歯磨きの励行=肺がんリスク低下」という単純な図式になるわけではなさそうです。
- 本研究の新規性は、中東地域で行われた大規模コホート研究として、これまで不足していた多様性あるデータを補完し、喫煙やアヘン使用を考慮しても口腔衛生が肺がんの独立したリスク因子であることを示した点にありますね。
- ただし、歯周病の直接評価や長期的な口腔健康の変化を追跡できていない点など、いくつかの制約があることも指摘されます。
- 最後に、この研究から得られる重要な教訓は、口腔衛生が単なる口内の健康だけでなく、全身の健康、特にがん予防にも深く関わる可能性があるということです。
- 私たち医療従事者は、患者さんに対して定期的な歯科検診や口腔ケアの重要性を伝え、早期の治療や予防的介入を推進していく役割を果たす必要があります。
- 皆さんも、歯を大事にしましょう!
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